一介の剣士
その日は他の訓練生たちとの合同演習だった。グリバスの「はじめー!」という一声と共に、乱れ稽古となったのだ。気づけばオレは、そこそこな腕前の剣士となっていて、未だにたまに被弾もあったしろ、相手の銃から放たれるレーザービームも刀身で打ち返す術すら体になじみ、時に、怪力自慢の訓練生の剣技には圧倒される事もあったにせよ、そんな時は機転をきかして、相手が調子にのって振り回しはじめれば、ギリギリなところでよける事に徹し、いよいよやばいという局面になると、
「あっ!」
なんて一言と共に、あらぬ方向に視線を向け、猛者が、
「え?」
と、つられてそちらに向いてしまえば、
「隙あり!」
なぞとニヤリと笑い、一気に攻め込み、斬り倒してやった。刀身のレーザーの出力は最大限に押さえてられているが、オレより遥かに巨人の宇宙人訓練生は一撃に悶絶しながら、
「くっそー! きったねーぞー!」
と、悔しがっている。
「オレの地球の祖国にはさ、大昔、侍って剣士たちがいて、そんな侍の中から、はじめて国を統一した人がいたんだよ! その人の口癖が『どんな手を使ってでも勝つ事じゃ!』だったらしいよ! 悪ぃ。オレ、その人の影響、めっちゃ受けてるんだわ」
「ううむ……さすが地球人、恐るべし。だが、いい試合だったぜ!」
オレは一度、納刀し、おどけて語りながら、相手に微笑みかけ手を伸ばした。巨人の同志は、痛手に尚も顔をしかめていたが、ガッシとその手を握り返して、立ち上がるのであった。
多少、卑怯な手だが、オレにはオレなりのスタイルすら確立できつつあったのだ。訓練生のほとんどが宇宙人の中、周囲に全くひけをとらぬ格闘スキルを手にしつつある弟子の、いよいよ地球人ばなれした急成長ぶりを、
「ううむ……!」
と、師匠グリバスは唸りながら眺めていた。
この頃、オレはいよいよ伸びたざんばら髪を、まるで、自国の歴史のアイデンティティでも表現するかのにように、丁髷風に結っていた。
その日も訓練を終えた頃の事だった。最早、すっかり意気投合した、訓練を共にした同志たちと笑顔で挨拶をかわしながら、夕日差し込む通路にて、汗をふきつつしていると、なにやら巨大な影がのそりとオレの真上を覆うではないか。見上げれば、そこにいたのは罰もわるげな顔をした、ハイデリヤ一の怪力ぞろいであるオロニル族の酋長、マグナイで、
「うむ……モルの姫に、言われてな……初戦にしては大戦であったと聞いている。……『悪鬼』にも取り憑かれたともいうが……うむ。やはりいい目となってきているではないか」
などと、なにやらブツブツと言いながら、やがては、オレの事をしげしげと眺めると、
「余輩には、解らぬのだ」
今度はすっかり困惑した顔となる始末ではないか。マグナイは語り続けた。
「男とは戦う者だ。そして、戦とは、大いなる戦であればあるほど、男にとっての勲章であろう? 傷が深いのならば、誰よりもたくましく乗り越えればよいだけの事ではないのか?」
(……頭の中、筋肉かよ……)
そして思わずオレは苦笑するほかなかったが、マグナイに、悪気があるわけではない事はよくわかった。
「実は、モルの姫に、お主の『神降ろし』を聴かされたのだ」
困惑な筋肉男は尚も語り続ける。どうやら彼は、シリナの療養暮らしのひまつぶしにでもなればと、オレが渡した、自分自作の曲が収録された録音端末を聴いた様子だ。
「ふむ……いかにお前が戦いに不得手なのかがよく伝わってくるかの様な、少なくともオロニルにはない繊細な調べであった。……悪くはない」
(……そりゃどーも)
誉められてるんだかけなされてるんだか、もうわけが解らない。これでは変わらず苦笑のままにいるほかない中、
「……だが、今やお前は神の音を歌うだけでなく、武人ともなったのだ。余輩は、お主は奏で、また、戦えば良い。としか思えん。今はいい目となったのだから尚の事、よかったではないか」
(……ほんと頭の中、筋肉かよ……)
