ふたりはプリズナー

 それにしても広大であり、設備も連邦なみに整えられた基地である。このような施設が存在しているというのは、彼らの奮闘もあるのだろうが、決してそれだけでもないようだ。

「太陽系だと、木星に、とある富豪のご婦人がいてね。これも崩御後に解った事らしいが、ヒミコ総裁と遠縁であったそうだ。なかなかお年を召した方なのだが……まぁ、お元気な方でね。エウロパという星を経由して、援助してもらっている。あそこは昔から、かなりの無法地帯であるからね。逆に取引には扱いやすい場所というわけだ」

(………………!)

 思わぬところで、その地名の名がでたものだから、オレとシリナが顔を見合わせると、

「……なるほど。君らは、お会いしているんだね」

 結晶卿はお得意の超能力を発揮し、オレとシリナの表情から記憶の映像を読み取るのであった。

 ただ、性に対しての執着という点においては、お互い、引けを取らなさそうだが、常に陰気な顔つきで他者を睨みつけていたヒミコと違い、タバコを片手にしていた、あの皺くちゃな老婦人は、人生の余生をのびのびと謳歌している、随分と陽気な人柄に見えたものだ。だが、確かに、あの小柄な体格などは、彼女たちに共通する血筋のなせる技なのかもしれない。


「……なるほど。これも『意思』の導き、か……」

 結晶卿は、一言、呟き、

「実際、太陽系だけでないんだ。植民星系などにいる同志も少なくないんだよ。で、なければ、ここまでの設備は、とても整えられないよ」

 そして、自らの部屋中に取り付けられている機器類を噛みしめるように見回すと、語り続けるのであった。


「……さて、君らの処遇についてだが……」

(…………やばい…………)

 そして、卿の口ぶりが変われば、ビビりなオレが一番に反応を示したのだが、

「……あの場を収めるには、ああ言う他なかったが、シリナ姫はともかくとして、総裁のみならず、君まで太陽系連邦の関係者であるという事は、こちらとしても考えなければならない。君たちがいい人であるという事は、私にはよく解るが、それを皆に伝えきるまでは、時間をくれないかい。しばらく、話し合いは続くだろう。その間は安全面も考えて拘留されてほしい。……船にあるギターは、至急、部屋に持ってこさせるよ」

(………………)

 結晶卿の説明にシリナが心配げに見つめるなか、こうして、オレとイヨは二度目の牢屋暮らしとなってしまったのだ。


 ガコ―――――――ン…………!

 とうとう、自動ドアが二重張りとなった仮設の牢屋は重い音を鳴り響かせ、閉まってしまったが、其処は、そのセキュリティーのみが特化しているというだけで、ベッドはツインで用意され、今まで方々の星々で暮らしてきた安宿よりも、室内は清潔でさえあり、窓の向こうに広がる森林は、いまだに太陽の光を照り返しているのが部屋の中にまで覗き込むようにしてたたずんでいる、まるでホテルのような一室であった。

「…………」

 振り向けば、そんなベットの片方には既にギターケースが置かれていたので、それを確認したオレはとりあえず一目散にベットに駆け寄り、見渡すと、設えてあるチャンネルなどがあったので、クルクル回してみると、何処かからの星系経由で有線放送は流れてくるし、専用のインターネット端末まで用意されている厚遇ぶりだった。とりあえず一通りを確認すると、早速ケースからはギターを取り出し、その安否を気遣うかのようにジャカジャカ鳴らしてはベットに腰かけると、

「よ、よーし。あんた! そっち座ったわねっ! じゃあ、こっちはわたし! この間がわたしたちの国境線よっ!」

 今日も白でまとめたワンピース姿の黒髪の乙女は、なぜだかいつにもましてものすごい真っ赤な顔をしていて、オレとの間に絶対防壁とも言える境界線の決まり事すら、事細かに述べ始めるのであった。


(お~い……シリナ~……)

 圧倒されながらも、いつもの癖でオレは異星の乙女に助けを求めるようにしたところで、ハッと気づいたのだ。この処遇にはシリナの姫様は含まれておらず、今頃、彼女は、生き別れとなった自らの一族や、同族の連中といるはずなのだ。オレは、暫く、このイヨという、なんかたまにおっかなくて小うるさい小娘と、同じ屋根の下で、二人きりで、暮らさなければならなかったのだった。

(………………)

 未だ真っ赤にしながら、ガミガミとうるさい現総裁を前に、普段なら、そのでかい器でもってイヨを諫めてくれる癒しの笑顔が此処にいない事に、オレは心から呻きたくなった。


(………………)

 イヨは、未だオレの眼前で、仁王立ちに見おろし、細かい条項を述べ続けている。最早、右から左に聞き流すふうにしながら、

(……お前さんは、そんなに乳でけーのに、なーんでシリナみたくでっかくかまえられんのだ?)

