第4話 はじめまして④

 私は、今日から新しい街で生活をするため、新幹線の窓側に座って流れる建物や空、海岸などを眺めていた。今まで生活していた街も私は大好きでした・・・仲の良い友達も多く居ましたし、商店街の人達ともうまくいっていたと思います。でも、急遽両親が海外へ転勤が決まり、私は日本に残るか、両親について海外留学をするかと言う選択を迫られ、日本に残る事に決めました。


 一人暮らしを心配した両親の薦めから、祖母の家で暮らす事になり、引越しの準備や友達とのお別れ会、新しい高校への編入試験や手続きに追われ忙しい日々を過ごしました。友達の皆はとても悲しんでくれて、それに釣られて私まで悲しくなったのは覚えています。でも、日本にいるので長期連休などは遊びに行こうと思えば行けるので便利な時代だなと思います。


 海外へ経つ両親と空港でお別れして、新しい街にやって来ました。


 着いて早々、変な男に声をかけられ、断ったら何故かしつこく話してきました。


 私の中で、最近慌しい日常や環境に変化もあるのでしょうが、しつこく迫ってくる男に強く拒絶したのですが、それが良くなかったのでしょう。相手のプライドを傷つけてしまい。その結果、私の方と強く掴んできたので、持っていた肩掛けの鞄で顔を叩いて逃げました。


「ハァハァ、まだ・・・追いかけて来る!?」


 後ろから「待ちやがれーッ!」と追いかけて来ますが、捕まればどうなるか分かったものではありません。心臓が破裂するぐらい懸命に逃げていると、背後に気を取られた私は、前を歩く人物とぶつかってしまう。


「ご、ごめんなさい」


 私も相手も転倒する事はなかったが自分の不注意でぶつかった為、きちんと謝りたいがその余裕がなく簡単に謝罪するだけにした。彼には申し訳ないことをしたと思う。


 このままだと、また誰かにぶつかるかもしれないし、車などにぶつかればそれこそただでは済まない。咄嗟に、裏の路地の入り口を見つけたので、そこに入る。


 急に薄暗くなり、少し空気も悪く感じる通りだったが、今の私には選択肢がなかったので、そのまま走り抜ける。


 この先が何処に続いているのか分からないけれど、曲がり角が多い分追いかけて来る男を撒けると判断した。


 何処かで人通りのある道に出ようと判断するものの、先ほどから曲がれる道が狭かったり、今より更に暗い道だったりするので、必然的に今逃げている道をただ走って逃げるだけだった。


 流石にこのまま逃げ続けても最終的には体力の差で追いつかれるかもしれない。既に彼女の息は上がり始めていたのだ。


「オラァーッ!! 待てって、言ってるだろッ!!」


 男は更に苛立ちを表に出して叫びながら走る。


 一体どうしたら良いの?


 突き当たりの道を右に曲がり直ぐに左に曲がると、前方から外の光が見えた。今も外にいるのだが、薄暗い為、屋内の倉庫か、日が落ちて少し明るさが残る時間帯にいる様な錯覚があった為、そう感じ取った。


 このまま大通りに出れば、人混みの中で姿を眩ませる事が出来る。私の事を見失えば、彼もこれ以上追いかけて来なくなる筈と考え、力いっぱい走った。


 眩い光で視界が一瞬失われた。


「こっちだッ!!」


 誰かわからない男の子の様な声の人物に腕を掴まれ、引き寄せられるのであった。











「こっちだッ!!」


 暗い所から急に明るい所へ移動したものだから、視界が一瞬失われてしまう。そんな中、彼女は腕を見知らぬ声の人物に掴まれ、引き寄せられた。


「キャッ」


 急な出来事に慌てる彼女は、先ほど追い掛けている男かと身構えるが、こんなに早く追いつけるとは思っていなかったので、警戒心を少しだけ解いて声の主を見る。


 あ・・・さっきぶつかった人だッ!!


 きちんと謝りもせず立ち去った事に怒って追い掛けてきたのだろうかと思ったが次の瞬間。彼は少女の手を引いて大通りを走りはじめた。彼女は今、何が起きているのか理解できない様子で惚けている。


「あの男の人から逃げているんだろ?彼は地元の人だから裏道も知っているはずだ・・・こっちッ!!」


 庸介は、彼女の手を握るとそのまま歩道橋を渡って反対側の通りに移動する。歩道橋を登っている時に男が裏路地から出てきて一瞬どこに行ったか探していたが、彼女を見つけると追い掛け始める。


 僅かでもあの男が彼女を探す為に立ち止まった事で時間を稼ぐ事が出来たが、そんなのはあってない様なもの。男は、追いかけていた美少女と呼んで良い彼女と別の男(庸介)が手を繋いでいる事に更に苛立ちの表情を表す。


 男が歩道橋に差し掛かった時には、二人は歩道橋を渡り終えていた。そのまま南方向に逃げる。北ではなく南に逃げたのは、裏路地に入れば先程の所以上に入り組んでいる為見失う可能性があったからだ。それにこの距離が縮まることが無ければ、そのまま大通りを走った先にある交番に逃げ込むのも一つの手だと判断した。


「こっちッ!!」


 彼女を引っ張り誘導する庸介だったが、彼女の体力がすでに限界なのは日を見るより明らかだ。


 このままだと確実に追いつかれるッ!!・・・どうする?


 走りながら考えるが、良い案が思い浮かばず、咄嗟に裏路地に入る事にした。


 だが、この道は庸介も知らない道のため、この先がどうなっているのか分からない。彼女が走っていた道に関しては、実は何度か通った事があったから分かったが、今いる裏路地は一部に関して知ってはいるが、でもほとんど知らない道の方が多い。


 ・・・・・?


 知らない道が多い・・・・はずなのだが、走っていると何だか見覚えのある感覚に囚われる。前に通ったことがあるそんな感じがするが、記憶にある限りではこの道は初めてのはずだ。


(何だ? このデジャブ感は・・・?)


 如何にか思い出そうとしたら、彼女が裏路地に置いてあったビールケースに右足をぶつけ、バランスを崩す。


「危ないッ!!」


 足をとられ、前のめりに転倒しそうになったので、慌てて彼女を支える。


 間一髪だった。


 人通りの少ない裏路地で抱き合う形となった庸介と夢に出てきた彼女。彼女の方は突然の出来事に心臓の鼓動が早くなる。走り続けた為か、それとも男性に抱きしめられた為か分からないが、恐らく前者だろうと思うことにする。


 ただ、心做しか彼女の頬が赤くなっている様に見えたのだった。

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Oxalis Frower(オキザリスの花) nahatovall @nahatovall

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