オレはもう一度、改めて苦笑するしかないのであった。
ふいに、ガツ―――――ン!! とした、大きな音が床に響いた。今や、マグナイは、背負っていた愛用の斧を振り下ろすと不敵な笑みを浮かべていて、
「……お前の目を見ていたら、血が騒いできた。どうだ……?」
と、今日はもう使う予定もない訓練室の自動ドアを、顎で指し示してくるではないか。
(……なーんでそうなる……)
オレは、マグナイの、正に宇宙人的思考に、思わず白目の一つも向きたくなったが、自分でも驚くほどの、自らの成長ぶりを試したくなったのも事実で、挑戦的な笑みを浮かべては見返すと、その誘いにはのっかる事にした。
なんだか、それは、ライブに飢えに飢えていた学生の頃を思い出すような心境だった。
夕映えの訓練室のコートには、巨大な斧を構えた異形の同志の大男と、レーザーサーベルを両手に握った、丁髷のオレの二つの影が伸びる。地球人の中でなら、割とオレも長身である方だが、ここまで自分を凌駕する体格の人間もいるのだから、宇宙とは、世界とは、実に広いというものだ。
「来い……!」
マグナイがニヤリと挑発してくれば、
「あ……?!」
オレはあらぬ方を見て何やら驚いてみせた。
「うむ……?」
「隙あり!!」
相手がそれにつられればこっちのものだ。
DAH!!
オレは蹴り上げると、髷を震わせ、すっかり地球人離れしかけている跳躍力でもってマグナイの懐に飛び込み、刀身を突っ込んでやろうとした! 際に!
ガキーン!!
マグナイの斧術がそんな甘い手法で崩される事などなかったのだ。太く長い柄でもって、サーベルの刃はあっけなく塞がれている!
(……ま、甘くねーわな……)
「……フン……!!」
オレの苦笑を、マグナイは笑みで返し、すぐさま、腹の底から力をこめては、押しのける! あっけなくオレは吹き飛んだが、派手に滑る音を、ズサーーーーー!! と、立てながらも着地をすると、
「……なかなか、いい戦法ではないか」
訓練生とは違い、百戦錬磨のマグナイは言う事が違った。
「……だろ~?」
不敵な笑み同士はぶつかり合う。そしてマグナイは、ブンブンブンブンブン………!! と、派手な音を立て斧を振り回しはじめ、
「……だがな。何度も通用するものでもないぞ。戦とは、待ってはくれんからな!!」
言い切った途端には、突風の如く、オレに突進してくるのであった!
「……おっとっと……!」
流石に目にも止まらぬ速さであったが、訓練を重ねてきたオレが動揺する事もこれまた少なく、ギリギリのところで視界が追いついた刹那!
ガキ―――――――ン!!
とうとうマグナイの斧術とオレの剣技は、正面をきってぶつかり合うのだ!
それは斧とサーベルがぶつかり合った力比べの一時だった。互いに両腕を震わせる最中、
「ほう……相変わらずの細腕ではあるが、肉もついてきたな……!」
マグナイが笑みを送ってくれば、受けて立つオレも、なんとか笑みをもって返してはみせたものの、
(……や……しかし、なんてバカ力……)
流石にいつまでも持たない事を悟ると、際に、払いのけ、オレは後方へと退き体勢を立て直そうとする!
「甘い……!」
「えっ……うわったったっ!」
マグナイはパワーもさることながら、スピードも、それはそれはシリナ並に半端なかった! 途端に、斧を振り回すマグナイは、オレに追いつき、こちらの立て直しの隙なぞ与えない!
尚も桁違いのパワーとスピードで攻めてくる相手に対し、なんとか避けるのでオレは精一杯になっていった! それもそのはずだ! マグナイはシリナと同じ、銀河系一の戦闘民族、ハイデリヤ星人ではないか! ただ、矢継ぎ早に繰り出す斧の一撃を、ギリギリながらもかわすオレに、
「ほう……!」
マグナイは感心すらする余裕を醸し出している!! もしかしたらマグナイは、相手が地球人という事で、これでも手を抜いてるという事なのか!
(……くっそ!)
