第4話

全員で話し合った結果、ヤナイへの出発は決まった。

しかし全員で行くには無理がある。

ギルドの依頼も、例えどんな不可解なことが起きていようと、次々と舞い込んでくるため、それをこなすハンターが必要だからだ。

そこで、向かうのはファイナ、ジーク、リューン、キシリアの4人とし、他のメンバーは依頼をこなしつつ、他の情報を得られるよう動いて貰う。

何かしらの情報を得たら、メッセージがファイナのところにくることになっている。

その手段は、ファイナの異端と言われる能力、「魔法」が役になった。

魔法とは今は滅びた筈の力であり、ファイナが使えなければ、恐らく魔法を見ることなく、そしてその力のことさえも遥か昔の歴史に残されたものとして認識して、信じることさえなかったかもしれない。

実際に今回ジーク以外のハンターの前でその力を使ったときは、冷や汗をかく者もいたくらいである。


少しここで昔語りをしよう。

それは千年以上前、精霊と共に暮らす部族がおり、その者達は精霊の加護により魔法を使うことを許され、必要に応じてその力を使っていた時代があった。

その関係は長い間続き、その長い間に双方暗黙の了解で魔法を私利私欲に使わず、本当に必要なことだけに使用するということになっていた。

しかし全ての魔法が全員使えたわけではなく、得意不得意と言うか、相性のようなものがあり、簡単に言えば火は呼び起こせても水は呼び起こせないといった感じで、使えるものが使える魔法を使い、助け合って暮らしていると言う風であった。

両者の絆は強くなるにつれ、精霊と人とのハーフも産まれるようになり、関係はとても良好であった。

しかし時間が流れれば流れるほどに人の数は増え、共存生活が始まってから数百年後、ついにその力に溺れ、その力で全てを己のものにしようとした人間が現れ、悲しいことに争いが起きてしまった。

その争いは人間に手を貸す精霊と、それを拒否する精霊との争いにも発展し、世界が滅びるかと思われるほどの大きな戦争へとなっていった。

数年間続いた戦いは、力を貸さないとした精霊が、力を貸すとした精霊を鎮圧し、すべての精霊とハーフの者たちは精霊の国へと戻り、それ以降人との接触はしないと決め、入り口を封印した。

結果力に溺れていた人間もその力を失い、人の争いは呆気なくも終わった。

こうして魔法を使えるものはいなくなったのであった。


しかし数百年を越えた今、ファイナはその魔法が使えるのである。

実は相方のジークでさえ、ファイナがなぜ魔法を使えるのかは知らない。

実はその過去も。

どこで生まれどこで育ち、何故ハンターになったのかも、何もかも知らない。

2人の出会いは、ジークが1つ下のランクの時、依頼請けおい中に大ケガを負ってしまい、深い森のなかで動けなくなっていた時、たまたま通りかかったファイナに助けられたことによるもので、2人が組んだのもジークが最上ランクになったときに組もうと、何度も何度も誘い続けたからである。

元々ファイナは少し人間不信なところがあった。

魔法が使えるせいで、利用しようとする者も多かったからか、ハンターも1人でやっていくつもりでいたのだが、ジークが自分の力を利用するためではなく、助けられたからというただそれだけで声をかけてきていることも分かり(正直断るのも面倒になってきていたと言うのもあるのだが)、チームを組むことにしたのであった。

チームを組んでからも、ジークはファイナを異端扱いすることもなく、尊敬し片腕となりその刀を振るっている。

今ではファイナにとっても、なくてはならない存在へなっていた。


「う、うわぁぁぁ!!!」

ヤナイへと向かう馬車は、叫び声と共に大きく揺れた。

うたた寝をしていた四人は転がるように外に飛び出し、馬の前へとついた。

そこには数十本の触手を持つ大きな魔物と、それを取り巻くように中型の鳥のように飛び回る魔物が数体。

馬を補職しようとでも思っていたのだろう、間近の地面に触手で叩いたような跡が残っている。

「この程度なら私たちだけで十分よ!ファイナたちは馬車を守っててちょうだい!」

キシリアはそう言いながら、既にその鞭で飛んでる魔物を一気に打ち落としている。

リューンはふふっと笑うと触手の前で妖艶に舞い始めた。

リューンの動きに合わせるように触手が蠢き始め、攻撃の色がなくなっていく。

ふわりゆらりと巨体を動かす魔物に、キシリアの鞭が巻き付いたかと思うと、突然その鞭がバチバチ音をたて電気を放ち、次の瞬間大きなラップ音のようなものがしたと思ったら、魔物は塵と化していた。

「さ、片付いたし、行きましょうか。」

二人は自信の笑みを浮かべて振り返った。

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月の光、月の影 咲玖薔 @koyomizu

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