母、紙芝居で昔を語る1

 とうとう語る時がきたのね。私はこの為に用意していたある物を取り出した。


「……お母さん。それ何?」


「え?紙芝居よ。玲奈ちゃんもしかして知らないの?」


「いや、紙芝居は知ってるけど……何で紙芝居?」


「口で説明すると覚えにくだろうなと思ったから用意したんだけど……もしかして絵が下手だった!?」


「いや……絵は上手いよ。流石は漫画家はやってるだけはあるなってぐらい……」


私はこの世界で「マリア・グラヌティーヌ」というPNで漫画家をしている。この世界でお金を稼ぐ方法を模索していた時、在宅で仕事が出来るという条件を探して見つけたのがこの仕事だ。前の世界での唯一の趣味が絵を描く事だったから本当にありがたい職業だった。


「あっ、なんだったら水飴もあるけどいる?」


「えっと……とりあえず遠慮しておく」


私は玲奈ちゃんに水飴をすすめたけど断られてしまった。紙芝居よりもコレの方が自信あったんだけどな……


「とりあえず……お母さん。紙芝居でもいいから聞かせてくれる?」


「分かったわ。私はこことは違う世界で、『マリア・グラヌティーヌ』という名前でエルフの里で最初は暮らしていたの」


「お母さんのPNって実は本名だったんだ……」


玲奈が少し驚いたようにそう呟く。まぁ、この名前はとっくに捨てたものだと私自身は思ってる。今の私は雨宮 魔離亜だ。可愛い可愛い可愛い……(略)娘の玲奈の母だ。それだけでいい。あくまで、漫画家なら別名を使った方がいいと編集さんに言われて、思いつかなかったから使ってるだけにすぎない。


「私はエルフの里の一戦士として民を守る為に戦っていました。私、里で1番の魔力を持っていたから、あっという間に里の英雄のような扱いを受けました」


今も思い返してみると、本当にもう少し手を抜くとかすれば良かったかも……そうすればきっと…………いや!?ダメよ!?そうしたら玲奈ちゃんに出会えなかったわ!結局これで良かったのよ!私!!


「お母さんってやっぱり凄い人だったんだね」


「そうね。でも、強くて凄い人だとダメな事もあったのよ」


「えっ?ダメな事って?」


「…………誰も私と付き合って結婚してくれる人がいなかったの」


「あぁ……」


 なんとなく察したらしい私の賢い娘はなんとも言えない表情をしていた。

 強く有名になり過ぎたせいで、里の者達は私を神聖視していたから、私と自分とでは釣り合わないと何度もお付き合いを断れたのだ。

 周りの同年代の子達が次々と結婚して子供を産んでいく中、1人だけいつまで経っても独り身……いくら長い生を持って不老なエルフとはいえ、流石の私もこれでは寂し過ぎると思ってしまったわ。


「だから、私はとある決断をしました」


「決断って?」


「もう人間でもいいから絶対結婚しようって」


そう。だから、私は生まれ故郷のエルフの里を出て、人間達が住まう国へと向かった。

 まさか、その決断があんな惨めな想いを味わうハメになるとも知らずに…………

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私の母はエルフ 風間 シンヤ @kazamasinya

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