実力の差がでてくるのは時間の問題であり、オレはとうとう、完全に押されっぱなしとなっていった!
「どうする……? タケル……降参を表すなら、余輩も斧をおさめてやってもいいが……?!!」
尚も嵐のような斧さばきの中、マグナイは、あからさまに不敵な笑みをオレにぶつけてくる!
(…………!)
いくら、民族特有のハンデもあるとは言え、オレはなんだか、非常に頭にきて、キッと睨みつけてやった!
「ふっ……いい目だぞ……タケル!!」
そしてマグナイは、更に目をカッと見開いては、笑みを深め、差し迫ってくる勢いではないか!
ここまで来ると、この勝負、オレはどうしても勝ちたくなっていた。
だが、まるで嵐のような音が、BUWAAAAAAAAAN! BUWAAAAAAAAN! とすら聞こえる、マグナイの斧の攻撃は容赦がない!
(一瞬でも動きさえ止まってくれりゃ……!)
そして、険しい顔のままに防戦一方のオレは、心底そんな事を思い、何を思ったか。ほとんどやけっぱちに手の平を相手に向け、
(……止まれ!)
と、心の底から念じた刹那!
「う……む……?!」
猛烈であったはずの斧の斬撃はピタリとやんだのだ! マグナイはまるで動かなくなった自らの体に戸惑っているような素振りをしている!
「え………?」
オレも目の錯覚かとも思ったが、この勝機、逃す手はない! すぐさま、剣を持ちかえ、
「隙あり!!」
言い切った瞬間、脱兎の勢いで切っ先を、マグナイの眼前の寸前まで突き出したところで、勝負ありであった!
尚、剣を突き出していたオレが、顔も険しく「ぜーぜーハァハァ」と肩で息をしている中、あれだけ斧を振り回しておきながら、マグナイは全く普段通りであったのだが、驚いた顔の後には、フッとした笑みを作り、
「……地球人ごときが、魔法すら手にしよって」
と、語りかけてきたのだ。
辛勝だった。尚も息も荒いまま、オレが自らの手を眺め、起きた不可思議な出来事を反芻していると、
「もう……! あなたたちという人は……!」
凛とした声が、コートには響き、マグナイと共に視線をやれば、尚も電動車の椅子の姿ながら、退院もまもないシリナが、口もへの字にオレたち二人を厳しく睨んでいて、
「マグナイ! 私は、タケル君とこんな事をしてもらいたいと、思ったわけではありません!」
と、厳しい口調のままに、こちらへ向かってくるではないか。
「ふむ……親睦は深められたと思うが……?」
マグナイは愛用の斧を背に戻しつつ、何やら真剣に首をかしげている。
「タケル君が大怪我でもしたら……!」
「モルの姫、こやつなら、もう大丈夫だ。無論、まだまだだが、最早、剣士、と言っていいだろう。余輩が認めよう」
「そういう事を言ってるわけではありません!」
マグナイはシリナの険しい顔の意味をも全く解らぬままに、語り続ければ、オレの肩に手をのせ、
(マグナイ……)
オレはすっかり友と思えるような、巨人の男を見上げていた。
今や、互いに肩を組み、互いの健闘を称え合っていると、
「まったく……!」
とうとうオレたちの目の前まで辿り着いたシリナは、すっかり呆れていて、
「タケル、今は主に、機械の鳥の使い手のようだが、それだけの剣さばき、埋もれさすは勿体ないというもの。どうだ? 余輩らと共に、突入を試みるというのは?」
「えー……まあ、考えとくわ!」
マグナイの勧誘には、オレはおどけて答えてみせ、
「マグナイ……! ……それにタケル君まで……っ」
そして、口をへの字にしていたシリナであったが、一度、肩をすくめてはみせたものの、もう一度、笑顔と共にオレたちを見上げる瞳は、まるで、わんぱくな自分の息子たちでも眺めているかのようで、やがて、なんとなく互いの顔を見合わせた者同士、三者三様に笑ったのだった。
それは夕日の中の、とても平和な光景だったが、それも束の間、従者のドローンの音がBOOOOOOM……! と横切ったと思えば、テオはひっきりなしにオレたちの周囲を周回していて、
「坊チャマ! 坊チャマ!」
と、今日もなんだかしきりにうるさいのである。毎度の事ながら、「……お前さー。タイミング!」くらいの小言を言ってやろうとしていると、
「旦那様ガ……!!」
(……………!)
