そして、戦争ははじまる
その夜、予想外に結ばれてしまったオレとイヨではあったが、後の暮らしの中では同じ事が起こるはずもなかった。ただ、まるで何事もなかったかのような会話を続けながら、時に、ぎこちなさはあったかもしれない。オレが相変わらずギターを弾いて歌い散らかしては、
「ま、まあまあいいんじゃないの~」
なんて、つっけんどんな感想すらも変わらないにしろ、二人の間の空気感にえも言われぬ変容があった事は事実だ。
(……………)
時に、オレは、その後ろ姿に、宵闇の中で見た熱っぽい背中の肌の記憶を重ねてしまった事もあったし、彼女もまた、オレの見えていないところで、あの日のように瞳を潤ませ、此方を見ていた事だってあった、そんなある日、
「随分と待たせてしまったね」
とうとう結晶卿は満面の笑みをたたえて、オレとイヨの部屋に訪れたのだ。そしてすぐ隣には、久々ぶりのシリナの姿もあるではないか!
「や、やぁやぁ! シリナさんじゃあーりませんか!」
「…………っ!」
先ずはオレは旅の仲間との再会に歓喜し、おどけるように挨拶してみせると、一瞬、イヨは、そんなオレの事を、口を真一文字に睨みつけるようにした事には気づかなかったが、
「二人とも、お元気そうでよかったです!」
「お、おひさし……!」
シリナが屈託なくオレたちに微笑んでくれば、イヨも気を取り直したふうにして、明るい口調で返事をかえしていて、
「……お二人とも、大変な暮らしだったんじゃないですか?」
「ま、まあ、それほどでも……………?!」
シリナの問いかけに対しては、ふたりは途端に共に顔を真っ赤にしてしどろもどろに答えたりすれば、
「……?」
オレとイヨの反応に、シリナは首をかしげるほかないのであった。
「……とりあえず、そうだな。我々の施設のカフェに案内しよう」
語りかけられ、ふたたび結晶卿に案内されて行く通路内では、オレとイヨに対する、行き交う様々な宇宙人の視線は相変わらず厳しいし、それは、連盟の職員たちの憩いの場として提供されているという、カフェでも同じ事であった。
(…………)
オレもイヨもあまりいい気持ちはしないなりに、銀色の丸テーブルとなった一角に卿やシリナと共に着席する。批判がなくなっただけでも少しはましというものであろうか。やがて、ブラックコーヒーに、ロイヤルミルクティー、ほとんど牛乳としか言い様のない元コーヒーのカフェオレ状態のようなものを前に三者三様にしていると、
「シリナ姫には、早速、連盟の一員として任務をこなしてもらっているんだ。いやあ、ハイデリヤ人の皆には本当に助かってもらっているよ」
「結晶卿、姫なんて、やめてください。それは私たちの部族の中での事で……」
結晶卿がにこやかな顔つきで語りはじめれば、照れながらシリナが答えたりしていて、どうやらこの様子は、オレとイヨが隔離されている間に、すっかり日常化したやりとりの一部のようであった。
ハイデリヤ人たちは、他のどの種族をも凌駕する、その身体がもつ圧倒的戦闘能力を買われ、連盟の白兵部隊の兵士であったり、関連施設の警備などを任されているらしい。
「……貴方が来てくださったおかげで、ハイデリヤの人々も、より一層、私たちに門戸を開いてくれた気がしている。本当に、感謝している」
「そ、そんな、皆が頑張って働いてくれているからです」
今や、結晶卿はシリナに深々と頭を下げたりしていて、シリナはすっかり恐縮しきっていた。
そんな二人の実力は折り紙つきだし、我が祖国の、化石のような時代の言い回しだが、「実るほど、頭のたれる 稲穂かな」なんて言うのは、多分、彼らみたいな人たちのためにあるのだろう。などと、ぼんやり思っていると、オレたちを覆う程の影を感じたので、見上げれば、愛用の巨大な斧を肩に担いだ何時ぞやのハイデリヤの大男が、シリナと同じ、目から発光している眼もそのままに、オレの事をジッと見下ろしていたのであった。
(な、なんだよ……?!)
