第7話 俺から見た過去①

あくる日の昼休み俺は机に突っ伏して寝たふりをしていた。

うちの学校は携帯所持が許されているため、俺のような生徒は大抵スマホを触っている。

俺はというと、たまに友康や須賀とぐだぐだと駄弁っているときはあるが、基本は小説を読んでいるか、寝てるかのどちらかだ。

そして今日の俺は寝るという選択を取っていた。

今日は四間に催眠術を使ってくる国語の安原だったため、弁当を食べている時から眠気が凄かったのだ。そして今おなかも膨れて、もうゴール(寝る)は目の前だった。


「美奈子やばくないそれ~」

クラスの中でひと際でかい声が響いた。

ゴール直前だった俺はその一声で起こされた。

「別に向こうだって了承済みだし、そんなでもないって」

やたらと大きい声で喋ってたのは、クラスでもカーストの高い水瀬のグループだった。


というか、そのうちの一人の、……名前なんだったかな。まぁいいや、セミロングのギャルっぽい女、略してセミギャルの声だけがやたらと大きかった。

縄張り争いでもしてるのかよってぐらいの声量だな。

おかげで起きっちゃたじゃねぇか。


「でも水瀬ちゃんのそういうところ凄いよね。普通言わないし」

モブ子(名前知らない)が言う

「いや、本当それ。碓氷くんにもそうだけど、私たちにも普通言わないよね」

どうやら碓氷の話らしい。


「まぁ三人なら別にいいかなって。誰でも彼でも言いふらさないだろうし、それに広まったら広まったで、男子が寄ってくることも少なくなるって考えたら悪いことだけじゃないしね」

ちなみに三人っていうのは、渡辺を入れてのことだろう。寝たふりしてるから見えてねぇけど、水瀬と渡辺は大体一緒にいるからな。

というか、渡辺はともかくセミギャルやモブ子にまで話すってよく分かんねぇな。

まぁ俺が知らないだけで、セミギャルやモブ子も水瀬のいい友達なのかもな。

知らんけど。


「い、言わないよ。私水瀬ちゃんの友達だし!」

モブ子が声を張り上げる。

あるある。声の声量を間違えちゃうやつね。分かるわぁ…

「樋波の言う通り!言わないから安心しなよ」


「美奈子、彼氏できても束縛とかしなそうだし、言いたいことは速攻言うって感じマジうらやましい」

「そうかな」

「そうだよ。うちなんて、めちゃめちゃ面倒くさい性格してるから彼氏からこの前もウザいとか言われちゃったし……」

………やたらうるさい女が彼氏の前では、面倒くさい乙女になっちゃうのスゲェ良いな。

セミギャル、萌え分かってんじゃん。


「それって、あーちゃんだけが悪いのかな?そういうのって大概相手の方にも問題があるものじゃないの」

冷めているが、力強い言い方だった。顔を上げる。水瀬の顔はこちらからでは見えなかったがほかのメンバーは少し驚いているように見えた。

水瀬は当たっちゃたねと、謝罪していた。


その後チャイムが鳴って休み時間の終了を告げる。授業が始まっても身が入らず俺はさっきの水瀬の言葉の意味を知るために、少し昔のことを思い出していた……




            ☆



「なぁ、突然なんだがお前と水瀬の関係って何なんだ?」

「本当に突然だな。というか、一応授業中だろ。やらなくていいのかよ」

俺は目線を体育館でバドミントンをやっている連中に向けた。

「休憩中だよ。そんなずっとはやれねぇよ。疲れるだろうが」

カン、カンと緩い音が体育館に響き渡る。


「あれで、疲れるねぇ……」

「俺はちゃんとやってたんだよ。それにずる休みしてるお前に比べるとやってるだけまだあいつらのほうがマシってもんだ」

ずるじゃないんだが、それを説明するとめんどくさいことになりかねないのでまぁ適当に返すか。

「そうだな。俺に比べたらあいつらのほうがマシかもな」

「今日はえらく、物分かりがいいな。本当に何かあるのか?」

正解。とはもちろん言えないので何と答えようか考える。というかこいつ、嫌に鋭いな。悪い奴じゃないのは分かってきたがこういうところは苦手だな。


「考え込んでる時点で、何かあるのはバレバレだな」

「………秋風、お前と喋ってると本当体力使うよ」

「俺は大輔と喋るのは楽で助かるよ」

「そうかよ」

「まぁお前が言いたくないってなら、お前と水瀬との関係を喋るだけで勘弁してやるよ」

「嫌な奴だよ、お前は」

「褒め言葉として受け取っておこう」


中学二年の春、俺は秋風友康という男になぜだか水瀬との関係性を聞かれていた。


「……話してもいいんだがその前にどこからその話を聞いたのかという事となんでそんなことを聞きたがってるのかについては教えろよ」

「聞いたのはお前の小学校のクラスメイト達からだが、そもそもの話としてお前が水瀬を避けてたのが気になったからってとこだな。何で聞きたがってるのかについては、俺が自分の気になったことには少々知らないと我慢がならない性質だからだな」

「避けてたって、そんなもん普通に生きてたらわかるもんじゃないだろ……」

「だったら俺が普通じゃないってことだな」

秋風は得意げな顔をしている。いや、褒めたわけじゃないんだけど……。というこいつかどんだけ俺のこと普段から見てるんだよ。こぇよ。


「で、どういう関係なんだ?」

早く聞きたいのか妙にソワソワしている秋風を見て何だかご飯を待ってる犬みたいだなと思った。


「思春期なだけだよ。恥ずかしいだろ?そういう関係でもないのに茶化されたりするのはさ」

「本当に周りのことを気にしてたならそんな風には言えないね。実際はつり合いが取れてないとかそんなところか?」

「……分かってるなら、いちいち俺に聞かなくてもよかったんじゃないのか」

「悪かった。そう怒るなよ。憶測は所詮憶測でしかないからな。言葉を通わせないと見えてこないものもあるからな」

「それって、俺への助言のつもりか?だったら余計なお世話だ」

それだけ言って秋風の元を離れる。


当時の俺は友康のこの助言を素直に聞き入れることは出来なかった。

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幼馴染を振り向かせたい! ぽてち @kyougokukazusuke268

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