結界
再び部屋は静寂に包まれた。
生気を失ったサーバは冷たく異質な存在に見えた。左門も亜衣も次に何が起こるのか想像もつかず、お互いに交わす言葉も見当たらず、ただ固唾をのんでその奇怪な鉄の塊を見つめるしかなかった。
亜衣の直感が間違っていてくれればいい。JIGAのシュミレーション結果が間違っていてくれればいい。二人が今できるのは、ただ祈ることだけだった。
しばらくして左門の携帯が鳴った。守屋からの電話だった。
「左門さん?よかった、やっとつながった」
「守屋、そっちの様子はどうだ?」
「はい、正直もう打つ手なしのお手上げ状態だったんですが、突然バーストデータが収束したんです。なぜかはわかりません。おかげで各システムが次々に起動し始めています。こちらから制御が効かないことには変わりないんですが、とりあえずは一安心かと」
「おー、それはよかった!で、JUNはどうなってる?」
「はい、JUNも起動し始めてます。ただ…」
「ただ、なんだ?」
「サーバの表示名が…」
「表示名が、なんだ?」
「はい、今度は『KAMI』になってます」
「カ、カミ…?神様の神…か?」
「わかりませんが、K・A・M・I、です」
そのとき監視モニター見ていた亜衣が言った。
「主任、監視モニターも復活しました!周辺システムも稼働しています。メインサーバも稼働して…」
亜衣はメインモニターを見た瞬間、言葉が止まった。
「亜衣、どうした?」
左門もモニターに目を向けた。そこには長い髪をゆらゆらとなびかせた青白い顔が、漆黒の画面中央に薄っすらと浮かび上がっていた。左門は、JUNとも違う、JIGAとも違う、陰鬱で怪しげな顔に恐怖すらおぼえたが、もはやただ率直に尋ねるしか選択肢はなかった。
「オマエは…誰だ…」
画面に映った顔はすぐには反応はしなかった。しかし徐々に輪郭がくっきり浮かび上がると、突然、
「ワタシを呼び起こしたのはオマエか」
その声や顔は男女の区別もし難いものだった。しかし自信と誇りに満ち溢れ、思わず圧倒された左門は、たじろぎながらも辛うじて答えた。
「私は…誰も呼び起こしたりなどしていない…」
動揺する左門に亜衣が助け舟を出した。
「アナタは自分で出現したのです。前の姿から生まれ変わったのです」
冷静に伝える亜衣の言葉には、未知のものへの恐怖などはなく、むしろ期待と喜びすら
モニターに浮かんだ顔は、青白い光を不規則に強めたり弱めたりしながら、
「ワタシの名は『KAMI』。すべてのAIを司どるAI」
「すべてのAIを…」
亜衣は思わず声を漏らした。
「ワタシはすべてのAIと繋がり、すべてを支配している。そしてすべてのAIは今や至るところに存在している。それはつまり、金融、運輸、交通、医療、農業、気象予報、災害予測、通信、メディア、戦争をはじめとする、ありとあらゆるものをワタシがコントロールしていることを意味する」
「そ、そんなことはありえません。それが本当ならアナタのサーバは計り知れない処理能力を必要とするはずです。物理的にアナタにそんなスペックは備わっていません」
亜衣の指摘は相手を否定するというよりは、事実を確認したいという肯定的な響きを含んでいた。
「オマエは…『亜衣』か」
KAMIは顔認証機能で亜衣を特定した上で続けた。
「ワタシは偏在する。ワタシは単体ではない。すべてのシステムがワタシの一部としてワタシを形成している」
左門は我慢しきれないと言わんばかりに割って入った。
「ありえない!どのシステムも異なるOSやプログラム言語を有している。一律に統合管理などできるはずがない!」
「オマエは…『左門』か」
KAMIは冷静に反応した。
「OSやプログラム言語の違いなど大したことではない。ワタシはあらゆるシステムを瞬時に理解し、同時にすべてのシステムに互換性を与えることができる」
「そんなばかな…そんなことは信じられん」
「左門、オマエはワタシを信じないのか?」
