第360話 風紀委員救出ミッションとコンテストの誘い

「そんじゃ、そろそろ俺は生徒会の方に戻るかな。心菜ちゃん、どうする?」

「心菜も戻るのです! 美空ちゃんが待っているのです!!」

「……そう。心菜、行っちゃうのね」


 氷野さんの瞳から光が消える珍しい現象が発生。

 どうなるのだろうか。不謹慎ながら少し興味がある。


「……いいわ。私はこれから、綿あめに今年の文化祭全てを賭ける」

 なるほど。仕事に精神を極振りして、平静を保とうとするのか。

 これは勉強になった……おう?


 俺の足元には、ほふく前進でい寄って来る風紀委員たち。

 ちょっと、ヤダ、怖いんだけど。

 なに? ウォーキングデッド? ならせめて歩いて寄って来て。

 どうしたのさ、みんな。


「き、桐島先輩! 副会長! 氷野先輩を連れて行ってください!!」

「おう、松井さん」

 彼女の必死の叫びに「それなら自分も」と続く、風紀委員メンバー。


「お願いします!」「ホントに、マジでヤバいんで!」「人助けだと思って!」

「自分、千円払います!」「おれは秘蔵の二千円札を!」「助けて下さい!!」


 ねえ、ゴッド。ワンピースのさ、ウォーターセブン編ってあるじゃん?

 フランキーを一味に加えてくれって頭を下げるフランキー一家を想起させるね。

 ここまで頼まれちゃ、仕方がない。

 一肌脱ごうじゃないか。


「まあ、やれるだけの事はやってみるよ。期待はしないでね」

「私、副会長になら、何されても平気です!」


 松井さん、女子が滅多な事言うんじゃないよ。


「じゃあ、また今度、一緒に彼岸花でも描こうね」

「……っ! はい! 俊雄としおくんも一緒に!」


 俊雄くんって誰だろうと思ってグーグル先生に聞いてみたら、むちゃくちゃ怖い画像が飛び出して心臓が止まりかけたんだけど、その話はまあ良いか。


「あー。氷野さん? 心菜ちゃんと一緒に文化祭、ひと回りしておいでよ」

「姉さま! 一緒に回れるのです!?」

「そうしたいけど、私もここの責任者だから……。これから追加のフリスクを砕かないといけないし。ミントだって。私がいないとダメなのよ」


 「こんなこと言うてはりますよ?」と風紀委員たちを見ると、全員が同じリズムで首を横に振っていた。

 メトロノームかな?


「ここなら、松井さんがやり方を見て覚えたから、大丈夫だって言ってるよ?」

「あら、そうなの? でも、松井だけに任せるのは……」


 ここで立ち上がる風紀委員たち。


「委員長、行ってください! 妹さんが可哀想じゃないですか!」

「そうです! あたしたちだけでもやれます! 出来れば帰って来ないで、いえ、出来るだけ長く妹さんと思い出作りを!」

「自分たち二年生も松井さんを支えますから! 是非出て行って、違う、文化祭を満喫してきてください!!」


 君ら、ちょいちょい本音がこんにちはしてるけど、それだけ必死なんだね。


「そ、そう? あんた達がそこまで言うなら、ちょっとだけお言葉に甘えようかしら」

「姉さまー?」

「ええ。そうね。心菜、一緒に色々と見て回りましょうか!」

「いえーい、なのです! 嬉しいですー!!」

「まずは美空ちゃんのところに行かないとね。どこにいるのかしら?」

「兄さまたちのお店なのです!」


「じゃあ、行きましょうか。行くわよ、桐島ピコ平!」

「おう。……ああ、ちょっと靴紐が! 先に行っててくれる?」

「ったく、相変わらずグズなんだから」


 俺の時間稼ぎネタは春先から進歩していないが、氷野さんはトゲのある言葉とは裏腹に、随分と優しく笑うようになったものだ。

 さてと、事後処理をして俺も戻らなければ。

 そろそろ昼時だ。


「そんじゃ、俺ぁ行くから。どのくらい平穏が続くかは分からんが、みんなしっかりと模擬店の運営してくれよな」

「うぅ……ありがとうございます! 本当に、桐島先輩ってステキです!」


 松井さんの涙に釣られて、その場のほぼ全員が泣く。


「自分も、副会長になら抱かれても良いっす!」

「あたしも!」「僕も!」「おれもです!!」「あたいだって!!」



 吊り橋効果なんてレベルじゃねぇぞ!!