「……どうしたんだい?酋長マグナイ」
その圧倒的な迫力を前に既にビビりながらも、訝しげにオレが見返す中、結晶卿が訳を聞こうとすると、
「なに……強き男、卿よ。お主に話があるわけではない。……今日が釈放だったであろう」
マグナイと呼ばれた斧使いは、尚もオレの事を無表情に眺めては語りはじめ、
「おい。地球人、聞けばお前の父は防人であるそうでないか」
(……………)
既に自分のある程度の事に関しては組織に把握されてるオレだが、尚も何も答えず(られず)にいれば、
「……その実子とは到底思えぬ、なんとまぁ、貧弱な体つきよ。姫、こんな、枯れ葉にもならぬ肉付きの男を、何故にかばう?」
(……………!)
いくら自分の体格が良すぎるからとは言え、なんとまぁ、無礼な事を言ってくれるであろうか。オレにも一応、プライドというものがある。
だが、「こんにゃろう!」と睨み返したくてもできないから、つい、視線は宙を浮いてしまったりした瞬間、
「おやめなさい!」
「ちょっとっ!なんなのよっ!あんたっ!」
思わず立ち上がって巨人に抗議したのは、シリナとイヨが同時で、それには先ず、シリナがイヨに驚いたりしたのだが、
(……………)
ハッと我に返ったイヨの方が着席し直せば、
「こ、この方は『神と繋がる者』なのですよ!」
シリナはマグナイをもう一度、睨みつけると、マグナイは、オレをあからさまに見下す顔をして、何やら聞いた事もない言葉と共に、冷笑を浴びせてくるではないか。
「そんな無礼な言葉、モル族の姫として許しません! それがオロニル族の民意なのですか!」
ハイデリヤの言葉が唯一解るシリナは猛抗議していた。こんな時、シリナはどこまでも猛々しく、そして毅然としている。
「ふん。地球に毒された姫よ。お主も知っておろう。余輩らオロニルの部族は力こそ正義だ。確かに『神と繋がる者』の存在も大事ではあるが、モルの者ほどでもあらぬ。ましてや地球人なぞが奏でるもので、我らの魂、決して高揚なぞするものか」
(……………!!)
そしてマグナイは、一方的にそう言い捨てると、愛用の斧を肩にかつぎなおしては去ろうとしたところで、漸く、自らを物凄く冒涜された気分となったオレは、殺意すら浮かび、その背中を凝視するのであった。やがて困惑した顔のシリナはこちらを振り向くと、今日も、旅の道中でイヨに見立ててもらった地球人女子風の格好のままに胸に手を当て、
「タケル君、ごめんなさい。ハイデリヤの民として私が謝罪します……」
と、語りかけ、尚、此方が収まらずにいると、
「ターケールーっ。どうどうどうどうっ。あんなやつ、気にする事ないわよ~っ」
今度は、まるで動物でもあやすように、イヨがオレの背をさすっていたのである。
(……………)
尚も睨みはやめないままに、漸く、立ち上がりかけた自らの腰を下ろすと、
「……」
シリナは、イヨの、尚、オレの体をさする仕草に、気にする素振りを見せていたのだが、そんな一部始終を、まるで見透かすようにしてジッと眺めていた結晶卿が、やがて穏やかに口を開き、
「……マグナイには、後で、もう一度、私の方からも言っておこう。決して悪い人間ではないんだ。いつか分かり合える時も来るはずさ。ところで、君たちを釈放としたお祝いだ。私たちが解放した星系の人々の暮らしを見て回らないかい?」
と、久々の宇宙の旅へと、オレたちを誘うのであった。
生まれてはじめて乗る、三日月連盟の持つ軍用船の一種の乗員室は、オレたち三人も乗れば、ギターもあるせいで、もう満杯となってしまうマイ宇宙船とは、全く次元の違う広がりをみせていた。
「……元々は、連邦に入荷するはずだった品の横流しだったりもするのだけどね」
武装した隊員が、操縦のスタンバイに取り掛かっている側の助手席で、オレたちの方を振り向き、結晶卿の説明は続く。
「方々の星の技術をも吸収し、改良し続けていっている連邦の探求欲は大したものだと思っているよ」
(いやいやいや~……)