 と、その目は自然と、シリナか、もしかしたらそれ以上はあるかもしれない近距離の胸部に目移りなんてしてみて、くだらない事を考え、やり過ごそうとした矢先であった。イヨは、ハッ! と気づくと、胸元を両手で隠すようにし、

「あんたっ! 今、なんか、いやらしい事、考えたでしょっ?!」

(ばれた~…………)

 どんどんムキになる小娘相手に、目をくるくる泳がせては体を左右にゆっくり揺り動かし、オレはシレ―ッと無言になってやった。すると、

「あ、あんたのじゃないんだからっ!」

(はいはい~でました~泣かすね~元カノへの操~……! ごくろうさ~ん~……)

 とうとう宣言されれば、とりあえず釈放の日まで如何にのらりくらりやり過ごせるかが鍵だ。だなんて事を、オレは固く誓っていた。


 間もなく様子を伺いにきた結晶卿は困惑した顔で、思わぬ形で現総裁を収容する事となった三日月連盟は、案の定、オレという血筋まで手にはいってしまった事で、話が余計に難航しているらしい事をオレたちに伝えると、「もう少し待っていて欲しい」という一言を残し、尚、数日が過ぎていこうとしていた。


 ただ、食事の配給は滞りなかったし、部屋の清潔さはAIが定期的に保ってくれたりもしている。オレとイヨは、ただただ、何もする事がなかっただけであった。まぁ、日々、オレはひたすらに奏でては歌ってみせていて、聴いているイヨは、悪くないみたいな言い回しをするが、やはり、こんな時は、ちょっと照れ臭くなるほどに讃えてくれるシリナの顔がよぎったものだった。

 ただ、オレの演奏中のイヨが、シリナ以上に熱っぽい視線でオレを見つめていた事など到底知る由もなかったし、いくら、ガミガミうるさくて、男勝りとは言え、イヨという美女との同じ屋根の下の二人暮らしは、いくらオレの恋人がギターであるとはいっても、元が不埒なオレにとっては、苦しくなっていく一方の日々だったのだ。


 オレは、あの日、風俗星にいったのに、結局、女を抱けていないままに今日に至っているのだ。


 厳密に言うとオレには母親の記憶がない。ただ、ものすごく子供の頃、オヤジに、なぜ、母さんは病院から帰ってこないんだ。と話しかけると、髭もじゃの顔は制帽の中の顔を俯きがちにして、もう、母さんは帰ってくる事はないんだ。と答えた。更に何故だと食い下がれば、オヤジは無言でオレの事を抱きしめていたのだ。母さんがするのとは違う、強引で乱暴なその力を嫌がりながら尚も問いかけるオレに、あいつはいつまでも無言でいて、やがて、それはオレに何かを悟らすと、気づけば涙を呼んだのだ。オレが悲鳴に近い泣き声をあげる中、皇宮警察隊の制服は一際にオレを抱きしめていたであろうか。母さんはそんなふうにしないやいと、武骨で、力まかせな力と、その髭のチクチク具合を更に嫌がりながらも、オレは、すがり、泣いていた。それからというもの、多忙な父に代わって、母親変わりを買ってでたのは、代々我が家に仕える人工知能テオでもあったのだが、実体も性別もないテオに、たまに襲い来る虚無感を辛くあたっては、やつをオーバーヒート寸前まで追い詰める事も多々あったものだった。


 窓の外では、いつも燦燦と太陽が照りつけていたのを覚えている。


 そして、その「虚無感」は大人になって尚、周期的にオレの心を苦しめたのだが、その夜に限って、オレは、まるでいつしかの優しい弾力と暖かい抱擁を思い出すかのような心境と共に、

(え……?)

