On your mark!! Get set go!!
やがて、立ち並ぶ主要メンバーたちの前に立つと、初お披露目となったブリッジを見回したりなどしているオレたちの事をじっと眺めた後、
「みんな! 気は熟した!」
と、結晶卿は語りはじめるのであった。
「いよいよ、連邦との宇宙戦も激しくなる昨今、私たち、三日月連盟の悲願と言えば、要となる戦艦の存在だった! 太陽系連邦の所有する巨大宇宙戦艦、ヤマト、ムサシにも対抗できるだけのクラスの船だ。その道のりは険しく長いものだったが、多くの人からの援助のおかげで、今、とうとう、この建造計画も完成寸前というところにまでこぎ着けたんだ! 紹介しよう! 皆が乗っている、この船こそが、我らが宇宙戦艦! その名をツキヨミという!」
どよめきと歓喜がブリッジを覆い、それに合わせるかのように室内の照明が強弱を繰り返したり、既に作動されている様々な機器類の画面には、拍手する動作や、クラッカーが放たれるアイコンが次々に表示されたりすると、演出をおだてているようで、
(テオ……)
思わずオレが苦笑をする中、クリスタルの紳士の話は続いた。
「懸案事項だった巨大戦艦の問題はここに払拭された! また艦隊戦に対抗する為、この宇宙戦艦ツキヨミと戦いを共にしてくれる船も、今、連盟の元に集っている各星々の人々から、自らの船を提供しようという声が次々に届いている! 戦に不適な船も少なくないが、これらの武装化、空母化等の改装は、その扱い方も含め、グリバス団長を筆頭にした連盟の同志が同乗し、最大限のフォローをもって請け負う所存だ!」
名を呼ばれた我が剣の師は、ドンドンと、機械化した自らの胸を叩いた。そんな団長に、結晶卿は頷いてみせた後、今度は、オレのすぐそばにあるイヨの方に視線を移し、
「次々に届いた声とは、ここにいる太陽系連邦元総裁、イヨ殿の粘り強い呼びかけのおかげであり、そのおかげで、共に手を携えようとしてくれる星々も、更に増す一方の勢いとなっていると言って過言ではないだろう!」
と、語りを続けた。
気づけば、この広大な銀河系の果てまで、毎日、メッセージを届かせようとしている彼女の姿に、誰一人、非難する者はいなくなっていた。ルームメイトとしても、毎朝、胸元に連盟のバッジをつけたスーツ姿に着替えれば、キャリアウーマンのように、本部内の通信施設へと向かう後ろ姿は、颯爽としていて、誇らしくすら思えたほどだ。今や帝政と化したオレたちの祖国だが、太陽系連邦最後の総裁としてのイヨの発信力は尚、強烈であり、一度は屈服した星々や、面従腹背で耐えてきた星々も、次々に、黒地に銀の月が映える旗の元に集おうとする一端を担っているのが、今や彼女の存在だった。
そして、結晶卿は、
「戦艦ツキヨミの艦長はイヨ殿だ! 彼女は、星々への呼びかけだけでなく、今日、この日を迎えるまで、この巨大な船の性能の熟知にも費やしていてくれていたのだ! そして彼女は見事にそれをやり遂げてくれた! 故に知識においても、そして、その存在としても、今や、私たちの虎の子である、この巨大な船を任せるには適任ではないだろうか!」
と、それには、驚きも波打ったにせよ、かつてのように反発する声は何処にもなく、寧ろ、賛成、賛同の声も相次ぐ中、
「……彼女は人知れず、我々が不慣れである艦隊戦のセオリーすら、研究してくれていた。皆で、イヨ殿と共にこの船に乗ろう!」
卿の呼びかけに、皆が続いていく。
(…………!)
