第2話 茫漠たる想いの果てに

 四年前の二十八歳の冬、僕は星野川市の市議会議員選挙に立候補した。

 大学卒業後、塾の講師をしながら、自分を表現できる仕事がしたいという漠然とした夢だけを求め、東京の街をさまよっていた自分に、ひとりの政治家から声が掛かったのである。白羽の矢が立ったと言えば美しいが、文学青年である僕にとって、まさに青天の霹靂であった。

 公務員である父の青年時代の夢は、政治家だった。現在は、県議会事務局で次長をしている。政治に関わりの深い父は、これまでも数多くの政治家との付き合いがあった。以前、同じ議会事務局で、議長秘書を務めたこともある。それから、いくつかの部署を回り、三年前に課長として議会事務局に戻ってきた。そして今年の春には次長に昇進し、新聞に顔写真が掲載され、たくさんのお祝いの言葉をいただいた。夢は叶わなかったかもしれないが、二年後の定年をもっともふさわしい場所で迎えることになるのだろう。

 僕の選挙の話が出たのも、そんな父からであった。

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