第3話 選挙の筋書き

 立候補のきっかけは、五年前にさかのぼる。

 お盆に帰省したときのことだ。翌年の市議会議員選挙に立候補してみないかと、ふいに父は言った。星野川市選出の県議会議員に、金森国雄という人がいる。父が世話になっている人であり、父も長いあいだ支え続けてきた。その金森さんが引退するという。そして、市議会議員である甥の石川博人氏が、後継者として県議選に立候補する。その市議の枠に、僕を立候補させるのだという。さらに、石川氏が二期ほど県議を務めたあと、今度は僕が市議から県議へ立候補するというところまで、筋書きはできていた。

 驚くよりも、むしろ冗談だと思った。故郷に帰るつもりもなく、夢だけで東京にしがみついている自分にとって、まったく別世界の話である。

 金森氏は、父の政治センスを認めていただろうし、父には、有名私立大学卒の息子をなんとか立派な者にしたいという思いがあったのかもしれない。この機会に、故郷へ引き戻そうという思惑もあったであろう。

 自分の夢とのへだたりが大きい分、話に現実みがなく感じられた。父の態度も、僕の気持ち次第で話を進めるかどうか決めるしかないために、どこか曖昧な様子であった。

 その場は冗談として受け取って、東京に戻った。しばらく経った頃、電話で同じ話題が出て、初めて現実の話だと気づかされた。「そんなに政治家になりたいんやったら、自分が出ればいいやろう!」と反発する僕に、父は「しばらく考えてみろ」と言って電話を切った。

 そして、ただ時間は過ぎていった。

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