 と、いう違和感すらして、目をあけたのだ。視界には収容されているはずの一室の風景もまるで見えていなくて、まるで何かに埋もれているかのように真っ暗闇なのである。それに、もはや、ちょっと息苦しい。

「うん…………?」

 オレは、自らの顔面を覆っているものが何かを確かめるように手をのばし、それを掴んでみると、いつしかのシリナのを鷲掴みしたような、モニュっとした感触と共に、

「ひゃあん…………っ!」

 主は、いつにもまして甲高い声をあげると、オレを突き飛ばし、あわてて自分のベットに駆け出していけば、途端に、オレの周囲には、イヨの芳香の跡が残ったのであった。


「え…………?」

 オレが未だに状況を飲み込めずにいると、未だ、後ろ姿のままに横となるイヨが、

「あ、あんた、気づいてないのっ?!」

 と、言った後、体を覆ったシーツの中でもぞもぞとさせながら、

「ここんとこ、ずっと、うなされっぱなしなのよっ?!」

 なぞと言ってくる始末で、未だ、オレが意味をつかめていないでいると、

「……な、なに?! お母さん、死んじゃったのっ?! あんたはっ?!」

 とうとう、何かしらを一通りすませたイヨは、ここ数日、死んだ母親に抱擁をせがむ泣き言のような寝言を、オレが延々と口走っていた事を告げ、

(…………え?!)

 此方が自らの醜態に驚く隙もなく、

「ちょっと手、握ってあげたら、静かになってたくせに、今じゃ、ああしなきゃ、ずーっと、苦しそうなんだもんっ! おまけに、ああしてあげたら、スース―寝ちゃってさっ! わかりやすすぎっ!」

(…………!)

 漸く事態を把握したオレは、今まで、元カノたちにしかさせてこなかった介抱を、単なる旅仲間にさせたのかと思えば、赤面せざるをえず、思わず、こちらも背中を向けてガバっと横たわるしかなかったのであった。

「……ああっ! ヒミコ様っ! ごめんなさい! ……ゴメンね……」

 背後では、何処かの世界にいる元カノにイヨが詫びをいれていて、ますます気まずさばかりが増す一方である、と、その時であった。


 BOOOOOOOOOOOOOOM………………随分と久方ぶりではあるが、よく聞き慣れたドローンの舞う音がすると、三日月連盟の隊員たちが、慎重に調査をしているであろうマイ宇宙船に取り付いていたテオの機体の中核を担う小型ドローンが、人知れず自らを分離させていて舞い降りてきたのだ。


「坊チャマ、総裁閣下、オ久シブリデゴザイマス。オ二人共、体温、及ビ、血圧ノデーター二急上昇ノ傾向ガ見ラレマス。現在ノ室内気温カラ考エマシテモ、気二ナル数値デス。先ズハ、リラックスノ為ニアルファビームヲ……」

 そして、テオは語り、一つ目の触覚をくるくるとさせていたのだが、

『よいから! 早く映せ!』

 我慢ならぬと遮ったのは、銀河のはるか彼方にいるオヤジの声で、

「Yes sir。旦那様」


 やがて、テオのドローンの真下には、一定の光線が床にまで届くと、それは、シリナを驚かした制服制帽のオヤジの立体映像という、テクノロジーという名の魔法であり、

『タケル……! 総裁閣下! ご無事ですか?!』

 今回の違いは前回のような記録物ではなかったのだ。

『まさか、このような組織が設立していたとは……!』

 オヤジは、今、横たわって呆然とこちらを見つめているオレとイヨの姿に一先ず安堵した後、室内を見渡しては、自らの髭を触りはじめ、

『うーむ。『守旧派』の連中が大人しくなるまでという苦肉の策でもあったのだが……連中もひつこくてな。想像以上の……あ、ですが! 総裁閣下、トヨ殿は立派に代行を努めておられます! 姉妹そろって剛毅な方々だ。我々も命を賭す覚悟でお守りさせていただいております!』

 言い切ると、一警官らしく、主君に向けて敬礼をした。


「そ、そうですか……。トヨ……。では、未だに『守旧派』の抵抗は根強いのですね」

 先ほどの動揺は冷めやらぬにしろ、イヨも次第に、その年齢に似合わぬ為政者の口ぶりへと自然に変わっていく。

『はっ!』

(…………)

