星を越えて

チタン

第1話

 僕ら二人の時間。

 そのかけがえのない時間は一日限りだ。


 君と僕には明日が来ない。

 夜が明ければ、またあの無情な日々に逆戻り。

 頭上に広がる星の海に切ない思いが滲んでいく。


 君の手をぎゅっと握った。君が僕の手を強く握り返した。今はただ、この時間を胸に刻みたかった。

 今この瞬間、時が止まってしまえばいいのに。



 君と出会ったのはもう5年も前になる。

 君の故郷であるこの星で、僕は君と出会った。

 何万光年も離れた星で生まれたのに、互いに一目惚れだった。


 けど、君の星では民間人の宇宙間渡航を禁じている。そして他の星からの移住も。

 だから僕は君とほとんど会うことが出来ない。年に一度だけこの星に降り立つことが許される、たった一日を除いては。君と出会って以来、僕は毎年その日にここへやってくるんだ。



 流れ星が空に瞬いた。

 星に願っても願いは叶わない。

 横目に見た君の頬に涙が伝ったのは気のせいじゃないだろう。


 夜が明ける。出発の時刻になる。

 君が涙を浮かべている。旅客機のドアが閉まって、君の顔が見えなくなる。


 僕はまた、灰色の日々に戻ってきた……。


 自分の母星こきょうで過ごす日々は苦痛だった。僕は君に会う一日だけのために生きている。

 時々不安になる。君の気持ちが消えてしまうんじゃないかと。遠すぎる場所にいる僕は、君の気持ちさえわからない。

 そんな日々ももう6年目だ。一度は君のことを諦めようとさえした。けど、結局そんなことは出来なかった。


 故郷から見上げる星を見て、君の顔を思い出す。目の前の風景がぼやけていく。

 いつか必ず君を迎えにいくから……。



 ――今年も遂にこの日が来た。

 長い、長い間待っていた。


 彼方の君へ。


 今年はいつもより小さい船で行くよ。

 個人用プライベート宇宙艇ジェット。少し狭いけど、これでも全財産はたいて買ったんだぜ?

 なあに、2人で乗るには十分さ。

 

 今から行くよ、星を越えて。

 あの窮屈な惑星ほしから、君を攫いに。

 

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星を越えて チタン @buntaito

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