第403話 公平と地獄のポエム
ぼくは魔法使い。
証拠を見せてだって?
それじゃあ、とびっきりの変顔をプレゼント。
それのどこが魔法なのかって?
ふふふ、ほら、きみが笑った。
冬に可憐なたんぽぽの花を咲かせる、とびっきりの魔法さ。
——ナニコレ。死にたい。
中学生くらいの頃に大学ノートで自作ポエムを作るのは、もはや思春期としての必須科目であり、
だが、俺は中学生ではなく、もう4ヶ月もすれば受験生。
受験が待っているのに、俺は何をしとるんだ。
ふふふ、ほら、きみが笑った。
——笑えねぇよ!!!!!
ちくしょう、とんでもねぇペナルティだよ、これ!!
こんな事なら、停学の方がよほど良かった!!
えっ? 内申書に傷がつく?
心を傷だらけにしている今よりましだね!!
なんで俺は黒歴史を自分で生み出しているのさ。
学園長にこの処分を言い渡された時にゃ「なんて大岡裁きだ、この人はやっぱりすげぇなぁ」とか尊敬の念を抱いたけども!
あのチョビ
被害妄想? 違うね!
だって、俺が教頭にポエム届ける時、必ず現場に居合わせるからね!
何ならポエムを口に出して読み上げるからね!!
職員室がいたたまれない空気に変わる瞬間を味わったことはあるかい?
俺は毎日味わってる!!
教師連中の同情が痛いんだよ!
今日だって、数学の時間に「よーし、次のページはこの列を当てるぞー。……あ、桐島は良いよ。ごめんね」って謝られたんだぞ!?
方程式の答え考えるよりも、今日のポエム考えてろってさ!!
優しさがマジで痛いんだよ!!
「みゃーっ……。コウちゃんが頭抱えてるよー」
「可哀想です……。公平先輩、とっても良い事をしたのに……」
「ゔぁあぁあぁっ!! ぜんばぁぁぁぁい! 頑張れぇぇぇぇぇぇっ!!」
「……死にたい」
「こ、コウちゃん! わたしは好きだよ? えっと、昨日のタンポポのヤツとか!」
「あたしは、えとえと、あっ! 一昨日のタンポポのヤツが好きでした!!」
「そうだよ! 俺ぁタンポポ絡めねぇとポエムひとつ書けねぇよ!!」
毎日、毎日、タンポポを咲かせるか、綿毛飛ばすかしてるよ!!
自分のボキャブラリーのなさに閉口してるけど、一方で恥ずかしいポエムを量産する能力がなかった事を喜んでいる俺もいるよ!!
え? なに? しょうもない質問だったらぶっ飛ばすよ? ヘイ、ゴッド。
ああ、なんでみんなが俺の処遇を知ってんのかって?
これは良い質問ですね。
人の口に戸は立てられなかったってだけの話だよ。
風紀委員が頑張って火消しに走ったから、氷野さんの名前が出るのはごく一部の生徒に限られたけども。
その代償として、「俺が嘘告白にブチギレてパンチで不届き者に制裁を与えた」とか言う美談が、今も学園のどこかを全力疾走中。
まあ、それは良いんだ。
俺のやたら脚色された美談で、氷野さんの名前が隠れてくれたら、それ以上望むべくもない。
ハッピーエンドだよ。
ただ、俺の事をちょっとでも知ってる人には、すぐバレるよね。
桐島公平の本気パンチで人が倒れるはずがないって。
ちょっとラノベのタイトルみたいになったけど、その事実に気付いた生徒は、俺を心配して生徒会室を見舞ってくれたりする。
ここまで紡いできた縁が俺は嬉しい。
「失礼するでごわす」
「はーい。あーっ、
「副会長、かつておいどん達に与えてくだすった金の羽衣!」
「おう。ピコ太郎の衣装な。君らが俺から追い剥ぎしたヤツ」
「アレのおかげで、今回の大会、準決勝まで残れたでごわすよ!」
「おう。そりゃあ良かった。次は目指せ決勝だな」
「ごっつぁんです! それで、今日は副会長のピンチと聞いて、ポエムを持参したでごわす。どうか、受け取って欲しいでごわす」
「……うん。……ありがとう」
そして去って行く大結くん。
俺は彼が持って来た、湿ったルーズリーフを開いてみる。
ごっつぁんです。
おいの汗は花の果汁。
おいの汗は花の蜜。
どうか、今宵はおいの甘いしぶきでおやすみ。
そしておいは、ごっつぁんです。
——ナニコレ。
今ね、背中がぞわわってしたよ。
共感性羞恥って言うんだっけ?
すげぇな、人のポエムって読んじゃダメだよ。
軽い吐き気と動悸がしたもん。
あと、意味が分からん!!
いや、悪かった! ゴッド、許して! 口が滑った!!
