感想051〜、ときどき閑話

051〜054

051「愛でも特別でもない果実」/千鳥すいほさん② ※本文引用ネタバレあり※

https://kakuyomu.jp/works/1177354054905392377


「お姉ちゃんの小説は面白くないから読みたくない」


 小説サイトでこの強烈なひとことをキャッチコピーに置く潔さ。


 申し訳ありませんが、がっつりネタバレしますし、不要な自分語りもします。作者さん以外で、特に作品未読の方はご注意ください。というか、リンクから小説を読んできてください。

 あのキャッチコピーを乗り越えて読んで来た方のみ、この先にお進みください。





 読んできた?





 幼い頃の創作意欲は、どこから湧いてくるものでしょうか。

 私の場合は、あるイラストつきファンタジー小説を読んで人生初の大衝撃を受け、「私もこんな物語を書けばこんなイラストがつくかもしれない」という動機でした。

 初作品はその小説の影響を丸受けしていて、それはまあ若気の至りですらない、無知故の幼い無敵感満載のものでした。が、考えるにつれてどんどん設定とストーリーが膨らみ、結局学生時代は、ほぼその作品を仕上げることにひっそりと費やしてしまいました。今でも愛着のある大長編です。(リメイクしてネットに上げようと努力していた時期もありましたが、あんまりにもあんまりな出来なので、人様に読んでいただくことは諦めて現在は自己満足で楽しむのみとなっております)

 よく手書きでノート何冊分も書けたよなと、自分でも思います。

 家族に読ませることはどうしても恥ずかしかったので、理解あるごく少数の友人に読んでもらって、それが大変励みになっていた思い出があります。今は疎遠になってしまいましたが。


 物語を書いている間は、うまくいかなくてしんどい現実から離れることができました。

 自分の生み出したキャラクターたちが、自分では行けない場所で、自分ではできない剣と魔法を使って、自分では成し遂げられない偉業を果たす。

 想像力は限りなく、果てしなく自由です。

 思春期特有の、行き場のないストレスをそこにぶつけていたように思います。

 そして、同じようなストレスを同じように発散していた方は、おそらく大勢いらっしゃるのではないでしょうか。特に小説サイトで活動しているのであれば、きっと。



 自分語りが長くなってしまいました。ごめんなさい。

 そんな私です。この小説がぐっさりと心に刺さるのも、お察しいただけますでしょうか。



 主人公の書く小説の、唯一の読者だった妹が、あのセリフを放つまで。

 

【以下本文引用(「01_肉片は甘く」より】


「えーとか言うな! 読ませてあげないよ」

「やだ! 絶対読む!」


【(「02_特別な果実」より)】


「ケチ。もう小説読ませてあげないよ」

(略)

「お姉ちゃんの小説は面白くないから読みたくない」


【本文引用終わり】


 そして、放ってから。


 キーアイテムはイチジクです。

 姉妹の仲たがいのきっかけは確かにイチジクではありますが、妹は「お姉ちゃんにイチジクを分けなかったから」、主人公は「妹に『お姉ちゃんの小説は面白くないから読みたくない』と言われたから」という認識のすれ違いが、なんとももどかしく哀しい。


 「面白くない」というひとことを作者本人に向けて言えるのは、小説を書いたことがないから。書かない人は、書く労力の凄まじいエネルギー消費を知らないので、この恐ろしい言葉を口に出せます。絵でも音楽でも映画でも、その他なんでもそうですね。つくらない人はつくる人の苦労を知らない。

 言われた側は人生を全否定されたも同然です。ショックどころの話ではない。つかみ合い取っ組み合いの喧嘩になるほど幼くなかった分、心に負った傷は深く大きく、主人公は精神的・物理的に妹と距離を置くしかなかったわけです。


 妹の菜摘は、本当はずっとお姉ちゃんの小説が好きで、気になって探していたのでしょう。(自分の発言はとうに忘れて、なんであの小説を終わりまで読んでないんだっけ? と思っていた可能性すらある)

 姉に送る、自分の結婚と結婚式の報告をする文章は、相当、相当悩んだはずです。

 思いのほか優しい返信が来て、嬉しびっくりの照れ隠しスタンプだったであろうと思います。スタンプや顔文字は便利ですね。使用するスタンプのキャラが、実は結構使用者本人に似ていたり通じるものがあると思っています。


 お母さんも、自分が好きなイチジクが、まさか姉妹の関係を抉らせる原因になるとは思ってもいなかったでしょう。気づいていないかもしれない。


【以下本文引用(「03_砂漠の一針」より)】


 イチジクにまつわる母の郷愁が、私の知らないものであったように。

 私の感傷もまた、妹の思い出の外側にある。


【本文引用終わり】


 家族って近くて他人で、見ているものは同じでも、見えているものは違うのです。



 ラストの主人公のセリフを読んで、私は泣きました。言えてよかった。言ってくれてありがとう。



 以下、余談。

 第二話「02_特別な果実」で妹の問題発言が出るあたりの主人公の心理描写、映像化してほしい。フラッシュバック効果をふんだんに使って、昔の無邪気なかわいい妹と、母との特別なイチジクの思い出と、今の状況の目まぐるしい感情の入れ替わりを表現した場面が見たい。めっちゃ見たい。なんだろ、2時間ドラマとかどう?

 そしてラストでわだかまりが消える瞬間と対比させて、感動的に見せてくれ。

 誰かつくって才能ある人。頼む。


 余談2。

 レビューを書きました。感想の切り抜きですみません。

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