第369話 栄光の最優秀店舗と授賞式

 文化祭の最優秀店舗に選ばれると、どうなるのか。


 まず、来年の文化祭までちょっと鼻が高くなる。

 気分はさながらトム・クルーズ。超鼻が高い。

 ふふふ、ハリウッドスターになってしまうとは、参った、参った。


 さらに、最優秀店舗は毎年、しっかりと学園の記録に刻まれる。

 つまり、俺たちが卒業してもその栄光の軌跡は、文字通り半永久的に記録される。

 ……花祭学園が廃校にならない限り。

 学園長にはせいぜい長生きしてもらいたい。


 もう一つおまけに、記念品としてトロフィーが授与される。

 噂によると、大理石でできているとか。

 冗談みたいな話だけども、その真相はもうすぐ分かる。


 これから後夜祭があるのだが、先立って、授賞式がグラウンドで行われるのだ。

 と言う訳で、俺たち生徒会は屋台の片づけもそこそこに移動。

 ちなみに化粧だけはガッツリ落とした俺である。


 やって来たのは朝礼台の前。

 どうせ模擬店を出していた部活は撤収作業で忙しいだろうから、たいして人も集まらんだろうとたかを括って来てみると、結構な賑わい。

 こいつらときたら、なんてステキなヤツらだろうか。



「それでは、これより授賞式を行います! まずは、昨年度の最優秀店舗、前生徒会の副会長の土井先輩より、お祝いの言葉です」

 司会は松井さん。

 彼女は体育祭からこっち、すっかり実況が板についてきた。


 ともあれ、土井先輩のありがたいお言葉を賜るために、俺と毬萌がうちの代表として、数歩前に出る。


「神野さん、桐島くん。そして生徒会の皆様。この度はおめでとうございます。僭越ながら、わたくしが祝辞を。本来ならば天海にさせるべきなのですが、彼女が、わたくしの方が適役であると申しまして」


 にこやかな笑顔をたたえる土井先輩。

 なるほど、愛する彼女のお願いを断り切れなかったのですね。


「先ほどわたくしも販売数の確認を致しましたところ、前年の生徒会よりも多く、名実ともに今年の生徒会の有能さを知らしめる事になりました。敬愛すべき後輩である皆様の成長、そしてその証としての結果、わたくしも誇らしく思います」


 一旦言葉を区切る土井先輩。

 これは俺も返礼せねば。


「恐縮っす。でも、俺たちが結果を残せたのは、先輩方と言う大きな目標があったからですし、偉大な背中を見せてくれた先輩たちには感謝しかありません」

「おやおや。これは見事な切り返しでございますね。そのひたむきな姿勢は、当代生徒会の得難き個性ですよ。そうではありませんか? ねえ、皆様!」


 土井先輩の呼びかけにオーディエンスが呼応する。

 拍手と声援で、11月の夕暮れと言う冷えた空気が熱気に包まれた。


「年長者がいつまでも出しゃばっていては仕様がありません。短いですが、これにて失礼いたします。同じ副会長を務めた者として、桐島くん、わたくしはあなたを自慢に思いますよ。頑張りましたね」

「あ、ありがとうございます! ぐぅぅぅっ!!」


 油断をすると涙が出そうになる。

 まったく、土井先輩と言うお方は、俺の心をいつも動かすので困る。


「続きまして、教頭先生の講評です」



 出かけていた涙が引っ込んだ。



「……まあ、あれだねぇ。言いたい事は色々とあるんだけどねぇ。例えば、伝統ある文化祭の開会宣言。あれは酷かったねぇ」

「……うっす」

「それに、聞いたところによると君たち、全員でコンテストに出たんだってねぇ? 生徒会が生徒企画に出て、あまつさえ賞を取ってしまうのはねぇ。感心しないねぇ」

「……うっす」


 このババコンガの腹に火を付けてやりたいなぁと思った。

 やっぱりかなり冷えて来たし、中性脂肪たっぷりの汚いおっさんは、さぞかしよく燃えるだろう。


「ただ、まあねぇ。結果を出すと大言壮語たいげんそうごを吐いた上で、それを実現させた点。これについてはねぇ、はなはだ遺憾だけど、評価しない訳にもいかないからねぇ」


 褒められているのだろうか。

 ああ、ダメだ。言いたい事が口から出てしまう。

 我慢しようと思っていたのに。


「教頭先生はすっかり老眼が進んでおられるようなので、そんな先生にもハッキリ分かるように、特大の結果を残す事にしました! ご覧頂けて何よりっす!!」


 いっけね! 言っちゃった!