オレはとりあえず、驚いていてイヨの方を見た。喝采すら送られる空気の中、オレの隣に立つ彼女は、視線に気づくと此方に向け、少し自慢げにフフンと鼻を高くもしたが、
「ほら……テオもいたしっ!」
なんて、いたずらっぽく内実を、小声でばらしてみせたりもした。
「……や、にしたって……」
と、オレも小声で返す。正直、連邦領内への呼びかけ以外に何をしているのかのほとんどは、「きーみーつっ!」の一点張りで何も話してくれず、たまに、通路の隅で、結晶卿と、手にした端末のパネル画面なんか覗き込んでは、顔も近づけるように何やら話し込んだりしている姿なぞ見かけてしまえば、元来のやきもち焼きのオレのしょうもない部分が、もやもやしたりもしたものだが、どうやら答えはこの日にあったらしい。
「これまで機動力で圧倒的に勝る連邦に、我々が対抗できる最大の武器とは、みんな。つまりはそれぞれの個性を最大限に活かした組織力だった……」
結晶卿は話を変えた。
「その中で、先の任務における、白兵部隊の損害は、私たちにとっても大打撃であった……。だが、その傷も癒えつつあり、新たな精鋭も加わる事で、再編成され、生まれ変わろうとしている!」
(…………)
どうやら、この件に関してはオレもからんでいるようだ。こちらに視線をむける、師でもある存在に、少しはにかむように笑みを作り、返すと、やがて、結晶卿は、オレと、これまた隣に立つシリナの事を交互に見るようにしながら、
「……そして、私も再び前線に立とう。よろしくね。……タケル君、シリナ姫」
名指しをされ、今度は思わず、オレとシリナで互いの顔を見るようにしていると、
「今こそ、私たちは、いつの頃からか『第一次宇宙大戦』などとも呼ばれるようになってしまった、この最悪の事態を終息させ、銀河に自由を解放し、未来へ向け、共に歩む日を迎えるために、前進しよう!」
語り続ける結晶卿の言葉には、決して「勝利」という二文字がないところが彼らしかった。
やがて、卿は、自らが握りし三日月の頭の杖を、天に掲げるようにすると、
「自由への解放を! そして未来に目を向けて、共に!」
と、宣言のように三日月連盟のスローガンを放ち
「自由への解放を!」
オレたちも大声でもって、答えるのであった。
一先ずのお披露目会がお開きとなった後、やがて人々が、時に意気軒昂にすらしてばらけてゆく中、
「……道理で最近、見かけないと思ったよ~」
オレは見回すように、今では我が家の住人の唯一の生き残りである機械に語りかけると、
「申シ訳ゴザイマセン。坊チャマ」
船と一体化したテオは答える。
「……デスガ、今ノ坊チャマニ心配ナ面ハ一ツモゴザイマセン。バイタルハ良好。精神状態モ非常ニヨロシイヨウデス。シリナ様ト、イヨ様ニハ、コノテオ、感謝シテモシ尽クセマセン。イツモ、坊チャマヲ、アリガトウゴザイマス」
「ちょい! ちょい、ちょい!」
相手は人工知能の事である。いくら船に取り付いたとは言え、施設内を経由すれば、自らの主の暮らしを見守る事など、朝飯前なのであろう。相変わらずの保護者気分に久々にあてられ、こそばゆくなれば、つい、口にでる言葉は、気恥ずかしさであるというのも当然だ。
名を呼ばれた女子二人は、少し困惑気な顔で笑みを作りながら、オレの両隣から互いの顔を見合わせていたが、
「……このテオの搭載こそが、この船の最大の武器さ」
やがて、オレたちのところにやって来た結晶卿は、ツキヨミの性能について語りはじめるのであった。
「協力者の情報によると、ヤマト、ムサシ、その戦闘能力こそ最強と言っていいが、搭載されてるAIなどは追従型で、人の指示の主導に依る部分が多いそうだ。その点、テオは、思考として自立している。正に、船そのものが連盟の隊員、同志、という寸法さ」
「タケル坊チャマ、旦那様ノ無念、私モ、全面サポート致シマス!」
卿の言葉に続くようにして、テオの声がブリッジ内に鳴り響く。
「いつか空母戦艦を持つとは言え、私たちがずっと議論してきたのは、ヤマトやムサシの、そのポテンシャルをいかに凌駕するのかが懸案だった。君の宇宙船が、天照宮殿の関係者のみしか持ちえない設備であると知った時、天啓を見た気がしていたんだ。もちろん、本人の快諾があったからこそ成し得た事だけどね。これで二隻との実力は五分…………。若しくは、それ以上かもしれないと言っていいだろう」
