041「緊急怪獣速報」「ウルティマ・トゥーレの大河」/緯糸ひつじさん ※本文引用あり※

 「99のマニアックな質問」のご回答で、湊波さんよりご紹介の作者さんの作品です。


湊波さんの質問回答ページ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054895130268


 直接のおすすめは「リフト・バレーの幻」だったのですが、こちらの二作が私の好みにより合致いたしました。「リフト・バレーの幻」も素晴らしい完成度の、素敵な作品でした。まるで映画を観ているようでした。


「リフト・バレーの幻」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889280767


 すみません、好みが激狭で……(泣)



「緊急怪獣速報」


https://kakuyomu.jp/works/1177354054885918039


 非日常が、そのまま日常にスライドしていく異常を、ここ十年ほどで幾度体験したでしょうか。

 スマートフォンから突然流れる、緊急〇〇速報。最初はその聞き慣れない不快な音に驚きますが、徐々に「またか」と慣れていき、速報+「自分の感覚」で危険を測るようになってしまいます。(※本当に危険なときは速やかな避難を!)

 地震も慣れてくると、体感で震度が測れるようになります。嬉しくない特技です。


 そんな非日常の緊急速報の通知で、「怪獣」が、それも何度も来たとしたら。

 それすらも、日常には組み込まれていくのです。


【以下本文引用】


 テーブルの湯呑みがガタガタと震えると、「地震? それとも怪獣?」なんて呟き、バラエティ番組からニュースにチャンネルを切り替えるような風景がある。


【本文引用終わり】


 すっかり慣れるとこうなりますよね。

 相手は怪獣。正体不明のでかい生き物。意思疎通不可。どこから来たの? 何しに来たの? なんでこっちに来るの⁉

 きっとお国の偉い人たちが、映画「シン・○ジラ」さながら、あらゆる分野のあらゆる専門家と協議しつつ対策を練って、戦ってみたり結局敗けたりしている。

 その間に一般市民にできることは、ひとつ。「自分の命を守ること」、つまり避難です。

 主人公は、てっきり有志の避難誘導ボランティアを買って出ている、心優しい若者かと思いきや……!

 この設定がリアルだなあと思います。

 スマホアプリ“HollowMe”の利用なども、現実的かつ近未来っぽくて、本当に存在していそうです。この名称も絶妙です。こういうセンスいいなあ、とても好きです。


 主人公の寛太くん、非常事態の中で淡々と過去を振り返っていますが、とんでもないトラウマを抱えています。自分のトラウマに、変な風に蓋をして成長すると、どこかで歪みが出るものです。

 日常の中の、非日常。異常の中の、正常。

 時間感覚と平衡感覚が狂う、ぐにゃりとめまいがするような描写に、思わず唸りました。(他の方のレビューにもありましたが、私も好きな伊坂幸太郎さんを彷彿とさせるような感じ、わかる! と思いました)


 ラストの一文もまた、とても好きです。

 いつのまにか始まって、終わらない。異常だろうが正常だろうが、それが日常です。

 敗けてないよ。日常を生き延びたら、勝ちなんだよ。



「ウルティマ・トゥーレの大河」


https://kakuyomu.jp/works/1177354054888564478


 私はド文系です。理系脳は一ミリも持ち合わせておりません。

 「すこしふしぎ」以外のSF系は本当に読めません。読める宇宙系もかなり限定されます。

 そういう意味でも希少な小説です。


 カテゴリが「SF」ではないのは、作者さんの何かこだわりでしょうか。

 壮大なタイトルに対して、エピソードタイトル「太陽系規模にまで話を膨らませたガール」の親近感。

 お父さんの、「この子、ちょっと太陽系規模にまで話膨らませたがるんだ」の一言で、子どもの興味に寛容的なご家庭で育った主人公なんだなあというのがわかります。

 「すいきんちかもくどってんかい!」の覚え直しなども、懐かしいですねー!


【以下本文引用】


 枕元には変な折り目が入ってしまった文庫本がある。G・H・ヴェルヌの「宇宙戦争」だ。

 本棚の「きまぐれロボット」と「ロウソクの科学」の間に、それを差し込む。


【本文引用終わり】


 このラインナップでふふっと笑える自分でよかったと思います。星新一は読みました。「宇宙戦争」は映画で観て(いろいろ言いたいけどここではやめておきましょう)、「ロウソクの科学」はタイトルを知っている程度ですが。


 二〇十三年、二〇十五年のエピソードがかわいくて好きです。

 友達の一言「あんたは太陽系規模までの距離なら、たぶんギリセーフ」がとてもいい。


【以下本文引用】


 ただの一目見るために、九年掛けて探査機を飛ばすほどに冥王星は、捉えたいものだし捉え難いものだ。


「どういう意味……」


「ずっと僕の隣にいてください!」


 あまりに直球。ぐんぐん伸びる球は彼の持ち味だった。


【本文引用終わり】


 こういう伏線回収も、かわいい。


 人類の歴史に刻まれるような偉業を成し遂げる人の一歩も、その人の、いつもと変わらない歩幅の一歩なんです。

 改めて考えるとその通りの事実に、初めて気づかされました。感嘆でした。



 もういっそ、どれも映画化されてほしい……。どれも本当におもしろかったです。


 読書のきっかけをくださった湊波さん、ありがとうございました。

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