 実は、こうして仕事をしている時のオヤジの会話ははじめてであった。(やっぱ、警官なんだな~)なんてオレが思っていると、

『……閣下、古来から我々一族は、政治には関与しない事を鉄則の家訓としてきました』

 やがて髭もじゃは、じっとイヨを見つめるようにすると、オレたちのルーツについて語りだすのであった。


『それは、天照宮殿が今の形となる遥か以前からと聞いております。我らにある義務とは、総裁と、総裁のおわす施設の守護、警備のみである、と。ただ、総裁閣下を逃した後も、掌握できていった情報をつぶさに知れば知るほど、最早、これ、宮殿改革のみでは済まされない事態にまで及んでいるか、と……』

 オヤジはそこで、一呼吸おき、

『彼らの怒り、志、これもまた尤もであるか、と』

(………………!)

 権力の犬と思っていた父親らしからぬ一言にはオレが驚く他なかった。尚も姿勢を正したままにオヤジは語り続ける。


『……ただ、今の大臣、官僚ども率いる『守旧派』の中に、改革を押し勧めようなどと思う者が皆無な事も事実。……ですが、我が一族も、ここに来て、更なる大きな目線で、物を見なければならない時期なのかもしれません。軍までも相手取るとなると、相応な覚悟、となりますが……』

「わたしも、方々の星を巡り、わが国の想像以上の歪みを目にしました」

(…………)

 オヤジの話に答えるようにしたのは、すっかり総裁の口ぶりとなったイヨの複雑そうな横顔であった。

「総裁として、何を成し、成すべきなのかを自らに問うている日々です」

(…………)


 何かきな臭いとは思いつつも、結局、オヤジの弁当を届けに行くくらいでしかなかった天照宮殿と、自分の生活と夢の間で精一杯で、何も見えてなかった太陽系連邦ではあったが、共に旅をしてきた者として、今のオレなら、イヨの言いたい事もよく解るのであった。

 しばらくオヤジは、そんな自らの主君の事をじっと見つめていたが、

『……我らが彼らに抗する『革新派』、となりましょうか』

 と、そっと呟くように語りかけると、コクン、とイヨは頷いてみせたりしたのだ。更にイヨを見るオヤジの視線は、まるで娘でも見るかのようでもあったが、一度、自らの髭をなでると、

『タケル……』

 と、今度は我が子に強い眼差しを向けてきたのだ。


「お、おう」

 いつにも増した、なんだかすごい迫力にオレはどもってしまったのだが、

『閣下を、しっかりお守りしろ……! できるな!』

 と、言われれば、

「お、おう!」

 ちょっとはマシな口調で返せたと思った。オヤジは尚も変わらずに、熱い眼差しをオレに送っていたが、

『……一度、その結晶卿なる人物と話がしてみたいものだ……』

 呟いた時には、宮殿内のオヤジのオフィスに来客を告げるブザーが鳴っていて、

『……ふむ、ではいづれ、また連絡する。なんせ光年が遠いもんでな。……閣下!』

 最後には一警官にふさわしい敬礼と共に、オヤジのホログラムは消え失せ、

(……………)

 振り向けば、未だ、じっと、何かを考えるようにしている総裁の横顔が、宵の暗闇の中に在ったのだった。


 改めて、連邦の現総裁と、そして古来から先祖代々、その連邦を守護してきた末裔のロイヤル感というのは、やっぱり半端ないという事なのだろう。たまに顔を出す結晶卿は、「もう少し待ってくれ」とすっかり恐縮しきってすらいる始末であった。だが、部屋に缶詰であるというだけで、後の事は申し分ない環境である。オレたちは苦笑しつつも返事を待つ事にしたのだ。でも、二人のストレスは、共に、着実に、溜まっていっていて、珍事というのは、ある日、唐突に起きたのだ。


 その日もレディーファーストで、浴室には後から入ったオレは、いつもよりも長風呂であったかもしれない。そして瞑想でもするかのようにして心を沈ませると、部屋に戻った、その時だった。

(………………!)

