第6話 俺の最高の友達


「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」

大学生らしき女性のはきはきとした接客に俺は少し気おされながら、あ、三名でと根暗丸出しの対応をした。

陰を背負っているもの達はなぜ、会話の最初にあ、や、えーをつけてしまうんだろうな。

難儀な業を背負わされているものだ。やれやれ。

そもそも陽の人間が威圧してくるのが悪いんだよなぁ……俺達は悪くない。

「突っ立てないでさっさと行こうぜ」友康が俺の肩をポンポンと叩く。

「あぁ……」

窓際の席から離れた、奥の四人席に案内されて、須賀と友康、俺の三人が座る。

お決まりになられましたら、そこのボタンを押してください、という決まり台詞を言って店員さんが下がっていく。


メニューを見てみるとよくわからない小洒落た名前の物が並んでいて、取りあえずコーヒーって言っとけばいいだろう。カフェだし、と思考を完結させる。

そして水をぐびっと一口飲んで、俺は話を切り出した。

「おい、一体今日の昼休みのアレは何だったんだよ」少し声に凄みを聞かせる。

「いや、あいつがさ急に俺のところにきて、大輔くん紹介してくれない?って来たんだよ」

「で、お前はのこのこと俺を売ったって訳だ」

「人聞きが悪いなぁ。俺だって碓水と同じクラスじゃなかったら、あんなめんどくさいセッティングなんてしてねぇんだよ」

「あ?じゃぁ何か、クラスで権力のある碓氷くんにびびちゃったわけだ。友康くんは」

にやにやと友康を煽るように笑う。いつもはこいつに何かと水瀬のことで煽られてるからな。別に対して怒ってるわけじゃないが、ここらで少しお灸をすえてやっても罰は当たらんだろう。


「さっきの可愛い店員さんに陰キャ丸出しのあ、あ、あ、三名様でとか言ってた奴には言われたくねぇなあ」

「は?お前ちょ、ま、マジでふざけんなよ。そんなどもってねぇよ!!」

こいつなんてひどい奴だ。この男には人の心って奴がないのかよ。というか、あそこまでどもってなかっただろ……多分。

「いーや、どもってたね」

くそ、こいつ俺のことをバカにしやがって、こうなったら須賀に援軍として緊急要請だ!!!!


「おい、須賀、ちょっとこの誇張馬鹿になんか言ってやれよ。俺はもっとスマートに店員さんに接していたってな」

スマホを座っていた須賀が顔を上げていやそうな顔をする。

えぇ……というかこの子スマホ触り過ぎじゃない?現代人なの?現代人だったわ。

頭の中で高速ボケ突っ込みをしていると。


「……まぁでも確かに友康のは誇張しすぎだよね。大輔そこまでどもってなかったし、それにその人の個性を笑うのは良くないんじゃないの。知んないけど」

「す、須賀……」

ちょっと真剣なことを言って照れているのか、顔をうつ向かせてるのが、不覚にも可愛いと思ってしまったのはここだけの秘密だ。


それはそれとしてこいつなんていいことを言うんだ……そうだよなぁよくないよなぁそうやってひとのこせいをわるくいうなんてよぉ。

そんなことを考えながら腕組みをしながらうんうんと頷く俺。

「大輔のはただただ陰キャなだけだろ」

友康はぴしゃりと言い放ち、近くにいた店員さんに三人分のメニューの注文をする。

「俺、何でお前と友達やってんだろうなぁ。なぁ友康、俺に今月分の友達料金とか払っといた方がよくない?」

「別にいいけど、俺がお前への友達料金を払うなら、お前は俺への友達料金を払うべきだろ二倍ぐらいでな」

「……………………」

また負けてしまった。勝利を知りたい。


「……友康言い過ぎだから」

はぁ、もうね、須賀だけ。俺にはもう須賀しかいないのかもしれない。

「友恵、お前はまたそうやってすぐ大輔の味方をする。言いたいことがあるなら今この場で言ってもいいんだぞ。俺はすぐ退散───」

ずかっと、エルボーを須賀が友康に決める。

「痛っったぁ!痛っぇよバカ」

横腹を抑えながら友康が痛ってぇと小声でつぶやく。

「……余計なこと言うな。友康のそういうところ本当ウザい」

「そんなんだからお前なぁ………」

「別に……そんな………」


友康と須賀が二人一緒に小声で喋る。俺は何を言っているのか分からないため、コーヒー三人分を持ってきた店員さんにどうも、と会釈をしてから、コーヒーに口をつける。

うわ…これうっまぁ……流石よくわからないけど、近場で有名なだけのことのあるカフェだなぁ。こういうお店って結局評判のいいところは、何だかんだ上手いってところあるよなぁ。まぁ俺の舌がそんなに肥えてないからどれを飲んだり食べても上手いと思っちゃうってところもあるんだろうけど。

………というか、この二人はいつまで、仲睦まじく喋ってるんですかねぇ……こいつらこうやってたまに、俺を蚊帳の外に追いやって喋ることがあるんだよな。

良くないと思うなぁ。俺そういうの良くないと思う。先生、大輔くんが輪に入れなくて泣いてます。とか自分で言っちゃおうかな。

……悲しすぎる。何が悲しくて、そんな悲惨なことをしにゃならんのだ。

……いや、でもマジでなげぇな。何こいつら付き合ってんの?ラブなの。ラブってんの?俺はお邪魔虫ってか。かーーーー、っぺ。アホくさ。二人でやってろっての。どうせ俺はお邪魔虫ですよ。うだうだとネガティブ思考になって、暗黒面に染まる俺。


「悪い大輔。俺が言いすぎた」

イチャイチャタイムが終わったのか、頭を下げて謝る友康。

「いいねぇ、女がいるから他人に寛容になれる人間は、どうせ俺なんてよぉ……」

「?……よくわからんが、本当に俺が悪かった。謝るよ」

「友康もこう言ってるから、許してあげてよ大輔」


須賀も一緒に頭を下げる。

「あ、いや、別に俺もそんな気にしてないし、そもそもどもってたのも本当だし、先に吹っ掛けたのも俺だし……」

アレ?こうして考えるとまるで俺がダメな奴みたいじゃない?まさか大輔という男最低か?


「じゃあ仲直りだな」

ニッと笑って、手を差し出す友康。やっぱりこいつは最高の俺の友達だよ。そう考えなおして、手を握り返す。

「あ、あ、ってどもってたのは三回じゃなくて二回だったし、友達料金も倍じゃなくて1,5倍ぐらいだよな」

そう言って俺の最高の友達は最高の笑みを浮かべた。



…………おい、こいつマジで殴っていいだろ

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