第398話 Woo Yeah ~家族になろうよ~
「みゃーっ!! 堀さん、おめでとーっ!!」
「バッカ! お前、そんな急に動くヤツがあるか! あぁぁぁぁぁいっ!!」
「ひゃあっ!? 公平先輩、急に倒れないでくださいぃぃ!!」
よく漫画とかでさ、陰から様子をうかがっているのが当人にバレて、ズザザザザッて覗き見していた連中が倒れるシーンがあるじゃない?
それが今、起きたところ。
「ちょいと、お二人さん。女子にこんな事言うのは、非常に申し訳ねぇんだけどね。でも、言うね? 俺が死んじゃうから。……重いからどいてくれ」
よく漫画とかでさ、女子と一緒に倒れこんだら、顔にヒロインのお尻が乗ったり、顔がヒロインの胸に埋まったりするじゃない?
それはね、起きてないんだな。
普通に俺の背中の上に、うちの生徒会シスターズが乗ってるの。
花梨は分かるとしても、俺の下にいたはずの毬萌よ。
なんでお前、俺の上に乗ってんの?
どういう理屈なの? 重力操作系の能力に目覚めたの?
「みゃっ!! コウちゃん、ひどい! わたし重くないもんっ!」
「毬萌先輩! あたしのせいにしようとしてます!? あたしだって重くないです!」
「おう。毬萌、花梨。二人とも、普通に重い。このままじゃ俺、キットカットみたいに綺麗に割れちゃいそうだよ」
「コウちゃんっ! 女の子にそーゆうこと言うの、良くないと思うっ!」
「あたし、この冬はまだ太ってないですよ!? 本番はお正月過ぎた頃です!!」
憤慨する乙女たち。
お願いだから、降りてからやってちょうだい。
「ま、まあまあ、毬萌先輩も冴木さんも落ち着いて下さい。ほら、堀先輩と高橋先輩がこちらに来ますよ」
「……くはぁ。鬼瓦くん、ナイス。あと1分遅かったら肺が潰れてた」
「ゔぁい!! ご無事で何よりです!」
「……鬼瓦きゅん!!」
鬼神
ああ、この胸板が俺のポーションだ。
「も、もう! みんなして見てたの!? ひどいよ!!」
「みゃーっ! 良かったね、堀さんっ! 高橋くんにオッケー貰ったんだっ!!」
「う、うん。あの、これね、桐島くんのおかげなの!」
「桐島先輩、もしかして腕に筋肉付きました?」
「え!? マジで!? ついに俺の筋トレが実る日、来ちゃった!?」
「ちょっと触ってみますね……。ああ、なるほど。ええ、ええ」
「ははは! くすぐってぇよ!」
「すみません。気のせいでした」
「片腹痛ぇよ……」
「ちょっと! 公平先輩! 先輩の名前が出たら、ちゃんと会話に参加して下さい! ほーら、こっちですよ!!」
「ああ、花梨! 花梨さん!? ヤメて! 堀さんの会話には加わりたくない!!」
だって、オチが見えてるんだもの!!
「お待たせしましたー! 公平先輩を捕獲して来ましたよ!」
「……ぐすん。ひでぇよ花梨さん」
「それで、コウちゃんのおかげって、何かしてもらったの? コウちゃんは身に覚えがある?」
「おう。なんか知らんが、俺ぁ何もしてねぇよ?」
強いて言えば、堀さん探して学園をウロチョロしたくらい。
が、俺が何かしたのはその前だと言う。
その前って、本当に何もしていないじゃないか。
「ヒュー! 公平ちゃんが言ったんだぜぇー? 堀っちの告白はガチだってな! だから、オレは色々と考える時間があったんだぜぇー! ヒュー!!」
「おう。どういうこと?」
「なるほどーっ! 間接的にコウちゃんが堀さんの愛の告白を代わりに済ましちゃってたんだね!」
ああ、なるほど。
告白がガチって説明は、つまり、「堀さん、お前のこと好きなんだぜ」と言っているのも同義だったって事か。
「す、すまん。堀さん。まさか、大事な告白を俺が先にしちまってたとは……」
乙女にとって、告白とは極めて神聖な儀式。
そこに俺が横入りをしてしまうとは。
「違うの! 謝らないで、桐島くん! 私、あなたにすごく感謝してるの!」
「おう。おう? でも、自分の口で伝えたかったろ?」
「……ううん。私、口下手だから。さっきも、高橋くんに自分で、誤解だよって言えば良かったのに、逃げ出しちゃって。きっと、自分じゃ上手く言えなかったの」
「はへぇ。そんなもんなのか。いや、まあお役に立てたなら良かったけど」
「本当にありがとう、桐島くん!!」
なんか今一つ実感はないが、俺は恋する乙女を救ったらしかった。
「まあ、アレだよ。堀さんの事を高橋も元々憎からず思ってたのはマジだし。堀さん、可愛いし。俺なんかいなくても恋人になれてたと思うぜ?」
「か、可愛くなんかないよ! もう、桐島くんってば!!」
——ゴッ!!!!!