上にスクロールさせて、俺の恥ずかしポエムを再確認に行かんとって!!
俺もまあまあ意味が分からんから!!
「失礼します! 副会長! 桐島先輩いらっしゃいますか!?」
「あ、松井ちゃん! どうしたんですか?」
「冴木さん! 本当に良い先輩が持てて幸せだね! うらやましい!!」
「えへへ。あたしが何かした訳じゃないのに、先輩の事を褒められると嬉しくなっちゃいますねー。ところで、どうしたんですか?」
「うん! あのね、ポエムを書いて来たの!!」
また来たの!?
いや、気遣いは本当に、むちゃくちゃ嬉しいんだよ!?
俺、意外と人望あったんだなぁって、毎日感謝してる。
「桐島先輩! 先日はすごくカッコ良かったです!! 冴木さんがいなかったら、私、先輩の恋人に立候補していたかもしれません!!」
「あー。松井ちゃんまで落とすなんて! 先輩の美少女ハンター!!」
「落としとらんわい!! 松井さん、花梨をからかわんでくれ」
「ふふっ、すみません! これ、ポエムです! ……あと、カッコ良かったのは本当ですよ? 桐島先輩の良さ、みんなが知ってます」
去り際に松井さんが
あ、これは結構嬉しいなぁ。
可愛い後輩女子に耳元でカッコいいって囁かれて嫌な先輩はいないよ。
いたらそいつは変態だ。
頂戴した、可愛らしい花柄の便せん。
これは期待が出来る。
1日分稼げるぞと、ウキウキしながら開封。
こつん。一つ釘を打つ。
あなたの心が欲しいから。
こつん。二つ釘を打つ。
あなたの心が離れないように。
こつん。三つ釘を打つ。
あなたが私だけのものになるように。
こつん。心臓に釘を打つ。
これであなたは、私だけのもの。
——ナニコレ。
もう共感性羞恥とかどっかに飛んでったよ。
感想?
普通に怖いよ!! 夜中に読んだらトイレ行けない!!
能登麻美子さんに朗読してもらったら、多分地獄少女のオープニングが始まると思う。
松井さん、好きな人とかいるのかな?
二人に想われているのに浮気すんな?
違う、違う。
その人の身を案じているのだよ、ヘイ、ゴッド。
「桐島先輩。お時間です」
「ああ、もう5時なのね。……行くか」
おじきとブツの交換は職員室でと約束している。
「……逝ってきます」
結局てめぇで作ったポエムを携えて、職員室まで小旅行。
目的地にこの瞬間、隕石おちて来ねぇかな。
「失礼します。生徒会の桐島です。教頭先生はおられなかったら良いな。……おられたので、改めて失礼します」
教頭の席は、職員室の最奥にある。
職員室で一番偉いからであり、
つまり、ここでのやり取りは職員室中に響き渡る。
「あららー! 教頭先生、お楽しみの時間が来ましたねー! やあ! 桐島くん!! ぷー! くすくす!!」
ハイテンションのおっさんが1人。
「ま、まあねぇ、君が言いだした事だからねぇ。しっかりと務めてもらわないとねぇ。ただねぇ、君、意外と文才があるねぇ!」
ハイテンションなおっさんが2人。
「教頭先生ったらね、モモカちゃんに、ええー? 教頭先生って国語教えてたのー? だからポエムがステキなんだぁー! とか言われてさ! 満更じゃないの!!」
「が、学園長! ヤメて下さい! ぼ、ボクはね、家に帰っても誰もいないから、仕方がなく付き合ってあげているだけですよ!!」
「えっ!? 今日、モモカちゃんアフターイケるかもしれませんよ!? ポエムのデキ次第では!!」
「桐島くん。今日の反省ポエムを寄越したまえ」
そして学園長が、俺の身を切った血でしたためたポエムを朗読。
このおっさん、無駄にイケボである。
子安武人さんみたいと言ったら、ファンの人にぶっ飛ばされるだろうか。
俺のポエムを聞いて、バツの悪そうに退室する先生、爆笑を堪える先生、ハンカチで目じりを抑える先生と、対応は色々。
そして、朗読が終わり、教頭の寸評タイム。
「前回が高評価を受けていた事を踏まえてのタンポポ推し……見事だねぇ。もはや、文学的センスすら感じるねぇ。桐島くん、とってもポエミーだねぇ」
隣の学園長が「ぶふぅー!!」と吹き出した。
「それじゃあ、ぷー! 教頭先生! くすくす! 早速行きましょうか! 定時退社!!」
「仕方がないですねぇ。今日もお付き合いしましょうかねぇ」
二人が去った後、俺は職員室に残っていた教師たちから拍手をされ、男性教師には肩を叩いて励まされ、女性教師はお菓子をくれた。
俺は、人に拳を振りかざす時には相応の報いが待っている事を、世の中にもっと啓発していこうと思った。
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