第397話 花はそっと咲くのに

「えっと、行き違いが起きて、ちゃんとした告白の意図が伝わってなかったって事かな? コウちゃんのせいでっ!!」

「やめたってー! 俺かてまさか、そんな良くない偶然が起きるなんて思いもせんかったんやー!! 違うの、ホントにあたい、違うの!!」


「と、とにかく、誤解なら早く解かなくちゃですよ! 堀先輩が可哀想です!! だって、勇気を出して告白したのに、ドッキリ扱いなんて……! 公平先輩のせいで!!」

「ホントにごめんやでー!! たまたま話の流れがあり得ないアクロバットをかましただけで、マジでこんな展開になるなんて、誰にも予想できんやんかー!!」


「お二人とも、桐島先輩を責める前に、ひとつ大きな問題をお忘れです」


 お、鬼瓦くん!!


「行き違いが解消されたのち、堀先輩が普通にフラれる可能性があります」


 鬼瓦くぅぅぅぅん!!

 それは今言わなくても良いんじゃないかい!?


「二手に分かれよう! 片方は堀さん捜索チーム! こっちは毬萌と鬼瓦くんで頼む! 毬萌が一番堀さんと親しいし、鬼瓦くんはそのサポートを!」


 この期に及んで何を仕切ってるんだって?

 仕方ないじゃない!

 だって、あたいが仕切らないとこの子たち、恋愛絡みだと暴走するんだもん!!


「んで、花梨は俺と事情説明に付き合ってくれるか? 正直、俺と高橋で押し問答するより、女子に間に入ってもらった方が話の深刻さが伝わると思うんだ」


「分かったー! 堀さんの行きそうなところ探してみるっ! 武三くん、行こーっ!!」

「ゔぁい!! 僕も大きいだけの図体ずうたいを精一杯生かします!!」

「じゃあ、公平先輩! あたしたちも!!」

「おう! 何かあったらスマホで連絡な! 頑張ろうぜ、みんな!!」


 やはり俺たち生徒会の団結力は有事の際にこそ光る。

 今日まで培ってきた一体感。

 恋する乙女のために行使できるなんて、実に有意義。



 いや、もう、本当に反省しています。

 なんか良い感じに纏めようとしてすみません。



「ヒュー! どうしちまったんだい? 生徒会のみんなで慌てちまって? さては公平ちゃんがチョンボやらかしたな? ヒュー!!」

 ちくしょう、当たっているぜ、ヒュー。


「すまん、高橋。聞いてくれ。さっきの堀さんの告白、ガチのヤツなんだ! いや、本来は第三者の俺が弁明すること自体間違っているんだが、俺の言い方が悪かったせいで、堀さんを傷つけちまった。頼む、もう一度ちゃんとした機会をくれないか」


「ヒュー! なんてこったい! オレも堀っちに悪いことしちまったぜぇー! 誰かに告白するって事は、とってもヘビーだからな! ヒュー!!」

 高橋、ここに来て至極真っ当な意見を言い始める。

 それに伴い、俺のやらかした感がマシマシになった。


「高橋先輩、ステキです! ちゃんと女子の事考えてくれてるんですね!」

「ヒュー! 当たり前だぜぇー。ママとレディには優しくしなって、マイアミのグランマにも小さい頃から言われてたからな! ヒュー!!」


 お前のばあちゃん、確か宮崎在住だったよね。

 でも、今日の俺にはツッコミを入れる権利がない。

 ああ、もどかしい!!


「じゃあ、すぐに堀さん連れて来るから、お前この辺で待っててくれ! ああ、寒いよな!? ほら、これで温かい飲み物でも買って!!」

「ヒュー! 公平ちゃん、太っ腹だぜぇー! その心遣いだけで温まるってもんだぜぇー! でもせっかくだから、キンキンに冷えたサイダーを飲むぜぇー!!」

「なんで!? 体冷えるじゃん!!」


「これから熱い想いを伝えられるって知ってるのに、先に体温めるヤツなんかいないぜぇー! ヒュー!!」


 ダメだ。今日はこいつに勝てる気がしない。


「さあ、先輩! あたしたちも堀先輩の捜索に参加しましょう!!」

「お、おう! そうだったな! よし、行こう!」



『分かったーっ! 今ね、わたしたちは中庭から実習棟に回るとこーっ!』

「そうか。だったら、俺らはグラウンドの方から探してみる。ちなみに、堀さんに電話してみた?」

『したよーっ! でもね、繋がんない! ラインも既読つかないんだよぉー』

「分かった。しばらくしたら、また試してみてくれ。そんじゃ、後でな」


 毬萌の嗅覚をもってしても堀さんの行方は依然として不明。

 こうなったら、片っ端から聴きこみだ。

 眼前にはソフトボール部。幸いなことに面識がある。


「片岡さん! ちょっと良いか!?」

「あ、副会長! 文化祭見ましたよー!」

「ゔぁあぁぁっ」


 さすがは強肩豪打の片岡さん。出会い頭に火の玉ストレート。


「こんにちはー。この前の秋大会、三回戦まで行ったんですよね! すごいです!!」

「うん。ありがとう! これも、前に副会長が色々と戦術を教えてくれたおかげだよ! 来年はもっと上を目指そうってみんなで話してたんだ!」


 俺の野球観戦で得たにわか知識がお役に立っているようで何より。

 しかし、その話はまた今度にしよう。


「あのな、堀さん見なかった? あの、アレだよ、保健委員長やってる、二年の!」

「あ、堀さんなら、さっきそこの地面を泣きながら叩いてましたよ」



 一応確認するけど、このクレーターの事かい?



