第51話 盾

◆幕間


 同刻――


「碧さん。とても素敵な情熱ぶりでした」


 愛媛県内にある、小さな田舎町。そこに構えた産婦人科病院の待合フロアで、早乙女は薄型テレビをじっと見つめていた。テレビの画面に映し出されているのは、地上波ニュース番組の生中継。会見場で、報道陣に向け、深々と頭を下げる碧の姿だ。それを見て、早乙女は思わず右拳を強く握りしめていた。普段は余裕たっぷりな態度を崩さない彼女にとって、たとえ興奮してもその感情を表に出すのは、滅多にないことである。


 眉村から前もって聞かされていた予定に比べ、少々激しい会見内容だった。だが、結果的にはあれで良かったのかもしれない、と早乙女は思う。碧が娘を守るため、思いの丈を世の中に示せたのだから。まあ、今後の世間の反応については、早乙女個人としても心配ではあるが。


「それも、今からの私次第、ですわね」


 早乙女は、優雅に、そして不敵に微笑む。


 今回の依頼を受けたきっかけは、自身の贖罪だった。あの親子の人生を大きく狂わせたこと。それは、けっして死んでも許されることのない、犯した罪の十字架である。だからこそ、自分の一生をかけて償っていくべきだ、と考えた。


 ところが、それが今はどうだろう。


 自分の心は、確かに高揚しているのだ。生中継を通し、碧の真っすぐな声を聞かされたことで、自分は素直に感激していた。まるで、生傷を負いながらも懸命に戦うアスリートの背中を見て、純真な憧れを抱く若者のように。


 眉村の言う『反撃』のバトンは、碧から確かに受け取った。ならば、自分にできることは何か?


 無論、決まっている。


 必死に戦う碧と翡翠の未来を守るため、二人の盾となるのだ。たとえ、その結末で、己の身が砕かれようとも。


 そう考えたところで、早乙女は思わず苦笑する。この歳になって、今更自分に酔っているのか? いや、それでもいい。自分は、自分にできることをする。


「早乙女さん。どうやら、出番はもうすぐのようです」


 隣にいた作業服姿の若い男が、声をかけてくる。ここに集まってくれたスタッフは、早乙女を除き三名。彼らはそれぞれ、パソコンやマイクなどの機材の最終チェックをしていた。何しろ、失敗などあってはならない、一度限りのチャンスなのだ。機材に不具合がないか、念入りに確認をしてくれている。


 その懸命な働きにも、早乙女は応えなければならない。


「では、お願い致しますね、皆さん」


 早乙女はスタッフ達に向け、会釈する。それから、右手に持っていたリモコンのボタンを押し、テレビの電源を切った。


 高鳴る心臓の鼓動。


 スタートの合図は、もう間もなくだ。

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