第2話 違い

 中はとてつもない広さだった。

 大広間はその名の通り広く、個室は六つ程。

 個室と言っても単なる狭苦しい物置みたいな環境では無く、とにかくだだっ広い。

 私が世話をする〈柘榴様〉は、何もかも現代いまのものが嫌いなのか、家の中の造りも学校で(軽く)習ったような書院造みたいな感じ。

 フローリングなど一枚も無く、障子や襖、全てが新鮮に思えた。

 私が案内された部屋は、何時も夏に行く家族旅行で泊まるような、そこそこ大きい部屋。

 さっき見た個室よりは1.5倍大きい。

 中央には漆塗りの机。奥には窓があり、そこから日光が射している。外の聳え立つ樹々が、強い日差しを遮っているので、室内は程よい暖かさだ。


「では、そこのタンスに着替えが入っているのでお好きなものにお着替えください。私は外で待ってますので」

「あ、ありがとうございます」


 見知らぬ人と声を頻繁に交わすのはとっても疲れる。

 私は身を投げ出すように畳の上に寝転がった。

 今は洋服だから乱れないけど、これから着物で過ごすんだろう、こんなことは出来ないと薄々感じていた。

泉は起き上がり、指定されたタンスを開けてみると、独特の匂いが鼻を満たした。

色鮮やかな着物が綺麗に並んでいる。

その中から、泉は淡い水色の花柄を選んだ。

泉はそれを器用に着付け、姿見を見て整え、外に出た。


「お待たせしました」

「着物、自分で着られたのですね」

「はい。祖母が教えてくれたので」


私は着物の裾で転ばないように、気を付けて歩いた。

歩いていると、時々、床の板が鳴る音がする。年季が入っているのだろうか。

長い、長い、何処までも続きそうな廊下をただひたすら歩いていると、奥に離れが見えた。

離れの近くにある庭に、柘榴の樹が何本も植えられ、誰も近づかないように柵が設けられていた。


「あの、柘榴の樹は?」


私は男性に問うた。

彼は少し、躊躇ったが、直ぐに口を開いた。


「また、後程判ると思います」


何秒か声を交わしたら、離れの入り口に着いていた。


「柘榴様。お世話役の者を連れて参りました。失礼致します」


男性はしゃがみ、障子を静かに開けた。


離れの中には、私よりもはるかに小さい、華やかな着物を着ている少女が外の風景を眺めていた。


ただ、人間ヒトとは違うところがある。


少女に、額に角が生えていた。

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桃の檻  朝陽うさぎ @NAKAHARATYUYA

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