「声を掛けようとしたけど、全力で走り去って行っちゃいました」

「お、おう。グラウンドへこませてる人によく声かけようと思ったなぁ。……って、そうじゃねぇ! そんで彼女、どっち行った!?」

「相撲部の稽古場の方に走って行きましたよ」

「そうか! ありがとう!! そこの地面、あとで鬼瓦くんにならしてもらうから!!」


 相撲部の稽古場は、武道場の脇にある。

 他にも剣道部、柔道部、弓道部などの部員たちが集う武道場近辺。

 俺にはご縁がなく、この辺りに来るのは久しぶりである。


「先輩、先輩! お疲れじゃないですか? あたし、先輩が息切れ起こしてうずくまっている間に、ポカリ買っておきましたよ!」

「マジか! 実はすげぇ喉乾いてたんだよ! 花梨は気が利くなぁ!」


 この可愛い後輩は本当に、どこに出しても恥ずかしくない立派な乙女である。

 ああ、彼女の十分の一でも俺が気を利かせていれば。

 後悔先に立たず。しかし、後の祭りにはまだ早い。


 堀さん、今どこに居るんだ。


「おーっす! 部活中にごめんなー。ちょっと良いかー?」

 相撲部の部員たちは、ざわついていた。

 何か揉め事だろうか。堀さんのついでに事情も聴いてみよう。


「桐島どんじゃないでごわすか! 久しぶりでごわす!!」

「おう。大結おおむすびくん。君、もうそのキャラで通すことに決めたんだね。ところでさ、堀さん知らない? 保健委員長の身長高めの女の子」

「あの女傑じょけつでごわすか! 突っ張りさせてくれと言ったかと思えば、鉄砲柱をへこませていったでごわす!! ……これ、修理は生徒会が受け持ってくれるでごわすね?」


 もうごわすの使い方にツッコミを入れる余地のない情報の海で、俺は溺れそう。

 大結くんが言うには、堀さんはひとしきり鉄砲柱に突っ張りをして、少しスッキリした顔になったかと思うと、体育館の方へ走り去ったと言う。


 なんだかRPGのおつかいクエストみたいになってきた。

 大結くんに「申請書出しといて! 年末までにゃ計算するから!」と言い残し、俺たちは再び体育館へ。

 花梨と校内ジョギングしただけだよ。ポカリが美味い。



 体育館に戻ると、毬萌が小さくなっていた。

 壁の陰に隠れていて、アホ毛がぴょこぴょこしている。

 後ろから見るとちょっと可愛い。


 そして、その後ろには鬼瓦くんが小さくなろうと努力していた。

 でも全然小さくないよ? けれど、ちょっと可愛い。


「おう。堀さんいたか!?」

「コウちゃん、しーっ! 静かに、だよっ!!」

「どうしたんですか!? あたしにも見せて下さい!!」

「ちょっ、花梨、花梨さん! 俺の背中に乗っからんといて!!」


 背中にアレがナニして、アレだから!!


「みゃーっ! コウちゃん、重いよぉー」

「ひぃやぁぁっ!! すまん! でも無理! お前を支えにしないと俺立てないもん!」


 そして毬萌にすがりつくような姿勢になる俺。

 全然いかがわしい事なんてしていないのに、なんか贅沢なサンドイッチマンになってる!!


「ゔぁあぁぁっ! 僕は、こうなったら関節を外すしか……!!」

「鬼瓦きゅん! バカな事言ってねぇで、助けてくれ! 潰れる! 俺が潰れる!!」



「ヒュー! 堀っち、君さえ良ければ、オレのオンナになれよ! ヒュー!!」

「…………っ!! う、うん! 私で良いの?」

「良いか悪いかなんて、答えるのは野暮だぜ? 口ってのは、愛をささやくためについてるんだぜ! ヒュー!! 堀っち、愛してるぜ! ヒュー!!」



 ——どういうことなの?

 そこには、恋の花が寒風に負けじと大きく咲き誇っていた。

 堀さんの頬をつたう雫は、疑う事なき輝く嬉し涙。


 ただ、幸せそうな二人に水を差すようで本当に申し訳ないのだけども。



 何が起きたのかな?

 何がどうしてそうなったのか、説明を求めても良いでしょうか?


 これじゃ、おつかいクエストが終わらないよ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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