038「雪に満月」「指のある部屋」/夏野けいさん② ※本文引用あり※追記あり※

 今回、二本立てで感想書きます。


 どうして書籍化されたプロじゃないんだろうと、読むたび首を傾げたくなる作者さんです。

 短編集、出しませんか。というか、実はすでにどこかから出版されていませんか。

 夏野さんの公開されている作品を読破することが、私の目下の企みです。



「雪に満月」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894941821


 ほっこりほのぼの、すこしふしぎ系の、とんだ飯テロ小説です。今が真冬でなくてよかった。


 冷え切った深夜の雪の帰り道、街灯と雲間の満月のスポットライトを浴びて現れた、ふわりと不思議な少女と白くて丸い物体。

 ホラー、ではありません。おばけじゃないよ、怖くないよ。

 主人公は寒さと疲れのあまり思考能力が鈍り、なんだかよくわからない流れで、その子とぷるりと丸いのを家に上げることになります。


 困ったな、本文引用しようと思ったら、最初から最後までコピペして「全部好きです!」で終わってしまう。

 特に好きなのは、玉ねぎをむくようにするりと布を落とすスカートと、とろけたホワイトチョコレートもかくやという微笑みです。


 ラストのやり取りとその余韻が、とても好きです。

 出会った瞬間と、ラストの場面で、二人の力関係が逆転しているのがおもしろいなと思いました。

 異種交流の場は、温かさと食べ物を支配した方が強いのです。



「指のある部屋」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893909779


 微ホラーには微エロがよく混ざる。

 タグの並び「指/微ホラー/しきたり/刺青/和風/まじない/悪い子/血」から醸し出される雰囲気、ここから作品が始まっています。


 手は、ねえ……(ため息)。

 書き方によってはよっぽどエロくなる部分だとは思いますが、ちょっとここまでエグイ手指の描写がある小説を、他に知りません。


【以下本文引用(「しるしの訪れるまえに」より)】


 それは上等な陶磁に並ぶほどの肌を持ち、ほくろのひとつもなく、男のものにしては細い指さきと女にしては主張の強い骨格をしていた。爪は玻璃の細工めいて繊細に艶を帯び、血管が蒼く優美な伏流となって走る。


(中略)


 凛とした骨格をおのれの指さきであらわにするのは刺繍の稽古よりもずっとゆき子の美意識にかなったし、真綿よりもやわく感じる掌に包まれれば背骨までとろけてしまいそうに心地よかった。


【本文引用終わり】


 この後ろめたい色っぽさ、得体の知れない手の描写なのに鼻血出そうです。


 第四話「末路」で出てくる婚礼衣装。普通は白無垢であるはずですが、漆黒です。

 これは、我々の世界では「すでにこの家に染まりました」という意味があるそうですが、ゆき子の世界もそれと同等の意味を持つと捉えるならば、両家の思惑が如実に表れていて、実に嫌らしいなあと思いました。


 しるしから生まれるものは、卵。

 ゆき子のしるしから生まれた卵たちは、形を成さず、あの面影だけ残して消えていく。


 ぞわりと恐ろしくて、切ないビターエンドでした。大変に好みでした。おもしろかったです。



 なんでしょうね、この描写の鬼は。難解な語彙はひとつも用いず、どこもかしこも柔らかく、やさしく美しく、時には不思議に、時には恐ろしく情景が伝わってくる変幻自在な書き方。

 ねえ夏野さん、何を読んで育ったら、こういう文章が書けるようになりますか?



【2022年4月追記】


 はい、フラグ回収しました。


 カクヨムとは別名義の活動で、第13回創元SF短編賞を受賞されたそうです! 受賞作はアンソロジーに収録され、刊行予定とのこと。

 このたびは、ほんっとうに、おめでとうございます!!


 ねー? ほら、だから言ったじゃーん。(決まり文句)

 普段アンソロジーって読まないんですが、これは絶対買う。そして、「こっちはこの方のデビュー前から知ってるんだもんねー!」って、むふふってなりながら読みます。


 読者としての夢がひとつ叶いました。

 次は夏野さん(別名義)の短編集を単行本で読む、という夢があるので、遠くない未来で実現するといいなあと思っています!

 これからも応援しています。素敵な作品を、どうか書き続けてください。

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