青い鳥は、灰色の空を見上げた
神代崇司
第1話 統一地方選挙の年に
北陸の空は、灰色である。愛想のないコンクリートの街、黒褐色の田畑を、冬の厚い雲が覆う。雪が静かに舞い降りる日は、すべてが純白に包まれて美しい。しかし、その雪もすぐに排気ガスに汚れて、道端を黒く染める。光を失くした濃淡のない景色。北陸の冬は、重く沈んだ灰色の風景が広がる。
星野川市は、山あいにある人口四万人の小都市である。碁盤の目に整備された町並みと静かな佇まいで、北陸の小京都と呼ばれている。面積の四分の三を占める山林に四方を囲まれた星野川は、豊富な地下水に恵まれ、市内のあちらこちらに清水と呼ばれる湧き水が見られる。
この幽邃の地も今年、統一地方選挙を迎える。二月の市議会議員選挙に始まり、三月の知事選、五月の県議選と続き、祭りのように騒がしく賑やかな選挙戦が繰り広げられることとなる。
一般的に選挙と言うと、一週間余りの運動期間、選挙カーが候補者の名前を連呼して走り回る、あの喧騒の風景を思い浮かべるだろう。でも実際は、事前運動のほうがはるかに長い。そして「清き一票を」と声高に叫ばれるのに反し、一票一万円で汚れた票の売買が行われているようだ。年末には御歳暮として酒が出回る。最後の追い上げで金が動く。すべて噂として聞こえてくる。
交通課の警察官から聞いた話だが、渡した側と受け取った側の双方が認めない限り、罪にはならないそうだ。それでは誰も捕まらないだろう。そんな選挙の汚れたイメージしかない政治の世界には、まったく興味がなかった。小学校の頃、教室からふざけて手を振り返した記憶。政治とは、それだけの印象だ。立候補者の掲示板には、お年寄りの顔写真がずらりと並んでいる。若い人には無縁の話だ。投票率の低さも納得できる。
僕もご多分に漏れず、政治に関心のない若者のひとりであった。
自分が、選挙に出るまでは。
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