第2話

「っん」

 不意に、目が覚めた。いつも石畳の上でボロのかけ布一枚で寝ていたから、こんな柔らかなフカフカしている何かで寝た記憶がない。それに、口に猿轡の感触もない。何が、どうなっているの?

「目が覚めましたか?」

「・・・、っぁ」

「ああ、お水をどうぞ」

言葉を紡ごうとして声が出ず、側にいた優しそうな女性に水を飲ませてもらったが、かすれた声しか出なかった。

「ぁりがとうございます」

「大丈夫ですか、痛いところはございませんか?」

優しく問いかけてくれる姿に、胸が痛くなった。家族を殺し、表向きは危険な能力を持っているということで国に保護されて、結局は地下牢に入れられて好き勝手に利用されるだけされて、家と同じような地獄だった。この世界には先天的に持っている力、異能力と10歳の時に目覚めるスキルと呼ばれ二つの能力を持った人間が大半だ。たまにスキルに目覚めない人もいるけど、必ず一つは能力がある。私もみんなと同じように異能力を持ち、スキルを発現させた。異能力は氷だったのだけれど、それがあまりにも強すぎて家族には遠巻きにされていた。なにせ何もないのに常時、冷気を振りまき、さらには触れるものは全て氷漬け。安易に何かに障ることはできない状況だった。そして10歳の時に目覚めたスキル、それは人を可笑しくさせる精神を弄ぶような異質なスキルだった。それを発現させてから家族は私を除いてみな、おかしくなり、私のいない場所では普通になる。それに気付いた父と母は私を殺そうと兄や姉、祖父母まで連れて襲い掛かってきた。あの日のことは今でも覚えている。

「だい、じょうぶ、です」

「お医者様を呼んできますね」

 お前のせいだと叫ぶ家族、恨みはするが誰も愛してはくれない、凶器を振りかざされた瞬間。私は身の危機を感じた原因で異能力が勝手に発動し、鋭利な刃物にも負けないくらい尖った大きな氷の破片が家族の身体を貫いた。断末魔も血の鮮やかさも、何もかも覚えている。そして息絶えるその瞬間まで、私を睨みつけ、恨み節を言っていたことをちゃんと私は記憶している。何を言っていたのかも、全て。

「栄養をちゃんと取って、ゆっくり休んでください。傷も毎日、消毒してから寝てくださいね」

ほわっとしたおじいちゃんのお医者様に手を包まれる。人を殺した、罪人の、血に塗れた手を。

「はい、先生。私がいますから」

目が覚めた時からずっとそばにいてくれる女の人が返事をしてくれた。私はどうすればいいのかわからなくて、ただ聞くだけになってしまった。こんなに優しくされたことなんてないから。家族を殺し、それが街の人たちに知られて、国に伝わるまではすぐだった。それからすぐにやってきた国の人について行けば、地下牢に放り込まれて、足の腱を切られ、足枷と手枷、猿轡をつけられて放置された。たまに地下牢から出られる日があった。でもそれは誰かを殺すとき。

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咎人といわれた令嬢は赦される 高福あさひ @Fuji-lout

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