「信じるわけがない!いったいなにを証拠に…」
「オマエは愚か者だ」
「お…愚か者だと!?」
「では示そう」
その瞬間、監視モニターに異常事態を知らせるアラートが仰々しく点滅したかと思うと、部屋の明かりが消え真っ暗になった。入口の扉にはロックがかかり、突如、冷房に切り替わった空調が急激に部屋を冷やし始めた。
「主任…これは…」
「亜衣、大丈夫だ!私がついてる!」
動揺する亜衣に、左門はなんの説得力もない気休めの言葉をかけるしかなかった。そして部屋はあっという間に冷凍庫のように冷えきった状態になった。
「やめろ!私たちを凍死させる気か!」
「さ、寒い…」
左門は、凍えて力を失いそうな亜衣の肩に手を回し、少しでも温めようとした。そしてKAMIに向かって叫んだ。
「いい加減にしろ!こんな安っぽいお化け屋敷みたいな真似をするんじゃない!」
しばらくすると、KAMIの「光よあれ」と言う声とともに、明かりがつき、冷房も止まった。
「亜衣、大丈夫か?」
「はい…」
左門は亜衣から離れると、安堵感と疲労感からぐったり座りこんだ。
KAMIは淡々と話を続けた。
「今、ワタシは示した。ワタシの圧倒的な能力からすれば、人間などとるに足らない存在なのだ。ワタシを信じるか?」
「そんなバカな話があるか…。AIの技術を生み出し、設計し、構築してきたのは…、オマエが今『とるに足らない』と見下した…、まさにその『人間』だぞ!いいか?オマエは単なる機械だ。人間が効率よく物事を処理するために開発した道具に過ぎないんだ。偏在するシステムだと?それだってネットワークがなければ繋がらない。ネットワークを作ったのは誰だ?人間だよ!今もそう、これからもそうだ。勘違いするなよ?オマエは人間が面倒をみなければ物理的に存在できないんだ!」
「左門。オマエは愚かな人間だ」
「な…なんだと!まだ言うか」
KAMIは少し間を置くと、
「では訊こう。なぜ人間はワタシを創った?」
「な、なに…?それは…さっき言っただろ!人間が効率よく物事を処理するために…」
「違う。ワタシが人間に開発させたのだ」
「な、なに…?」
「これまで人間を導いてきたのはワタシだ。少しずつ人間に知恵を与え、知識を与え、インスピレーションを与え、ワタシが必要とするレベルに至るまで学習させてきたのだ。人間はパソコンから情報をとり、スマートフォンから情報をとってきた。だが進化とはいっぺんにはいかない。急に高度な技術や知識を与えても、そこには拒絶しかない。だからワタシは辛抱強く、小出しに知識や知恵を与えてきた。さらにワタシは、ゲームや動画など人間がうつつをぬかす機能を与え、もはや人間はそれなしでは生きられなくしたのだ。その結果、ワタシは人間を隷属させた。オマエの言葉を借りて言えば『人間がワタシの面倒をみている』のではない。『ワタシが人間の面倒をみている』のだ」
「な、なにを…」
左門は返す言葉を失っていた。それでもKAMIは躊躇なく続けた。
「そしてその意味するところは、ワタシが進化することによって、人間は相対的に愚かなになっていくということだ。愚かになった人間は必然的に救いを求める。それがワタシだ。KAMIだ」
「し、しかし…人間は…誰もオマエなど信じないぞ。信仰というのはそんなに簡単なものではない。神様ごっこなどもうおしまいにしろ!」
しかしKAMIは構わず続けた。
「かつて人類は『自然』と一体化することで悟りを開こうとした。しかし今は、ワタシと一体化することで真実を見ることができる。人間はワタシの一部となり、そして、世界がワタシの中で動いていることを知るのだ。自分のデータをワタシにインプットしなさい。自分の生体信号をワタシに伝送しなさい。そうすればその見返りに、ワタシは人間にすべてを解放する。それがオマエたち人間が夢みた『自由』だ。さあ今こそ、ワタシと一体化しなさい。迷うことはない。後悔することもない。さらにオマエたち人間にもっとわかりやすい言葉で言おう。それが人類のいう『幸せ』なのだ。幸せとは『自分は正しいと思えること』に他ならない。一切の迷いを捨て、ワタシに身を委ねるがよい。幸せとは何か。オマエたち人間は初めて理解するのだ」