「ゔぁあぁぁぁっ!! 先輩! ぜんばぁぁぁぁいっ!! 僕が少し目を離しただけで!!」
「鬼瓦くん、俺ぁ、分かった、よ」
「な、何がですか!?」
「俺の腕の、さ。筋肉、な? それ、堀さんにゴッ! ってされて、
「先輩! 目を閉じないで! ぜんばぁぁぁぁぁぁいっ!!」
「それにしても、堀さんのどこが一番好きなのかなっ? 高橋くんっ!!」
「あたしもそれ気になりますー! 教えてください、ぜひぜひ!!」
「やだぁー。恥ずかしいよ!」
ガールズトークに話が移行したので、俺は遠慮なく鬼神の胸に抱かれておく。
ふふふ、
「ヒュー! 結構あるぜぇー? まず、堀っちは、色んな人を見てるんだぜぇー! 調子悪そうなヤツとかを発見すると、すぐに動く! なかなかできないぜぇー!!」
高橋、意外とまともなコメント。
「おっぱいがボインだからだぜぇー! ヒュー!」とか言うと思ったのに。
「他には!? もっと聞きたいのだっ!」
「ヒュー! まだまだあるぜぇー? 部活の時も、一番に来て、最後に帰るんだぜ、堀っちは! オレは頑張る女の子が好きなんだぜぇー! ヒュー!!」
「わぁー! 堀先輩、愛されてますね! 羨ましいですー!!」
俺は高橋がまともな会見してる事の方に驚いているよ。
お前、好きなタイプは「セリーナ・ウィリアムズ」とか言ってたじゃん。
夢は「アメリカのチアリーダーにキスしてもらう事」とか言ってたじゃん。
急にイケメンみたいなこと言い出すなんて、聞いてないよ、俺。
「ヒュー! それにオレは1年の時から、堀っちには目を付けてたんだぜぇー! ヒュー!!」
「えっ!? ウソ!? だって、一年生の頃もクラス違ったし。高橋くんは目立ってたけど、私なんて全然だったし。こんな地味な私の事、知っててくれたの?」
「何言ってんだい、堀っち! 君の名前はとびっきりキュートたぜぇー!!」
「あーっ! そっかぁ! 堀さん、確かに名前、可愛いもんねーっ!!」
「すみません。あたし、堀先輩の下の名前、存じ上げなくって」
「花梨ちゃんは学年違うし、仕方ないよっ! はい、これが名前だよっ!!」
「ありがとうございますー! あっ、なるほどー! 確かに可愛いですね!!」
ヤダ、気になる。
そう言えば、堀さんの事を名前で呼ぶ人って、男女問わず一人もいないよな。
俺も名字しか知らんぞ。
お、俺だって、名前、知りたい!!
「桐島先輩! 急に動いては! お体に障ります!!」
「いいや、ここで聞いとかないと、多分俺だけ話題に乗り遅れる! それじゃあ困るんだよ!!」
主にモノローグでね!!
語れないじゃないか! 知らないと!!
「ほえ? コウちゃんも見たいのー? はい、堀さんの名前ー! こんなに可愛いのに、名前で呼ばれるのは好きじゃないんだよね?」
「だって、恥ずかしいから……。その、変わってるし……」
毬萌が見せてくれた、スマホの登録情報。
そこには、堀宝石と表示されていた。
宝石? ほうせきさんかな? 確かに変わっているなぁ。
「ヒュー! オレはずっと、最高にクールでビューティーな名前だと思ってたぜ? 今日からは、名前で呼んでも良いよな? ヒュー!!」
「う、うん。高橋くんがそう言うなら、平気!」
「ヒュー! 恋人になっても、シクヨロだぜ! ジュエリー!!」
「うん! タカシくん!!」
堀さん、まさかのキラキラネーム。
宝石って書いてジュエリーって読むのか。
それは確かに、アメリカ大好き星人の高橋に刺さりそうな名前である。
では、俺も上手いこと言って、二人の門出を祝おう。
「おう。二人が結婚したら、子だくさんな家族になりそうだな! 子宝に恵まれる、的な! ははははっ」
「ちょっと! 気が早いよ、桐島くんったら!!」
——ゴッ!!!!!!!
こうして、ひとつの恋が花を咲かせ、俺は鬼神の胸板で眠るように息を引き取りましたとさ。
めでたし、めでたし。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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