 こうなると、もう止まらないよ!


「……やっぱり、桐島くん。君はあれだねぇ。品位がないよねぇ」

「教頭先生は頭と腹の自己主張が激しいっすね。それ、品位あります?」

「生徒を代表しようって人間がその態度は、いただけないねぇ」

「教頭先生も、脂肪ばっかり蓄えて人徳は一向に貯まらないみてぇですけど。そのよく光る頭で、精々世の中でも照らしてみられたらどうですか?」


 俺と教頭の舌戦に、会場は大盛り上がり。

 「もっとやれ!」「桐島、負けんな!」と声が上がる。

 よし、こうなったら殴り合いだ。鬼瓦くん、出番だぞ。


 そう思い始めたところで、今度は学園長がやって来た。


「まあまあ、教頭先生! 今日は先生の負けですよ! だって、祭が終わったって言うのにこの盛り上がりだ! 桐島くんのエンターテイナーっぷりに完敗ですね!」

「が、学園長! ボクは負けていませんよ!? こ、こんな低俗な言動を受けたらねぇ、ボクだって黙っちゃいられませんからねぇ!」


「あっはっは! 教頭先生、争いってのは、同じレベルの人間がすると一番盛り上がるんですよ! おっと、これは桐島くんに失礼だったかな? さあさあ、ヘッドスパの割引券あげますから、教頭先生、今日のところはこの辺で!」


 気付けば学園長に主導権が移り、俺も振り上げた拳を下ろすしかないようであった。

 まあ、教頭が「ギギギギ」と言いながらヘッドスパの割引券片手に職員室へ走り去っていく姿を見ていたら、溜飲もすっかり下がったし、良しとするか。


「神野さん、さっきからずっと静かだけど、具合悪いのかい?」

 学園長の指摘で、「そう言えば毬萌のヤツ、ずっと黙ってんな」と俺も気付く。

 そして、毬萌は「にははっ」と笑って、こう答える。


「コウちゃ……副会長はすっごく頼りになるんですっ! いつも助けてくれるんですっ! だから、彼の行動の責任だけわたしが取れば、それで良いかなって!」

「おまっ、毬萌……!」

「でも、わたしは別に教頭先生の事、嫌いじゃないですけどっ! にへへっ」

「おい! 良いこと言ったあとに、そっと俺のハシゴ外すのヤメてくれる!?」


 またまた会場が笑いに溢れる。

 学園長もニコニコ笑顔。そう言えばこの人も毬萌の事大好きだったな。


「うんうん! 青春って良いねぇ! はい、それじゃあ、これ、トロフィーね! 結構高いから、落として割らないようにね! では諸君、拍手を頼むよ!」


 もう何度目か分からない、喝采のリフレイン。

 これが俺たち生徒会だけに向けられていると思うと、やはり嬉しいものだ。


「それでは、以上で授賞式を終了します! これより1時間後に風紀委員会による後夜祭が行われますで、皆さまふるってご参加ください!」

 松井さんがきっちりと最後を締めて、解散と相成った。



「もぉー! 公平先輩! また教頭先生とケンカして! ダメじゃないですかぁー!」

「お、おう。すまん。なんつーか、勢いで、つい」

「にははっ! コウちゃん、みんなのためにケンカするんだもんねっ!」

「ゔぁい! 桐島先輩は、いつでも僕たちを守ってくれています!!」


 何言ってんだよ。

 すぐ死んじゃう俺を守ってくれてんのは、みんなの方だろうに。


「鬼瓦くん、すまんがトロフィー持っててくれるか? 毬萌がいつ落とすんじゃないかと思うと、心配で目が離せん」

「もうっ! コウちゃん、ひどいよぉ!」

「先輩の目が離れなくなるのなら、あたしが持ってもいいですよ?」

「そういう意味じゃねぇよ!! ほれ、鬼瓦くん、頼む。それが一番穏便だから!」

「了解しました」



 後夜祭が始まるまで時間があるし、とりあえず屋台の片づけをしてしまおう。

 立つ鳥跡を濁さず。


 完璧な文化祭の締めくくりは、完璧なものでなくてはならない。

 とは言え、ついに最強の生徒会の称号を得た俺たちである。


 頼もしい3人をもってして、画竜点睛を欠くことなど万に一つもないのであると、確信を持って言えてしまうのだから、俺も身内に甘いのかしら。




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