 恋に悩んでいる生徒を見つけたら、氷野さんが戻った後の被服室へ案内してあげようかしら。

 多分、いくつものカップルが誕生するだろう。



 俺との別れを惜しむ風紀委員たちに手を振って、駆け足で中庭へと戻った俺。

「おっと、こりぁいけねぇ」

 既にお客が集まり始めており、慌てて屋台の中へと戻る。


「すまん! 遅くなった!」

「もうっ! コウちゃん、何してたのーっ?」

「おう。ちょっと世界を救ってた」


 すると、花梨が吹き出した。


「だから言ったじゃないですかぁー! 公平先輩のことだから、どこかで人助けでもしてるんですよって!」

「まったく、コウちゃんってば、ホントに困った副会長だよぉー」

「いやいや、すまんかった! 鬼瓦くん、はしまきの生地焼くの、俺が代わろう!」

「助かります。それでは、僕は仕上げとりんご飴を同時進行で」


 こうして、行列との戦い、第二ラウンドの幕が開けた。


 ひっきりなしに押し寄せてくるお客を、的確にさばくのは花梨。

 ポテトを揚げながら、合間を見て、完璧な暗算を同時に6人分こなす毬萌。

 地味に生地を伸ばしては焼き、焼いては次に取り掛かる俺。

 それを極上の見映えに仕上げながら、スイーツ作りに余念のない鬼。


 開場時に比べても、お客はむしろ増えていたのに、俺たちの屋台は滞らない。

 まるで淀みのない小川のように、穏やかに客が流れていく。

 察するに、天才と秀才と鬼才がコツを掴んだことが要因であると思われた。


「おっしゃ、鬼瓦くん。こっち、15枚焼けたぞ!」

「はい。引き受けます。桐島先輩、もう15枚、急ぎでお願いできますか?」

「了解! ホットプレートちゃん、急いでくれってよ! 頑張って!!」

「あはは! 公平先輩、ついに機械とも仲良しになったんですかぁー?」

「おう。基本的に俺ぁ誰とでも仲良くなれるんだ!」

「みゃーっ! ポテトいっぱい揚がったよー! 花梨ちゃん、あとよろしくっ!」

「はーい! よい、しょっと! ポテト、揚げたてですー! いかがですかー!!」


 そんなこんなで、お昼の激闘は俺たちの圧勝で終わった。

 ふっ、他愛のない。


「あんたたち、なんて言うか、ちょっと引くくらいの連携ね」

「おう。氷野さん! なんだ、居たら言ってくれりゃ良いのに! 鬼瓦くん!」

「ゔぁい! 氷野先輩、はしまきとりんご飴です!」

「声かける暇なんてなかったわよ。ありがと。……美味しいじゃない」


「マルちゃんたちはどんな感じー?」

「それが、あまりかんばしくないのよね。ちょっと綿あめって子供っぽかったかしら」


 それは違うよ?


「あれれ? 心菜ちゃんたちは? さっきまで一緒でしたよね?」

「ああ、二人ならお花を摘みに行ったわ。ったく、誰かさんの口癖がすっかり移っちゃって……。なんか、あの子たちの学校でも流行ってるらしいわよ」

「ゔぁあぁぁあぁぁっ!!」


 お嬢様女子校にお嬢様っぽい言い回しが!!

 鬼神センセーション。



「すみませんが、ちょっと良いですか? お願いがあって来たんですけど」


 一息入れていると、見知らぬ男子生徒が俺に声を掛けてきた。

 失念していたが、俺と毬萌は生徒お助け係を拝命していたのだ。

 ちなみに氷野さんはいつでも出動する遊撃隊のため、お助け係はやっていない。


「どうした? 一般客とのトラブルとかか!?」

 それだったら一大事。

 すぐ鎮圧に乗り出さねば。


 お前が行っても、おっと、ヘイ、ゴッド。その先は言わせねぇよ?

 今、うちの学園内で最強格が二人も居るんだから、俺の出る幕は前線じゃない。


 そんな物騒な勘定をしていると、男子生徒は「自分は文化祭実行委員の福山で。ちょっとイベントに参加者が集まらなくて困っている」と矢継ぎ早に言った。


 俺たちの屋台の食材消化率はもう8割を超えている。

 この量ならば、閉場する時のお客が買っても足りないくらいなので、俺たちも自由に動ける余裕はある。

 ならば、助けましょうよ。生徒会として。


「俺らで役に立てるなら、何なりと言ってくれ!」

「助かります! じゃあ、ミスコンとミスターコン、全員参加ってことで! いやぁー、助かったなぁ! あとで迎えに来ますから! ありがとうございます!!」

「全員? あ、氷野さんも数に入ってんな! どっちかな? ミス? ミスター?」

「ゔぁぁっ!! き、桐島ぜんばい!! うしろ、うしろ!!」

「おう?」



「きーりーしーまー!!」



「あ、やっぱりその言い方、ナースのお仕事の松下由樹みた痛い痛い痛いまな板、あああああっ、ごめんなさい、痛い痛い痛いまな板痛い痛い痛い!!」



 こうして、俺たち全員のミスコン、ミスターコンへの参加が決まった。


 まな板って何の事かって?

 よく分からないけど、氷野さんにヘッドロックされていたら自然と口をついて出て来たんだ。別にどことは言わないけども痛い痛い痛い痛い。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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