クリスタルの紳士の分析に答えるように、今度、テオは、機器類の画面という画面に、親指を突き出すアイコンを表示させてみせたりしていた。
全ては宿敵スサノオを討ち取るため、グリバス主導の剣技の訓練にオレはますます食らいつき、結晶卿からもたらされる「力」の指南にも邁進し、且、持ち前のパイロット技術をも更に高め、ハイスコアを自己更新しては、グリーン4の任務として、未だ、本部周辺の星々の偵察のみで終わっている事に、モチベーションが疼くほどの日々が続いた。そして、「力」の覚醒が深化するにつれ、オレの剣技も、いよいよ地球人離れしていくようであったのだ。
とうとう、その日、全ての手にレーザーサーベルを構えていたグリバス相手に、小烏丸を構えたオレが挑みかかれば、とうとう、団長を倒してしまった。打ち負かされたグリバス団長が、肩で息をするオレにかけた一言と言えば、
「よくぞここまで……よくやった!」
という満足気な眼差しだったのだ。
太陽系連邦と三日月連盟の勢力図は、相次ぐ星々の反乱の中、連盟側の活動可能な範囲も順調に拡大し、今や天下を二分するほどに拮抗すると、いよいよ二大勢力による全面衝突は目の前だったのである。
今宵も、太陽系連邦前線基地にある、スサノオとクシナーダが共に住まう「提督室」の巨大なベットには、全裸の二人が横たわっていた。床には、互いを激しく求め合うようにして脱ぎ散らかされた、白色基調の襟元には、太陽の御旗が施された、連邦の制服や甲冑などがひろがっている。鍛え抜かれた腕を枕変わりに、その筋肉をなぞるようにしながら、ふと、クシナーダが、満足気な笑みのままに、
「スサノオ様ったら……悪い人」
などと、口を開けば、
「ほう……?」
お決まりの不敵な笑みで、スサノオが答え、
「あれから、わざと連中を泳がしてらっしゃるんでしょう? 皇帝陛下も皇配陛下も恐々となさっておいでだったわ。あれでは、少しは可哀想というものよ……」
クシナーダが話しているのは、基地に立体映像でもって通話を促してきた、はるか遠くの首都星にいる、首脳陣たちの事であった。だが、責め立てる口調は柔らかく、その唇などは、今や、愛おしげに、スサノオの肉体に何度も口づけを繰り返したりしているのだ。その光景を眺めては、
(愛いやつめ……)
スサノオは思いつつ、
「クシナーダよ。俺は宇宙を支配する『力』を手にしている男だ」
語りはじめれば、
「知ってますわ。お話してくださいましたもの」
女は、しなだれるように恍惚としている。
「……だがな。あの日、同じ『力』を手にした者を感じた」
「……なんと?!」
そして恍惚としてたはずの女の顔が、表情を変えてスサノオを見上げれば、
「だが、そいつは……俺にある『力』とは似通っていながら……微妙に非なるものだったのだ」
じっと天井を見つめたままに、男は淡々と語り続けたが、
「そんなこと、許しませぬ!」
それを遮るように昂ったのは、クシナーダであった。
「宇宙に選ばれたのはスサノオ様、ただお一人! それで充分! それ以上の事はあってはなりませぬ! スサノオ様こそが唯一無二の『力』の持ち主! 私は……! 私は……!」
すっかり、自らの上官に心酔する女性軍人の顔に戻ってしまった碧眼の瞳が、半身をあげてスサノオを見つめ、強く輝いている。そんなクシナーダを、相変わらず、フッ……とした、不敵な笑みで見つめ返すと、
「だからこそだ。野良猫をおびき寄せるための美味い餌を撒いてやっているという事だ。皇帝も皇配たちも、俺に何一つとして歯向かえない事は、クシナーダ、お前が一番解っているだろう?……前線の王は俺だ」
スサノオは言い、その乳房など鷲掴みにすれば、途端に、一時の軍人の顔はすぐに成りを潜め、クシナーダは女に戻り、今や、互いに愛撫すら交わしあいはじめたのだが、ふと、その脳裏によぎったのは、
(あいつ……『光』でも……『闇』でも、なかったぞ……)
という己の感覚の記憶であり、
(さしずめ……灰色の侍、といったところか。来い……! お前を狩ってやる……!)
スサノオは、権力への渇望と共に、「力」に飢えた、一介のつわものだった。だからこそ、今、自らの本能に、武者震いすら覚えていたのだ。
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