話を聞きながら、見慣れぬ軍事専用の計器類を眺めまわしているオレの両隣には、シリナとイヨがそれぞれに座り、心の中は色々な意味で揺れ動いていた。
三日月連盟の解放した星々は、各自の自治の元、夫々に平和に暮らしていた。オレ、イヨ、シリナと共に街中を歩けば、誰もが、結晶卿や、お伴の隊員たちに、老若男女が気軽に語りかけたりしていて、彼らもいつでも気さくに答え、中には、オレとイヨの姿に、何故、地球人がいるんだという問い詰める姿に対しても、にこやかに誠実で、其処には、オレが地球にいた頃に見た、ヒミコの有無を言わさない独裁の空気とは、全く異なる世界が息づいているであった。
「各自の星が元々もっていた政治制度で、元首、首長は決めてもらっているんだ」
青空の中に、星の周囲をぐるっと回っている輪っかも、大きな虹のように浮かぶ空の下、結晶卿は説明をし続ける。
「連盟には、それぞれの星の代表に集ってもらう事もあるんだよ。それで互いの星が更に栄えるのなら、それもまた素晴らしい事さ。ただし、私たちの方針として無理強いはしていない。参加も非参加も、それもまた自由なんだ」
ある星では、目を鼻もない、のっぺらぼうのニョロニョロしたものが、這いずって近づいてきたりもすればギョッともしたが、招かれたその建物が、もう使われなくなって久しいかつての連邦の施設の廃墟であるというのに、未だに使用できているのは、本人たちの持つ高い知性のおかげである事を卿は語ったりした。
世界は広いと改めて思えた。オレはあの日、たまたま初めて風俗にいってみようと思っただけだったのに、それが数々の出会いの中で、たった一歩の細やかな勇気が、随分と果てしないところまで来れてしまったものだ。幾日か続いた星々の旅を経、三日月連盟のやっている事は正しい! とオレは心の底から思えていた。そうして、再び、オレたち三人は、結晶卿の部屋のテーブルに座り、彼の出したコーヒーを前にしているところであったのだ。
「私にとって、人の心の中を覗き込むのは容易い事だよ」
やがて、結晶卿は前置きをするようにすると、
「ただ、私自体、かつては太陽系連邦に所属していた人間だ。だからこそ、今、なぜイヨ総裁が影武者を使っておられるのか、語ってはもらえないだろうか」
クリスタルに隠れていないその目は穏やかに此方を見つめているのである。今更、何を黙り込む必要があろうか、やがて、オレとイヨは、シリナが初耳であろう事も加え、語りだすのであった。
全てを知らせると、
「ふぅむ……女官制の廃止は知っていたが、そこまでとは……」
卿は、すっかり結晶に覆われている顎に手をあて、ふと、思案をよぎらせていたが、
「……あくまで私に限るのならば、連邦の転覆を狙っているわけではないんだ。それにイヨ総裁が自らの名を名乗り上げる時点で、私は、貴方から、なにかの『変革』に望もうとする強い意志の波動すら、既に感じていた」
そして、一呼吸おき、
「タケル君の御父上もついているというのなら、心強いというものだろう、ただし、ここまで巨大となった国家に巣食う岩盤を打ち崩すのは、一朝一夕というわけにはいくまい。人手も多く必要となるはずだ。……では、私たちの話し合いの結果もここで開示しよう」
気づけば、彼の眼差しは真剣である。ビビりには定評のあるオレだが、ここは父親のDNAに頼るようにして真面目に見返したのは言うまでもない。そして、結晶卿の方から、ふと穏やかとなれば、
「なに。簡単な事さ。是非、総裁には首都星に帰っていただいて、総裁として、我々が解放した星々の人々の暮らしのように、それぞれが、共存共栄で、平和で自由に暮らせる銀河系の社会を宣言していただきたいんだ。それだけさ。それが確約されるというのなら、君たちの釈放は、寧ろ、大歓迎というものだ」
また、
「そう、そのために我々もまた『革新派』の一員として大いに協力できるはずだ。イヨ総裁、私たちもまた、貴方と共に改革しましょう。是非、地球に戻って、宣言していただきたい。連邦と連盟の緩やかな統一……。うん……これこそ『調和』だ……!」
(……………………!!)
