第3話
認知症があるため要介護2の判定があるが、ほとんど自立した生活を送っているように見える。
週2回のデイサービスと、訪問介護、訪問看護を利用し、問題が発生したこともなかった。
それなのに、なぜ急に万引きなんて。
「ねえねえ、薫ちゃん」
助手席にちょこんと座るタキが、運転中の薫を指でつつく。
「スーパーに寄ってくれる?」
「ごめんなさい。できないんです」
「なんでよ」
「タキさん、コロボックルを召喚しちゃうでしょ」
「しないわよ。薫ちゃんに味噌パン買ってあげる」
「もっと駄目です」
利用者を勝手に連れまわしているだけでも御法度なのに、買い物絡みだと賄賂だと誤解を招く恐れがある。
でも、買い物の様子を観察できるかもしれない。
薫はタキの家の前を通り過ぎ、スーパーマーケットに向かった。
車が駐車場に入ると、タキはシートベルトを外してしまった。エンジンを切る前にドアを開けて降りてしまう。足腰はしっかりしている。
車や歩行者を確認して、危なげなくスーパーに入ってゆく。
買い物かごはカートに入れ、そのカートを自ら押す。
値引きシールの貼られたお惣菜をかごに入れ、消費期限が一日でも遅い牛乳を探し、手を伸ばして奥の牛乳パックを取ろうとする。
味噌パン買ってあげる、とまた言われたので、薫は慌てて言い訳をした。
「ぼくは自分のおやつとして自分で買いますから、タキさんも自分のおやつとして買いませんか? 一緒に車の中で食べましょう」
自分で清算し、自前エコバッグに食材をしまう。
危ない要素は、シートベルトを外してしまったことくらいだった。
タキがコロボックル云々言うのは、おそらく北海道出身だからだろう。
「美味しいね、薫ちゃん」
「美味しいですね、タキさん」
甘くしょっぱい味噌だれが挟まった味噌パンを咀嚼しながら思案していると、タキが、ふふふ、と笑った。
「薫ちゃんは、男の子なの? 女の子なの?」
薫は答えなかった。
――片山に免じて許してあげますけど
星野の言葉が脳裏をよぎる。
片山という人に話を聞く必要があるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます