第406話 心菜ちゃんと芋掘り
「はわわー! 兄さま、こんばんは、なのですー!!」
よし来た! もう明日の予定は全部空ける!!
失礼、興奮し過ぎました。
だって、風呂上りに突然心菜ちゃんからテレビ電話が来るんだもん。
パッションが弾けて、もう脇の下に汗かき始めてるよ。
「兄さま、明日の夕方ってお暇なのです?」
「暇じゃないはずがないね! もうずーっと暇だよ!?」
メモ帳を確認。
放課後にインフルエンザ予防を呼びかける挨拶運動と書いてある。
斜線で消しとこう。
その横に「堀さんには高橋を派遣するって言っとけばオールオッケー」と書き加える。
あとの仕事はアレだな。
持ち帰りだ。毬萌に決裁印貰えば完璧。
「心菜のマンションで、お芋掘りがあるのです! 兄さまと一緒にしたいのです!!」
「よーし! 一番デカい芋を掘ろうね!! 兄さま、本気出すから!!」
中身を確認すべく開いていた財布はベッドにぶん投げた。
お金よりもね、大切な事って、あるんだよ?
「えとえと、公平兄さまー?」
「おう。どうしたのかな?」
5000円までなら無条件で出します。
10000円でも喜んで出します。
20000円は少し待って下さい。リトルラビットでバイトして来ます。
「姉さまを元気にして欲しいのです……」
「おう?」
心菜ちゃんがしょんぼりしている。
これはいけない。
心菜ちゃんがしょんぼりするとか、地球規模の損失である。
そして氷野さんが元気をなくしておるとな。
すぐに先日の嘘告白事件が頭に浮かんだ。
最近は学校でもすれ違い気味で、ちゃんと様子を見てあげられない日々が続いていたが、やっぱりまだ尾を引いているのか。
あの氷野さんが、心菜ちゃんに心配をかけるとは、ただ事ではない。
そして、騒動に関わっている俺としては、心菜ちゃんの願いをかなえるべき責任があるかと思われた。
そもそも、どうしてもっと早くフォローしてあげなかったのか。
俺の中で氷野さんは、強い女の子だと勝手にイメージしていたが、何たる愚鈍か。
彼女だって乙女。
乙女心を傷つけられたらば、元気だって出ない。
しかも、普段は素っ気ない態度をしているだけに、傷の治りも遅いのだろう。
俺がおどけて見せて、彼女が笑顔を取り戻すならば、いくらでも
「心菜ちゃん! お芋掘るついでに、姉さまにも元気になってもらおうな!」
「はわっ! ……やっぱり、公平兄さまは頼りになるのです!」
「いやいや、なんの! このくらい、普通だよ」
「兄さまのそーゆうところ、心菜、好きなのです! はわわ、恥ずかしいのです!」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!
そして名残惜しみながら通話は終了。
俺の明日の予定が埋まった。
年の瀬ってのは慌ただしいものなのである。
「あ、もしもし。高橋? うん、そうそう。頼んでたヤツな! 分かってるって、今度ビッグマック奢るから! 大丈夫、ポテトはLサイズな! はいはい!」
放課後の生徒会室にて、俺は用事を済ませる。
スピードは超速で。イメージは光速で。
「花梨、ちょっと俺の分の書類まとめて分けてくれるか?」
「あ、はい! どうかしたんですか?」
「おう。ちょっくら野暮用がな! 花梨は今日も可愛いなぁ!!」
「へぁっ!? も、もぉー! 何なんですかぁー。すぐに仕分けますね!」
今日の花梨さん、意外とチョロ……扱いやすい。
違うんやで? 別に、今日は
冷たい目をしてこっち見るのヤメて貰っても良いですか? ヘイ、ゴッド!!
「鬼瓦くん! 相撲部の鉄砲柱の修繕、業者さんが今日来るから、立ち合い任せても良いか!? 相撲だけにな! うふふ!!」
「ゔぁい! お任せください」
なんて頼りになる後輩たち。
ああ、俺ぁ幸せ者だ。
「毬萌! 仕事持って帰る決裁印くれ!!」
「みゃーっ……。なんか、コウちゃんがウキウキしてるのだ」
やはり、この関所だけはフリーパスとはいかない。
しかし、カードは揃えている。
「……毬萌にだけ内緒で、冬の新作コンビニスイーツ奢ってやっから!!」
「みゃっ!? い、言っとくけど、まるごとバナナだけじゃ嫌だよっ!?」
「ローソンの、何とかいうカップケーキ。あの、300円もするヤツ。……3個までなら買っても良いぞ? お前だけ、特別な? と・く・べ・つ!!」
「こ、コウちゃんは仕方のないコウちゃんだなぁ! はい、ぺったん!!」
「おっしゃ! んじゃ、俺ぁお先に! みんな、アデュー!!」
コート羽織ったら準備完了。
生徒会室を飛び出した。
「氷野先輩なら、もう帰られましたよ?」
視聴覚室にやってきた俺に、松井さんが告げる。
「マジか。一足遅かった。やっぱ、先に誘っとくべきだったかね」
「氷野先輩に用事ですか?」
「おう。ちょいと元気づけてやれたらなぁと思ってな。ほれ、この間の……」
松井さんは現場にいたため、この件に関してはツーカーである。
「桐島先輩って、ホントに面倒見の良い人ですね!」
「いや、これくらいマジで普通だって。つーか、俺も関わってる事だしな。あと、氷野さんには元気でいてもらわねぇと! うちの学園のセキュリティが落ちる!」
「ふふっ、そうですね! うちの委員長のこと、よろしくお願いします!」
松井さんに挨拶をして、俺は小走りでバス停へ。
氷野さんのマンションは歩いていける距離であるが、歩いて行くと体力が
こういう時は、迷わず交通機関を利用するのだ。
「はわわー! 兄さまー! こっちなのですー!!」
ジャージ姿の心菜ちゃん。うん。可愛い。
もう、ジャージって言う普通の恰好が逆にレアだよね。
と言うか、心菜ちゃんは存在自体がプレミアムだよね。
「……よっ。寒いのに、よく来たわね。桐島公平」
「おう。氷野さん! せっかく一緒に帰ろうと思ったのに、俺を置いてくなんて! いけずな人だぜ!」
「……そういう気分だったのよ。別にいいでしょ」
普段なら、挨拶代わりのローキックか、ヘッドロックがきまるところなのに。
今日の氷野さんはとっても穏やか。
これはいけない。
「それにしても、12月に芋掘りってのは珍しいな」
「なんか、遅い時期まで収穫できるサツマイモらしいわよ。……詳しくは知らないけど」
「ほへえ。知らんかった。帰りに品種聞いとこうかな。俺の家庭菜園の仲間に是非加えたい」
「好きにすれば」
おかしいな。会話が盛り上がらない。
相手と打ち解けられない時には、まず自分を疑えとは、俺の尊敬する土井先輩のお言葉である。
つまり、氷野さんが元気のない原因は……あれ、俺じゃないか。
「兄さまー! 姉さまー!! 畑まで一緒に行くのです!!」
「え、ええ! そうね!」
ほら、心菜ちゃんの前では、かなり無理している感じはあるものの、普段通りを装おうとしているもの。
「兄さまー! こっちの手を繋いでほしいのです! 手を繋ぐと温かいのですー!!」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!
おっと、失礼。
心菜ちゃんの小さな手が、触れると消えちゃいそうな柔らかい手が、ちょっとばかり俺の精神をシェイクするものだから、ウルトラソウルをキメちゃった。
そして到着、マンションの芋畑。
「ここのお芋さん、みんなで交代しながら面倒見て来たのです!」
「あー。なるほど、住民みんなで世話してんのかー。良いなぁ、そう言う取り組み」
「心菜も頑張ったのです! むふーっ」
ドヤ顔心菜ちゃん可愛い。
今すぐ写真を撮って限界まで引き伸ばしたい。
「姉さまー! はわわ、姉さま?」
「えっ!? あ、ああ、ごめんなさい! お芋掘るんだったわね!!」
「はわわ、姉さま、元気ないのです?」
「そんなことないわよ? 心菜の顔を見ているのに、元気がないワケないじゃない!」
「はわわー。そうなのです?」
さて、俺の今回のミッションについて、復習しておこう。
心菜ちゃんの
そして、時間の許す限り心菜ちゃんを愛でる!!
課せられた役目は重い。
しかし、そのミッションの先には、
頼れる仲間はいなけれども、大事な友人の氷野さんと、世界の妹の心菜ちゃん、この二人を救えるのが俺しかいないなんて。
このシチュエーションで燃えなきゃ、男じゃないだろう!?
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