第8話 旧友との再会

 保育園の頃からの幼馴染であり、中学の三年間を同じクラスで過ごした佐久間君の家を訪ねた。

 大学一年の夏休み以来、これまでずっと顔を合わせていない。

 佐久ちゃんは高校を出るとすぐ地元の建設会社に勤めた。その年の夏、彼の新車のセダンでドライブに出かけた時のこと。車中いろいろとお互いの近況報告をした。東京や大学、仕事について。文学部に入学した僕は、将来の夢について「いつか小説家になりたいんや」と話すと、佐久ちゃんは「もっと現実を見たほうがいいよ」と答えただけだった。生活環境が大きく変わり、会話も微妙にすれ違った。

 それからは連絡を取り合うことも少なくなり、二年後、母から、彼が中学のクラスメートの宮田良美さんと結婚したことを聞かされた。決まりの悪さを押し隠して、ただ「ああ、そう」と答えた。三歳からの付き合いである。最も古い友人であり、一番よく分かり合えていると考えていたのは、僕だけだったのだろうか。

 次に顔を合わせたとき、「結婚したんや?」「あぁ、うん。倉ちゃん、東京やったで、連絡できんかったんや。悪かったのぉ」と、自然に会話を進められるのだろうか。言葉が途切れたときのバツの悪さを思うと、帰省のたび、つい彼の家の前を通るのさえ避けるようになっていた。

 それでも、地盤のない町内で誰か頼れる友人が必要な今、真っ先に思い浮かんだのは、やはり佐久ちゃんだった。ためらう気持ちもあるが、選挙の話題をきっかけに交友関係が復活するのではないかという淡い期待もしている。

 ゆっくりと玄関に近づくと、家の前には佐久間君のお父さんがいた。「義男は今、車庫やわ」と言われて、少しほっとしながら車庫へと向かう。そして裸電球の黄色い灯りの向こうの暗がりに、「佐久ちゃん」と呼びかける。車の陰から出てきた佐久ちゃんは、少し驚いた様子で「おお、久しぶりやのう」と言い、僕はそれからの話の展開を考えながら、複雑な気持ちで「うん」とだけ答えた。

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