第9話 旧交の復活

「ここは寒いで、家のほう行こうか」

 佐久ちゃんと一緒に家に入る。

「今日はどうしたん」

「今度、市議選に出ることになってなあ。金森さんの勧めがあって、こっち帰ってきたんや」

「そおかぁ、噂は聞いてたんや。ほんで、どうなってるんか心配しててん。がんばってや。ほう言うことなら、いくらでも応援するで」

 友達の出馬を心から喜んでくれている様子で、僕もそれが本当に嬉しかった。

「ありがとう」

 照れ笑いしながら答えた。

「手伝えることがあったら、何でも言うてや」

 僕の肩をたたく。

 お父さんが、外から戻ってきた。

「倉ちゃん、選挙出るんやと。それで今日、わざわざ来てくれてん。応援て何したらいいんやろか。オレに何ができるやろか」

 熱心に尋ねる佐久ちゃんに、もともと無口なおじさんは、「おお、そうか」と頷いただけで、あとは黙って奥の部屋へ入っていった。

「なんかあったら、いつでも言うて来てや」

 嬉しそうに佐久ちゃんは繰り返す。熱い友情を感じさせる言葉が、この数年間の距離を埋め、二人を仲のよい幼馴染に戻してくれた。

 佐久間君の子どもたちも、初めて見る来訪者を興味津々で出迎えてくれた。居間に上がり、大学卒業後、進学塾で働いていたことや、金森さんのこと、毎晩選挙運動に歩いていることなどを話した。

 佐久ちゃんの隣りには、良美さんも座った。身近で力強い支持者が、一度に二人もできた。三人で時間を忘れて話し込み、柱の時計を見上げると十一時を過ぎていた。二人の子どもたちは、すでに床に就いている。

 家の前の道まで出て見送る佐久ちゃんと、お互い「ほな、おやすみ」と片手を上げて別れた。帰り道は、すでに真っ白に凍りついていた。

 自宅まで、百メートル足らずの道のり。雪明りの中、転ばないように注意しながら、少し浮かれて長靴をスケートのように滑らせて歩いた。

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