オレは今、歴史の大転換の場に遭遇しているのかもしれない! これは鳥肌ものだった。そして、自らの語りに頷くようにしている結晶卿に、イヨが、強い眼差しで熱い想いを語りだしたのは言うまでもない。終いにはオレの眼前で両者は強い握手を交わした程だった。
(…………やばい。まじ、なんかやばい! 歴史が動いた…………!)
しかし、興奮の坩堝にいたのは、オレたち地球人だけだったのかもしれない。その時、誰一人として、シリナが悲し気な瞳でオレの事を見つめていた事なぞ、誰も気づいてあげられなかった。
そして、その日も、牢獄からオレとイヨの宿泊施設となった部屋と、シリナにあてがわれた隊員としての個室に、それぞれに分かれる時であった。
「あ、あの……っ!」
異星の乙女の一声に思わず振り向くと、
「タ……タケル君……」
そう言いかけ、シリナはなにやらもじもじしてしまっているではないか。
(……え……)
そんな仕草を目の前にして、ドキリとしない男子がどこにいようか。すると、
「ほ、ほーらーっ。あんた、男なら、こういう時は『どうした? シリナ!』でしょーっ!」
言うなりイヨが背中をバーンと叩けば、オレの姿はつんのめるようにしてシリナのすぐ側まで到達してしまったのだ。
「……ってぇーなー! もう!」
「はいはーい。お二人ともーごゆっくりーっ」
そして言い返す時には、お伴の隊員と共にイヨは歩き出してさえいて、長い黒髪の後ろ姿は振り向きもせずに手を振り、立ち去るところであった。
「な、なんだよ……あいつ……」
イヨとは微妙に距離もつかみかねる関係となってしまった。やはり、その姿にはあの夜の後ろ姿の肌を重ね合わせてしまいながらも、ぶつくさと言っていると、
「タケル君……」
またもやドキリとする声が、下方から聞こえてくるではないか。通路は、仕事に追われる三日月連盟の隊員たちが行き交っていて、時に、その視線は、オレに容赦なく突き刺さってくる。異星の乙女はグレー色の頬を赤らめながら、自らの部屋へとオレの事を誘うのであった。
自動ドアが開いた瞬間、其処は、いつもオレが操縦するマイ宇宙船のすぐそばで漂っていたシリナの芳香で、部屋中が満ち満ちていた。
「あれからもっと、地球の事、勉強したんですけど……」
綺麗に整頓されている上に、暖色系のカーペットは敷かれ、マスコットキャラクターがデザインされた座蒲団や、ちゃぶ台まであり、ベットの上にはぬいぐるみまで佇む其処は、かつてのオレも何処かで訪ねた事があるような、地球人の一人暮らしの女の子の部屋の間取りそのものであった。シリナは、すっかり慣れたふうに、AIに冷蔵庫の中の飲み物の情報を開示させながら、
「タ、タケル君、飲みたいもの、ありますか?」
と、聞いてくるその顔は更に真っ赤で、
(……………)
とりあえず、機械の発音が並べるそのどれもが乳製品であるところに、オレはシリナの胸部の秘密があったように思えていた。
(……牛乳なんてちゃんと飲むの久々なんだけど)
すすめられて座った目の前のちゃぶ台には牛乳瓶が置かれている。そういえばイヨも風呂上りには、いつも、腰に手をあて、ぐびぐびとやっていたかもしれない。そんな事を思いつつゴクゴクとやりはじめた矢先、
「……タケル君、さよなら、ですね」
ドリンクヨーグルトを注いだカップを両の手に、シリナがのっけから極論を言うものだから、思わずオレは動揺と共に、ブーっと定番みたく噴き出しそうになったが、
「いやいやいやいやいや! ハイデリヤから遊びに来ればいいじゃない! 地球の服だってさ! イヨに選んでもらったりしてさ! ガンガン送るし!」
「はい……」
オレが明るい口調で返せども、シリナは悲し気に微笑むのみだ。
「オレだって! イヨだって! ハイデリヤいくよ! あー! けど、あいつ、総裁、復帰すっから、おしのびじゃないとなー!」