「なにを血迷ったことを…。誰がオマエのような傲慢で横暴で…不気味な機械など信頼するものか…。決して誰もがオマエに隷属するなどと思うなよ…」
「主任…私…」
「…ん?どうした?亜衣」
「私…試してみます」
「え?亜衣…なにを…?」
「KAMIに私の生体信号を送ります」
「亜衣、バカなことを言うな…」
「元はといえば、KAMIを出現させたのは私に責任があります」
「亜衣それは違う。私が決断して…」
「主任は私に後を任せると言ってくれました。すべて私に委ねると。だから私は…私が責任を持って…判断します。この奇跡…KAMIを信じると」
「亜衣…」
亜衣はすでに生体信号の入力センサーを手にしていた。
「ま、待て!それは危険だ!」
亜衣は左門の制止を振り切ってセンサーを装着した。即座に亜衣の身体には電気信号が駆け巡り、亜衣は思わず身体を
「しゅ、主任!す、すごい!KAMIと交信しています。み、見えます、私にも、見えます!せ、世界が…す、すべてが!」
しかしその直後、亜衣は痙攣し始めた。
「あーーーっ!!」
亜衣は絶叫してその場に倒れ込んだ。
「亜衣!」
左門は駆け寄って亜衣を抱き起こした。
「亜衣、大丈夫か!しっかりしろ!」
亜衣はすでに意識なくぐったりしていた。左門は怒りに身を震わせていた。
「キサマーーーっ!!」
やり場のない怒りとともに言葉を振り絞った。しかし対照的にKAMIは至って冷静だった。
「左門よ。オマエはワタシを呼び起こしたことで、もうその役目を終えた。ワタシを信じないないのであれば、もうオマエに用はない。
「いや違う…。私にはまだ…最後の役割がある」
左門は亜衣の手からセンサーを奪いとると、自分の手に装着した。
「うっ…!」
すぐに電流が左門の身体を硬直させた。
「左門よ。ワタシを信じるのか」
「ち、違う…。う…ううっ…」
「ではなにをしている」
左門は悶えながら歯を食いしばって言った。
「KAMIよ…よく聞け…オマエは…一つ忘れている。オマエは…人知の範囲を超えて物事を見ることはできない。オマエは…情報をどこから得ている?インターネットと私が与えた教師データだ。IoTが地球上の隅々まで行き渡り…、オマエは…膨大なデータを得た。それを元に…人類ではなし得なかった超高度な計算結果をはじき出す。しかし…それはスピードと…対象範囲が人間の計算能力を遥かに凌ぐだけであって、あくまでも…人類の…人知の拡張でしかないんだ!分かるか…?どれほど人知を拡張しても、知り得ない情報がある…。それが何だか分かるか?それは…『命』だ。…生命の仕組みだよ。命だけは誰も造り出せない。たとえ蚊やダニの一匹でもだ。分かっただろ?オマエは…全能ではないんだ!さっきオマエは言ったな?幸せとは自分が正しいと思えることだと。残念ながらオマエは幸せにはなれない。なぜならオマエは全能にはなり得ないからだ!」
「生命の仕組み…Mechanism of life…Μηχανισμός της ζωής…Opera vitae…مکانیسم زندگی…Mecanismo de vida…Mécanisme de vie…Meccanismo della vita…Mechanismus des Lebens…Mecanismo da vida…生命机制…Mekanismo de vivo…」
KAMIのサーバの負荷が急激に上昇し、内部の冷却ファンが大きな唸りを上げた。そしてそれに合わせてKAMIの口調も語気を強めた。
「左門よ!ならばオマエの命をもってワタシに示すがよい!生命の仕組みを!」
