桃の檻 

朝陽うさぎ

第1話 居場所

「ほら、着いたよ」

 両親に促されるままに、私は石楠花シャクナゲ山に来た。

 車に乗って1時間弱。私の腰や背中が悲鳴を上げている。

 石楠花山はどの世代のマニアにも幅広く伝わっている、心霊スポット中の心霊スポット。鬼が住み着いていて、迷い込んだ者は二度と帰って来られないと言う、私にとっては馬鹿馬鹿しい噂があった。

 ただ、流石に奥深くまで来ると、太陽の光が届かない。

 7月の頭とは言え、肌寒く感じられた。



 険しい山道かと思えば、意外に道は舗装されていた。

 麓から食料や生活用品を取りに行くためなのかもしれない。

 10分程登ると、途中に豪邸が見えた。そこが、依頼人の住処なのだろうか。

 豪邸は平家で、自分の家の何倍あるだろうと私は考えていた。

 

 玄関前に着くと、着物を着た男性が待っていた。

 着物と言っても、成人式に着るような華やかな代物ではなく、何時しか修学旅行で行った京都で見掛けた、藍色の質素な着物だった。

 穏やかな表情で、眼を細めていたが、生気が無いように感じた。


「お待ちしておりました。此方が、甲村恵梨香コウムラエリカさんですね?」

「はい。娘をよろしくお願いします」

「では、どうぞ此方へ」

 両親から此処で生活する為の荷物を受け取ると、名残惜しそうに私を見つめた。

 だけど、私はその視線が偽りという事を知っている。

 不登校になってしまった私を、邪魔者の様に忌み嫌っている事なんて百も承知。

 こんな欠陥だらけの娘を手放せた事で、どんなに嬉しいだろう。

 何事も無かった様に、二人はその場を離れた。


「さて、恵梨香さん、中で一度、着替えて貰えませんか?」

「…え?」

「柘榴様は現代の物を好まれないのです。個室を用意してありますので、そこでお好きな着物にお着替えください」

「…わかりました」

「上がってください」


 促されるままに、私は豪邸に入った。

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