その一言には、オレの表情の方が一気に切り替わるのであった。
オレ、シリナ、マグナイが、テオに連れられて管制室という一室に飛び込むと、既にそこには、イヨに結晶卿の姿もあった。そして、何人ものオペレーターが、ハイテク機器類を前に任務に従事している中、結晶卿は一つの無線をオレに聞かせ、
「……どうだい?」
と、問うてきたのだ。
今、尚も、この三日月連盟の本拠地のある星の軌道上にあるという宇宙船から、自分たちは「革命派」というレジスタンスである。是非、この星への着陸の許可を願いたいと、繰り返し懇願している男の声は間違い様がなく、
「オヤジです……!」
オレは確信をもって答え、
「やはり! ならば、話は早い!」
そして結晶卿は即決し、「革命派」に向けて、語りかけはじめるのであった。
とうとうゲートの一角には、ボロボロの宇宙船が到着し、やがて、中からでてきたのは皆、地球人で、各自武器を携えながらも、ボロ衣をまとった放浪者のような身なりは、皇宮警察隊の制服ではなかったにせよ、オレには、見知った顔ぶれも多かった。そして、遂に、最後に現れた顔を見た瞬間、オレとイヨは、
「オヤジ!!」
「リュウさんっ!」
と叫んでは、駆け出していて、
「旦那サマ!」
テオなぞ、グルグルと上空を周回し喜びをあらわしていたのだ。
ますます日焼けでもしたかのような髭もじゃの父の顔は、オレたち二人と一体をしみじみと眺め、
「タケル……いい髪型になりおって……そして、総裁閣下も、よくご無事で……! テオもな!」
と、涙すら浮かべていた。
そして、三日月連盟は、疲弊しきった彼ら「革命派」を受け入れ、暫くは、この本部で静養をとる事を許可するのであった。
その日、オレとオヤジは、連盟本部が運営するカフェの一角にいた。オヤジは、店内で活気づいている多種多様な宇宙人たちの姿を、感慨深げに眺めつつ、やがて口を開き、
「『守旧派』の者どもには完全にしてやられた……不覚……そして、無念にも、宮殿を脱出し、地球をでざるを得なかったのだ」
ただ、木星にいる大富豪の老婦人が手助けしてくれたのだという。オレはシリナと出会ったあの日の老婆を思い出していると、
「……そして、系外を出、あまたの星の中を旅してきた。時に、多くのテロリストたちと共闘しながらな。まぁ、警官の風上にもおけぬな。そんななか、やっとのことで、この拠点を知る事ができた。この銀河系を救う事ができる、唯一の希望の城である、この拠点を、な」
そう言ってから、柄にもなくおどけてみせた後は、相変わらずどこか仰々しかったりするのだから、思わず苦笑していると、
「タケル……どうだ。総裁閣下は? ……お前にピッタリのお相手だと思うのだが」
今度は大真面目にオレの顔を覗き込み、唐突な事を言い出すではないか! オレは口に含んでいたアイスコーヒーを、思わずプーっと漏らすところであった。
「……まぁ、よい。同じ屋根の下、じっくり育つ愛もあろう。ところで、お前、剣をよくするようになったようだな。ならば、丁度いいというものだ……」
言ってる事の半分は相変わらずよく解らなかったが、やがて自らの荷物の中をゴソゴソとやりつつオヤジは語りつづけ、そうして、テーブルの上に、長方形の木箱を置き、蓋を開けると、中身は一振りの日本刀であるような武器があったのだ。
「オヤジ、これは……」
化石でも見るかのようにしてオレが驚いていると、
「我が一族の家宝、名刀小烏丸だ。これからはこれを使え」
「…………」
オヤジの言葉に続くように、オレは、おもむろにそれを取り出し、長く、黒い鞘から引き抜いてみた。すると、その刀身は今日の主流である、レーザーが剣状にほどばしっているものではなく、全く旧式の金属製だったりするではないか。
「オヤジ……」
オレはすっかり苦笑しきった顔をオヤジに向けたのだが、父の眼光は鋭く、
「……小烏丸を、ただの刀と思うな」
などと、言い切ったのだ。聞けばそれは、かつて連邦が占領した、今は無き星で発見したという、謎の金属でできているらしいのだが、当時の一流の職人が鍛えに鍛えぬいた得物である事は間違いないらしく、時を経て尚、現在でも、巷のレーザーサーベルに勝る逸品であり続けているそうなのだ。
「まさか、これを手渡す日が来ようとはな……他にも未知の力すらも備えているらしいが……試してみるか」
オヤジは最後、そう付け加えた。
人生初の父子対決が故郷の地球ではなく、はるか彼方にある星の、反政府軍の訓練室であったりするのだから、人生とは本当に、何が起こるか解らない。今や、オレの目の前では、警察時代からの愛刀を既にオヤジが抜刀している。
(……………)
カチャリ……という音を立て、オレは腰元にある新しい得物を引き抜いてみた。レーザー状の剣にはない重みを感じたが、決して悪くない。
「来い!」
髭もじゃの喝が飛べば、
「おりゃ!」
オレは応じ、 DAH!! と、駆け出す!