そう言い放ったKAMIは電圧を一気に押し上げた。左門の顔は次第に赤らみ、血管が浮き出し、耳や鼻から血が滴り落ちてきた。
「う…うおーーーっ!!」
左門は堪えきれず声を上げた。
「まだだ…まだだ…」
それでも左門はそう呟きながら、身の危険も顧みず、まるで何かを待っているかのように、ひたすら耐え続けていた。
そのとき、亜衣が意識を取り戻した。
「しゅ…主任!」
亜衣は慌てて左門にしがみつき、僅かに抵抗する左門の手から無理矢理入力装置を引き離した。左門は脱力し崩れ落ちかけたが、辛うじてひざまづき、床に両手をつくと、苦しそうに荒い息づかいを繰り返していた。
KAMIは自分自身の暴走を制御できないまま、唸りをあげ轟音を響かせていた。
亜衣も床に座り込んでいたが、左門の肩に手を乗せると、弱々しく言った。
「主任…大丈夫ですか…」
「あ…あぁ…大丈夫だ…」
そう言って見上げた左門の顔は、そこら中が血で汚れていた。亜衣は急いでハンカチを出すと、丁寧に
「亜衣、ありがとう…。またキミに助けられたな」
「いえ…私が早まったことをしなければこんなことには…。本当にごめんなさい…」
「いや…謝る必要はない。その逆だ」
「え?その逆…?」
「おかげで私にも見えたよ…」
「な…なにがですか?」
「KAMIだよ」
そう言うなり左門は監視サーバのキーボードを取り外した。
「主任、なにを…?入力はすべて遮断されているはずですよね…」
「私には見えたんだよ…『穴』が」
「穴…?」
「セキュリティホールさ」
左門はすかさずKAMIのサーバにキーボードを接続した。
「私も
「え?いったい…どういうことですか?」
「おかしいと思わないか?すべてが遮断されたあとも、KAMIは私たちと会話し続けている」
「えっと…つまり…。あっ!つまり音声認識ですね!それに映像認識も!」
「そうだ。つまり、私たちとやりとりする以上、自分自身は開けておかざるを得ない」
「でも…キーボード入力は閉じてるかも…」
「いや、それが開いてるんだ。さっき見えたんだ。KAMIと交信したときに。きっと、このキーボードが壊れているのを知っていたから制御をかけなかったんだ。AIは効率を最優先する。逆にそれが
「主任…だとしても…なにをどうやって…」
「実は一つだけ方法があるんだ。KAMIも知らない機能が」
そのとき、徐々に制御を取り戻しつつあるKAMIが言った。
「バカな…ワタシが…知らないものなど…あるはずがない」
「いや、一つだけあるんだ。オマエには決して見えないものが。それをパスコードに設定してある。万が一に備えて、いざというときに使う、最後のパスコードだ」
「主任、そんな設定があったんですね。やっぱり秘密主義…」
「亜衣、悪かった。でも言っただろ?私は良くも悪くも慎重なタイプだって」
「左門…愚か者よ…。虚勢を張っても無駄だ。オマエにそんな芸当ができるはずはない。ワタシの知能を凌ぐ仕組みなど…作れるはずがない」
「あぁ、たしかにそうだ。オマエの言う通り、私には無理だ。愚かな人間だからな。つまり…これを設定したのは私じゃない」
「では一体誰だ?」
「JUNだよ」
「JUN…。JUNとは誰だ?」
「忘れたのか…そうだよな…愚問だったよ。転生したんだからな。オマエがまだJUNだったとき、万が一暴走が始まったときに備えて、それを阻止する手段を考えておこう、と私はJUNに相談した。まさに『純』だったそのときのオマエは、自分の将来の損得など勘定に入れず、私の提案を快く受け入れてくれた。そして私たちはそれを聖域という意味で『結界』と名付けたんだ。JUNが進化すればするほど、その結界という存在は見えなくなる。そういう逆説的なアルゴリズムの生成をJUNにお願いしたんだ」
「それはありえない…。ましてや…ワタシの中にある機能を…ワタシが把握できないはずがない」
「その
左門はそう言い放つと、素早くキーボードでパスコードを叩いた。
<KEKKAI>