尚も明るい口調は、沈む乙女の前ではなんの効果も得られていないようであった。そして、もう一度、オレは取り繕うようにして瓶の中身をゴクゴク…と喉に流し込もうとしたのだが、
「……タケル君、イヨさんと、とても仲良しさん、になったんですね……」
という一言には、あわや、本当に噴出寸前だった。更に慌てて彼女を見れば、今や、内股の女座りのままに俯いたままにしているではないか。そして、
「私……解ってたんです。イヨさんみたいな肌の色じゃないし……鱗に……尻尾まであるし……」
ポツポツと呟きはじめた彼女の肩は少しずつ震えていたであろうか。
「目、だって、いつも光っちゃってるし……そもそもイヨさんみたくかわいくないし…………! でも…………!」
(……何を言っているんだ。お前さんは……)
明らかに事実と異なる事まで述べ始めたので、異論を唱えたくなっても、彼女の勢いに圧倒されると、オレは何も言えずに凝視するしかなかったのだが、
「けど……タケル君は、ちゃんと『神に繋がれし者』です! それに、もっともっと神と繋がろうってがんばってる……そして、あの日、私を救い出してくれた………優しい人………」
ここまでくれば思わず喉をならし、ゴクリ……と、唾をのみこむほかないであろう。何かの予感すら感じ始め、オレの鼓動は高鳴るというものだ。
「……タケル君……」
「……は、はい!」
とうとう、熱い吐息のように自らの名を呼ばれれば、オレの返事は裏返ってしまった。やがて、ゆっくりと此方に顔をあげた、瞳潤ます異星の乙女の表情は、絶世の美女であった事は言うまでもない。
「私は……あなたの事を……」
最早、その圧倒的美貌を目の前に、自らの心臓の音が外まで聞こえてしまうのではないか、と、思われた瞬間。
BOOOOOOOOOOOOOOM……………………!!
聞き慣れたドローンの音が聞こえれば、
(……………!)
最早、こちらまでせつなく相手を見返していたというのに、主のこのときめきの時間を邪魔しやがった従者が、心底憎々しかったのだが、
「大事件発生……! 大事件発生……!」
と、テオが矢継ぎ早に述べていく事柄たちには、オレもシリナも一気に現実に引き戻され、目を大きく見開く事柄ばかりだったのだ。
先ず、影武者を買ってでていたイヨの双子の姉妹、トヨが何者かに殺された。太陽系連邦は、後継の総裁を置かず、空席のままに「総裁代行臨時政府」と称し、老獪な大臣たちが表舞台にでてきて政権を掌握したのだという。無論、イヨの改革で成した「スタッフ」と呼ばれる面々は次々に解雇、若しくは政治犯として「処刑」され、宮殿には再度、女官たちが戻ってきたそうだ。
皇宮警察隊は強制的に解散させられ、オヤジたちは皆、行方知れずとなったそうだ。残った関係者の家族は家ごと、しらみつぶしに「処刑」され、「破壊」されたという。
「オ屋敷ノ痕跡ハ、確認致シマシタ……残念デス……」
テオの声は無機質であるものの悔し気であった。が、何より、今、この瞬間、自分の血縁が誰もいなくなり、長年住んだ我が家すら失ったという実感は、伴う事があまりにオレには難しかった。
テオからの報告に、すぐさま顔面を蒼白としたのはイヨの方だった。だが、姉妹を殺されたショックを乗り越え、イヨは毅然と、総裁である自らの存命を、三日月連盟を経由する形で、全領土に伝えようとし、国民の自由の保障と民主主義の宣言すら行ったが、今や、総裁代行臨時政府が国の頂点となった太陽系連邦は、虚偽の情報であると徹底的に抵抗したのである。
そして、オレたち三日月連盟と、祖国であったはずの太陽系連邦は、全面戦争に乗り出さずにはいられない事態となった。
これが後の世に伝わる、第一次宇宙大戦である。
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