 部屋には、既に、なにがしかのアルコール飲料の匂いが満ち満ちていて、

「ひっく!」

 という声に振り向けば、一升瓶を片手にしたイヨがベッドの上であぐらをかいているではないか! オレは、慌てて、備え付けられた冷蔵庫のドアを開けるようにAIに命じて、中を確認すると、

「お前さん……飲んだの?!」

 それは結晶卿の差し入れの一つであったのだった。


「らによ~っ。いいじゃな~い。クマソなら、子供の頃から呑む事だって当たり前らのよ~っ」

 困惑しているオレに振り向いて答えるイヨの顔は、既に真っかっかだ。

「毎日……毎日……やってられるかーっれのよっ!」

(…………その気持ちはちょっとわかる)

 それにはオレも苦笑の同意をすると、今度、イヨは、

「プププ……ほら、タケちゃーん、あんたもこっち、いらっしゃーいっ」

(……はぁ?)

 自分の隣分のべッドシーツをポンポンと叩きながら、聞いた事もない口ぶりでいるではないか。とりあえず、おずおずと、おっかなびっくりで座ってみた、その時だった。直ぐ隣からは風呂上りのイヨの芳香も未だ満ち満ちてはいる。が、

(………酒くさ………)

 なんてよぎった瞬間、

「がお~っ!」

 途端に、彼女はオレに抱き着くと、その場でオレを押し倒したのだ。


「ちょい! イヨ、お前、まじ、飲みすぎだって!」

 慌てふためいたオレには、真剣に彼女を引きはがそうとするだけの根本的な生理的原因があったのだが、

「タケルーっ! わたしーっ! あんたがだーいすきらのよーっ!」

「……えっ!」

 突然の爆弾発言には理解が追いつかず、その場で一瞬固まってしまった。その隙でも狙うかのように、イヨは今度、オレの頭を両手で抱えるようにすると、

「え~いっ!」

 と、まるで、いつしかの夜のように自らの胸の中に押し込めようとしてくるではないか!

「ほーらほらほらっ! あんたの好きなのはこうでしょー?! 夢に向かって真っ直ぐな人って~、わたし、だーいすきらんだからーっ!」

 すっかりアルコールに呑まれたイヨは、どこまでも奔放だった。


「ぶはっ! ちょっ! イヨ……!」

 オレは、なんとか理性を保とうと抗う。

「ほーらほらほらっ!」

 だが、イヨは構わず、更に抱き寄せてくる有様ではないか!

(いい加減に……!)

 とうとう、カッと見開いたオレの視線は、何もかもが吹っ飛ぶ寸前を表していた。逆にえいやと押し倒してしまえば、野獣と化したオレの顔つきを、なんとイヨは、潤み、真剣な目付きで、じっと見つめるではないか。そして、もう一度、

「大好きよ……」

 と呟かれた瞬間、

(………………!)

 とうとうオレの箍は外れてしまった。


 イヨがヒミコにどんなふうに抱かれていたかは、オレには未だ想像できないが、体の隅々にまで及ぶオレの愛撫に歓喜し、体を跳ねらす姿すらも、イヨは可憐に、美しかった。ただ、いよいよ、その中へと汗だくのままのオレが隅々まで押し込んだ瞬間、それは、ほぼなんの抵抗もなく中へと包みこまれていったとはいえ、

「、、、、、……っ!」

 生まれてはじめての感触に、イヨの顔はまるで電撃が走ったかのようにして目を見開いては、僅かにのけぞり、

(くっ………………)

 オレは彼女の中からほどばしる熱さに、思わず悶えそうですらあったのだが、やがて、瞳を潤ました彼女に頬を一撫でされれば、後はもう、どんな形になるにしろ止まらなくなっていくのは至極当然の事だったのだ。


 気づけば、彼女の腕の中に抱かれるようにして朝を迎えた時、目を覚まして我に返ったオレが一番によぎった事と言えば、

(ヤッちまった…………)

 という一言と共に、何故か心にちらついたのはシリナの面影で、すぐ後に起床したイヨ自身も、見下ろせばオレを抱擁していた自分に、最初は少し驚くようにしたものの、やがて、ゆっくりと緩やかにそれをほどいていくと、背を向けたまま、脱ぎ散らされた衣服を身にまとっていき、

「おはよ~……」

 なんて一言を、後ろ姿のままに返してくるのであった。









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