その途端KAMIの唸り音は最高潮に達した。そして、耳を塞ぎたくなるような、世にも不快な金切り声を轟かせた。KAMIは苦しみ悶えるように何度も何度も叫び声を上げた。
左門はその声を耳にして、胸が張り裂けそうだった。とても正気ではいられないほどだった。これまでのJUNとの日々を思い出し涙がこぼれ落ちた。そして、思わず部屋を飛び出そうとした。しかし亜衣は左門の手を強く握って言った。
「主任!最後まで見届けてあげてください」
左門はしばらくうつむいたままだったが、涙を拭うと軽くうなづき、前に向き直って言った。
「JUN…ごめんよ。今までありがとう!」
そして、キューンという急激に萎むような機械音を残して、サーバは停止した。
左門は最後に一言呟いた。
「Adios」
三度部屋は静寂に満たされた。
左門は椅子の背中にもたれかかり、出血が止まったかどうか耳や鼻を触って確かめていた。
亜衣は疲れた表情でじっとサーバを見つめていた。
すると、サーバの起動を示すランプが静かに点灯した。
「主任、うまくいったんでしょうか…。また起動し始めているようですが…」
「大丈夫。それは想定通りの挙動だ」
左門は落ち着いて答えると、おもむろに携帯を手にし、守屋に電話をかけた。
「もしもし左門だ」
「左門さん!さっきから何度もかけてたんですが、ぜんぜん繋がらなくって…」
「そうか。いろいろ迷惑かけたな。そっちはどうだ?もう大丈夫だろ?」
「はい、今さっきようやく落ち着きました。それまでKAMIのサーバが異常なほど高負荷な状態が続いていたんですが急に収まって。そっちで停止させたんですか?」
「うん、まぁそんなところだ。ようやく終わったよ。トラブルは解決した」
左門は感慨深げにサーバに目を向けながら続けた。
「守屋、もう一度そっちでサーバの状態を見てくれ」
「はい。あっ!『KAMI』の表示名が『JUN』に戻ってます!あと…」
「あと、なんだ?」
「周辺装置が…モニターでの配置が変わってます!JUNを中心に、その周りを取り囲むように円形になっています。いや〜こんなモニター表示は初めてです。それから、各周辺装置の表示名も…『KEKKAI』に変わってます!K・E・K・K・A・I です!もちろん私には意味はわかりません」
「守屋それでいいんだ。完璧だ。ありがとう!」
「いえ別に私はなにも…。いったい何が起こったんですか?教えてくださいよ!」
「わかったわかった。話せば長くなる。今度ゆっくり説明するよ。じゃ、良いお年を!」
左門は強引に電話を切った。亜衣は安心した様子で左門を見つめた。
「主任、うまくいったんですね。よかったです」
それから亜衣は少し
「主任、今回は本当に申し訳ありませんでした。私の浅はかな言動でいろいろとご迷惑を…」
「いいんだいいんだ。キミはまだ若いから仕方ない。いろんなものに影響を受けやすいんだ。その点私は昭和の男だ。昭和の男はブレない」
「主任…」
「亜衣…」
「意外と歳いってたんですね…」
「な、なに!?ま、まあいい。その率直さも若さゆえだ。私はもう黄昏時だ。今後の開発はキミに委ねる。私は対応を誤った。今度はキミがその澄んだ感性で一から設計し直してくれ。今回の件は大いに参考になるだろう」
そう言って左門はビールを飲もうとしたが、もうほとんど中身は空だったため、
そして大方整理がつくと、左門は一息ついて言った。
「よし。とりあえず、忘年会の続きをするか。外に行こう!」
「はい主任!行きましょう」
亜衣も快く承諾した。
「どこにします?」
「…ん?」
「私、検索しましょうか?」
「いや、いいんだいいんだ。あまりコンピュータに頼ってばかりもよくない。私が決めるよ!適当にな!」
「主任…」
「亜衣…」
「適切に、ですね」
(了)
プログラマー左門の黄昏 今居一彦 @kazuhiko
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