第408話 花梨と子作りクッキー
えっ? なに、ゴッド? うん、これを言えば良いの?
タイトルは誤字じゃない。
なにこの呪文。あれ? なんで答えてくれないの? ヘイ、ゴッド?
「せんぱーい! 公平せんぱーい!! おはようございまーす!!」
「おう。おはよう。寒いのに朝から元気だなぁ」
「元気にもなりますよ! だって、デキたんです!!」
「おう。何が?」
「……もぉー。先輩、あんな事したのに。責任、取って下さいよ?」
「ちょっと待って!? 何が!? 俺、何したの!?」
ヤダ、ちょっと、登校中の学友の視線が急にレーザービームに!
刺すような視線が、有名な美術館の夜の警備の赤外線センサーみたいに!!
こんなの
それができるのはルパンかトム・クルーズくらいだもん!!
「ちょ、花梨! 花梨さん!! ちょっと人気のないところに行こうか!!」
俺はどうして自分で傷口を広げていくのか。
結局、花梨の手を引いて校門をくぐって、そのまま生徒会室へイン!
途中から俺が手を引いていた花梨が先を歩いており、要介護者の様相をありありと晒しつつ、手を引っ張ってもらった事は言うまでもないだろう。
「はひぃ、あひぃ、うふん」
「大丈夫ですか? 公平先輩? はい、お茶です」
「お、おう。ありがとう。あー。ぬるめにしてくれたのか。花梨は気が利くなぁ」
「えへへ。そうですか?」
ただね、俺が死にそうになっている原因も、君なんだよね。
その辺りの話を詳しく聞こうか?
「そうでした! デキたんですよ、先輩! 先輩の子供が!!」
「今、この瞬間、花梨を人気のない場所に連れて来て心から良かったと思うよ!!」
誤解しないで頂きたい。
俺は、もちろん年頃の高校生として、有り体に言うと性に関心はある。
そこは認めるよ。刺激的な本だって買っちゃう。
ただ、本当に信じて欲しい。
俺は交際もしていない女子に手を出すような、あまつさえデキちゃった系のハレンチをしでかすような男ではない。
誓って、何もしていない。
それともアレかな?
この世界では、手を繋いだらキャベツ畑に赤ちゃんが生まれるのかな?
そのシステムなら納得できるけど、新たな問題が出て来るよね。
俺、どんだけ子だくさんになるの!?
とにかく、スキだらけな後輩にこれ以上不用意な発言をさせてなるものか。
この口はここで塞いでやる。
ほら! もう何言ってもいやらしく聞こえるじゃん!!
酷い風評被害だよこれは!! ちょっと、ゴッド、助けて!!
「じゃーん! 見て下さい、先輩! 公平先輩クッキーです!! パパに挨拶しましょうねー。やあ、パパ! 花梨ちゃんに作られた子供だよ!!」
色々と言いたい事はあるが。
俺を模したクッキーが俺の子供だった事をまず報告したのち、深刻な状況について脳内で会議が開かれた。
俺の息子(クッキー)を片手に、ニコニコと裏声で下手な腹話術をする花梨。
ちくしょう!! むちゃくちゃ可愛いじゃねぇか!! ちくしょう!!
叱れないよ!
こんなに嬉しそうに俺の子供(クッキー)抱いてはしゃぐ花梨を!!
どうして叱ることができようか!!
でもダメだ。
このテンションの花梨を野に放ったら、どこかしらですぐにボヤ騒ぎが起こる。
何か、何か彼女の口を塞ぐ、良い方策はないものか。
頑張れ俺の脳細胞。なんか知恵出せ、俺の脳細胞。
「俺ぁ、花梨と二人きりの時が良いな。子供作るとこ、見せてくれよ」
「へぁっ!? え、あの、それってどういう……」
あたいって、ほんとバカ。
そして放課後。
生徒会の仕事を終えた俺は、どこにいるのか。
それを敢えて言うのは無粋であり、言わずともすぐに知れるので黙っておく。
久しぶりの来訪である。
文化祭の時は、むちゃくちゃお世話になったなぁ。
「ただいまー。ささ、どうぞどうぞー! せーんぱい!!」
「おじゃまします」
冴木邸である。
そうなると、そろそろ「くっくっく」と船の汽笛を思わせる低音の笑い声が聞こえてくる時分である。
「お帰りなさいやっせー! お嬢様ー!!」
「「「お帰りなさいやっせー!!!」」」
あれ、こんな感じだったっけ? 花梨の家ってさ。
違うよね。使用人の人はいつ来てもいるけど、
「お嬢様ー! お飲み物はいかがっしましょーかー!!」
「紅茶をお願いします」
「はい、お紅茶入りましたー!!」
「「「ありがとうごぜいやーす!!!」」」
居酒屋かな?
