第313話 鬼の応援合戦と乙女の玉入れ
「公平せーんぱい! お疲れさまでした! 麦茶どうぞ!」
テントに戻ると、花梨がお出迎え。
手際よく、麦茶をコップに注いでくれる。
なんだかちょっと新婚さんみたいだわ、と一人夢想する。
「えへへ。なんだか、新婚さんみたいですね! なーんて、ふふっ!」
「えべしっ」
まさかの思考の一致に、俺は麦茶を鼻から噴き出した。
何やってるんだ。
せめて口から噴き出せ。鼻ってお前、我ながらそれはない。
「あ、先輩、平気ですか? これ、あたしのタオルで良ければ」
「ばっ! 俺の鼻から出た麦茶だぞ!? そんなもん拭けるかい!!」
「えー? 平気ですよ? あたし、先輩が両腕骨折されたら、歯磨きからトイレの世話まで全部してあげる構えですもん!」
「……おう。気持ちは嬉しいが、シミュレーションで俺の両腕、折らんとって」
結局、俺の
でぇじょうぶだ、まだ体操服のスペアはある。
「ありゃ? そういやぁ、みんなどこ行った?」
「何言ってるんですかー。毬萌先輩とマルさん先輩、それに真奈ちゃん、みんなこれから玉入れに出場するんですよ!」
「おう、そうだったのか。そんじゃ、応援といきますか」
「あ、応援と言えば、応援合戦がありますよ! ほんの3分だけらしいですけど」
そう言えば、応援合戦は実行委員が秘密で準備してるとか言ってたな。
などと思い出していると、鬼瓦くんたちがグラウンドに出てきた。
女子が男子の制服を、男子が女子の制服を着ている。
言っちゃあ悪いが、割とよく聞くスタイルだな。
やっぱり時間がなかったせいで企画を練れなかったと見た。
……どうして鬼瓦くんだけ、体操服なのだろうか。
ああ、彼はデカいから、女子の制服なんか着られる訳がないか。
「
咆哮と同時に、鬼瓦くんの体操服が裂けた。
中からは、新鮮な鬼神の宿った肉体がこんにちは。
「
そして、何故だか鬼瓦くんの肉体は、テカテカしている。
なるほど、これはオイルを塗ってあるな。
しかも、太陽光を反射して、キラキラと銀の粉を撒いている。
なるほど、シルバーラメ入りのパウダー使ってるな。
アレだよ、叶姉妹が使っているヤツ。
うん。
——鬼瓦くん、何してんの。
多分、気の良い君の事だ。
その無茶な提案を蹴ることを良しとしなかったのだろう。
立派である。
自慢の肉体にオイルとシルバーラメをまぶして、体操服まで気合で裂いて。
——何やってんの、鬼瓦くん!!
断っても良いんだよ!
嫌な事は嫌だって言わなきゃ!
ちくしょう、うちの大事な後輩を
応援を終えて、鬼瓦くんが戻って来た。
こんなもん、事情聴取だよ。
俺は、一体誰の差し金かを彼に問いただした。
「ああ、これはですね、僕が提案しました。僕は不器用なので、この程度でしかお役に立てないかと思いまして!」
君かよ!!
自分から役に立とうとするその姿勢や良し。
でもね、アイデアは良くないな。ちょっと心がモニョっとしたもの。
「ああ、桐島先輩。玉入れが始まるようですよ」
「……うん。そうね」
鬼瓦くん、その激闘を終えた後の悟空みたいな恰好で、隣に座るんだ?
言い辛いんだけど、銀の粉がさっきからね、君が動く度にダイヤモンドダストみたいにキラキラ光って、奇麗なんだけども、すげぇ嫌だ。
「公平先輩! 3人が連携プレーをしていますよ! さすがですね!!」
「……おう。そうね」
おう、花梨さん。分かった。もう、鬼瓦くんは無視する方向で行くんだな?
了解した。ならば、もう触れないよ。
……ああ、銀色の粉がうざってぇなぁ!!
毬萌たちは、白い玉を1か所に集め、洋菓子屋の手伝いで鍛えた手さばきで勅使河原さんが二人に玉を手渡す。
鬼嫁
氷野さんが長身を生かして、それを
そして、仕損じた玉は毬萌が完璧にリカバリー。
その様子を見ていた同じ組の他の女子たちも、「この3人やべぇ」と気付き、そこに玉を集め始める。
瞬く間にシステマチックな構図が生み出されていた。
発案者は恐らく、と言うか、絶対に毬萌。
この天才め。
『さあ、白組が圧倒的に有利です! 次の競技の大玉転がし次第では、最終競技の学年選抜リレーに望みを繋げることが出来るでしょう!!』
松井さんの実況を聞いて、俺は「おや?」と思う。
もしかして、俺たち、白組って今、負けてるの?
俺は数々の大活躍を見せてくれた後輩たちに聞いてみる。
「そうですね。結構な勢いで白組は負けております」
「もぉー。先輩ってば、自分の組の得点知らなかったんですかー?」
知らなかった。
いや、だって、俺が応援している競技は、うちのメンバーがほとんど圧倒的なパフォーマンスを見せるものだから、てっきり大差で勝っているものかと。
「マジかよ。花梨に夢中で全然気づかんかったぞ」
「えへへ。それなら仕方がないです! もぉー! 先輩ってば、素直なんですから!」
ニコニコご機嫌の花梨を飛び越えて、キラキラとラメが光る鬼瓦くんに質問。
「ちなみに、俺らの逆転の目ってどのくらいあんの?」
「そうですね。玉入れは完全に白組が制しそうですので、そうなると、次の大玉転がしで勝って、学年選抜リレーでワンツーフィニッシュを決めたら逆転です」
「マジかよ。結構条件が厳しいな」
正直、当初は勝敗なんぞに興味はさほどなかった俺である。
しかし、仲間たちが奮闘し、俺も
とは言え、もはや出場機会のない俺には、応援くらいしかできないが。
「公平先輩! 任せて下さい! あたし、リレー頑張りますから!」
「おう! おう? 花梨、リレー出んの!? すげぇじゃん!」
学年の選抜って事は、白組一年女子の一等賞って事じゃないか。
「ちなみに、毬萌先輩も出られますよ。三年生の代表は天海先輩です」
「全員知り合いじゃねぇか!!」
改めて思い知る、俺を取り巻く面々のチート感。
「まあ、でも、大玉転がしで勝たねぇと優勝の目はなくなんのか」
あれって技量どうこうよりも、運の要素が大きそうに感じるのは俺だけかしら。
そんな風に考えていたところ、俺の肩を爽やかに叩くお方が。
この爽やかさには覚えがあり、そもそも肩を叩く行為に爽やかと形容される人を俺は一人しか知らない。
「お任せください、桐島くん。わたくしごときが大口を叩いて恐縮ですが、微力を尽くして参りますので」
土井先輩が大玉転がしに出場されるらしい。
勝ったな。
そして、描写をするのもアホらしくなるほどの圧勝で大玉転がしを制した白組は、天下分け目の大一番、学年選抜リレーの準備へと移る。
いよいよ、体育祭も最終競技。
クライマックスを前にして、俺も声を枯らして応援する所存。
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