際に、ガキ―ン! と、刀身はぶつかりあったのだが、途端に、父のサーベルのレーザー部分は粉々に吹き飛んでしまったではないか!
「えっ…………?!」
「……これが小烏丸だ……!」
オレがあまりの威力に呆然とする中、オヤジの顔の方がニヤリとしていた。
その夜、オレは結晶卿に呼び出される事となった。今日もキッチンにて、もてなしのコーヒーを淹れながら、
「団長から、君の成長を聞かされてね……」
そう言いつつロボットに持ってこさせたのは、灰色をした着物と紺色の袴のデザリングのものと黒いブーツ、そして肌着のような、襟元にボタンのついたシャツが一枚であった。特殊繊維でできていて、防御力も充分あるというそれらを手に取り、眺めていると、
「気に入ってもらえるといいのだけれど……君の新しい戦闘服だよ」
「……灰色すね」
卿が淹れたコーヒーを運ぼうとする中、とりあえず適当に答えると、
「タケル君。黒と白、混ぜ合わせれば何になる?」
結晶卿は問い、
「灰色、すね」
オレは答えた。すると卿は頷きながら、
「そうだね。君には、我らが三日月連盟と、君の祖国である太陽系連邦の橋渡しになるような剣士になってもらいたいんだ。そんな私の気持ちをこめさせてもらった」
(ふ~ん……)
眺めながら、ふと、気づいたのは、黒い闇に浮かぶ銀色の三日月のロゴが何処にもない事だった。すると察したリーダーは、
「音楽家でもあるわけだし、君は自由であるべきだったんだよ。寧ろ、あんな物々しい軍服を支給してしまってすまなかった。これからは、この一式で、私たちの戦いに協力してほしい。……そして戦闘機乗りだけでなく、白兵部隊にも所属してもらえるとありがたい」
(うぇー……掛け持ちかよ! ブラックかよ!)
予期せぬ打診には、冗談まじりでも呻きたくなったが、確かに今のオレは、自分の剣技にも自信を深めはじめているし、先祖伝来の剣まで伝授されたばかりで、そして、オレもあの父の子という事なのだろう。シャツを下に着込んだ書生風ではありながらも、黒い刀の鞘を腰に、着物袴で覆われれば、太古にいた剣士にでもなれた気分で、悪い気なども全然しなかったのだ。
イヨは、全銀河に発信するという業務上、襟元に連盟のバッジをつけたスーツ姿で出かけていったり、シリナやマグナイたちは自分たちの民族衣装で戦地に赴いたりする。一応の制服も存在し、多くの隊員がそれらを着用しているとは言え、規定となってるわけではないところも、三日月連盟の持つ「民主主義」というものがなせる技であった。
ただ、オレの侍姿を見、オヤジは「まるで先祖を見ているようだ!」と感涙したし、シリナやマグナイも、太古の地球の戦士の姿に、絶賛や感心を示してくれたが、
「プププ! タケル、なあに、それー!」
と、同居人のイヨだけは大爆笑であった。
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