と言うか、使用人の方たち、気のせいじゃなければ普段の5倍くらいいるね?
何事? 別の世界線の花梨の家かな?
「花梨さん? なんかいつもと違う気がするんだけど」
「あー! ごめんなさい! 今、パパが新しく展開する居酒屋のオーナーを家で育成するとか言って、使用人が増えてるんです。うるさいですよね」
「あ、そう言うことだったのか。いやいや、俺ぁ別に気にならんよ?」
居酒屋だったよ。
「ご新規様、お名前をお願いしゃーす」
「あ、はい。桐島です」
「桐島様、ごあんなーい!! ようこそいらっしゃいましたー!!」
「「「いらっしゃーしたー!!」」」
ごめん、やっぱうるせぇな。
そして、使用人の林を抜けると、いつものリビングと言う名の大広間。
もうホッとする。
こんなバカ広いリビング見てホッとするとか、俺も偉くなったもんだなぁ。
「いらっしゃいませ。桐島様」
「これはどうも、磯部さん! ご無沙汰してます! 文化祭の時はお世話になりました!」
「うっ……」
「ど、どうされたんですか!?」
「いえ。文化祭と聞くと、胃の古傷がうずきまして」
「胃の古傷が!?」
「磯部さーん! 今から先輩とクッキー作りたいんですけど、良いですかぁ?」
「もちろんでございます。桐島様、我らシェフ一同、一時はあなたをお恨みしました」
えっ!?
「しかし、今では感謝しかございません。お嬢様を、お嬢様をよくぞ、ここまでの! くぅぅぅぅっ!! ここまでの料理上手がぁぁぁぁ!! うぅぅぅぅぅん!!」
「おい、料理長が発作だ! 号泣謝罪会見みたいになってる!!」
「大丈夫ですよ、磯部さん! もう、ポテトはいません!! 過呼吸だ! 誰か、紙袋!!」
「ダメだ、ダメ! 娘さんの写真も持って来て!!」
俺は何か、大変なことをしてしまったのかもしれない。
「せーんぱい! どうですか? 先輩の大好きな、制服エプロンですよー?」
が、とりあえずこのままではツッコミだけで話が終わりそうなので、冴木家の色々についてはもうこの際無視する事に決めた。
大丈夫だ。どうせ、そのうちロシア軍人みたいな髭の御仁が来てくれる。
「おう。可愛いな! ポニーテールなのもポイント高い!!」
「えへへー。あたし、気合を入れる時はポニーテールなので!」
「初めてデートに行った遊園地でもポニーテールだったよな!」
「覚えててくれたんですか? もぉー! 先輩はあたしを喜ばせるのが上手です!!」
そして使用人の方がエプロンを持って来てくれる。
居酒屋スタイルにはもうつっこまない。
「おっし! んじゃ、花梨先生! クッキーの作り方、教えてくれ!」
「へっ? 先輩、知ってるんじゃないんですか?」
「そりゃあ、まあ、基本的な事はな? でも、花梨の作るクッキーは、特別だろ? せっかくだから、その特別な作り方、教えてくれよ」
「も、もぉー! 先輩って、そーゆうところありますよね!! ホントにぃー!!」
「おう。なんか知らんが、そーゆうところがあるんだ、俺ぁ」
「じゃあ、一緒に作りましょうね? 先輩の子供たち!」
「そうだな! バンバン作ろう! 俺も張り切っちまうぜ!」
そして花梨の繰り出す、進化した料理スキル。
卵を片手でパカーンとやって割った時には、思わず興奮して声が出た。
しっかりと材料の分量をミリの単位まで計って、隠し味には砕いたナッツ。
さらにマシュマロとかジャムなんか挟んだりしちゃって、うちの後輩がいつの間にか料理上手なお嫁さんに見えて来るんだから不思議。
一方、先ほどの「子作り」発言を聞いた執事の偉い人が、パパ上に「お屋形様! お嬢様が、お子を作られるそうです!!」と電話をしている事を俺はまだ知らない。
花梨パパがリムジンを法定速度ギリギリで走らせながら、大手ベビー用品店を買収している事実を知るまで、あと1時間と少々。
ちょうど、俺の形をしたクッキーが美味しく焼き上がる時分である。
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