037「大瞑堂のある街」/lokiさん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892461576


 第5回カクヨムコンテスト中間選考通過、及び朝読小説賞の最終選考に選ばれている作品です。


https://kakuyomu.jp/info/entry/webcon5_nominated


 単純にタイトルが好みだったのと、「電撃大賞三次落選」のタグが気になって、つまり絶対何かある作品だと思ったのです。


 はい、大正解。たいっへんに好みの小説でした。

 星による評価って当てになるのかならないのか、私にはわかりません。

 こんなおもしろい小説が、なんで評価されないんだろうか……。



 両親を亡くし、天涯孤独になってしまった主人公の少女が、自分のできること、やりたいことを見つけ出し、地に足をつけて努力して、成長していく物語。

 中学生あたりの朝読に、まさしくぴったりなストーリーです。


 主人公はものすごく気を遣うタイプで、人見知りだし、でも責任感もあるし、一人で生きていかなくてはいけないプレッシャーに押し潰されそうになっていて、あああわかるわ~とつい同情する部分も大きかったです。

 生活に慣れること、仕事に慣れること、自分の勉強を続けること、これを同時にこなさなきゃいけないしんどさ。自分が本当に慣れていくのか、慣れることもできずに、もしかしてただ才能がないだけなのか、不安で仕方なくて、でも帰れない、誰にも頼れない新生活。

 少し懐かしい気持ちになりました。

 主人公は、人生について既にある程度達観、もしくは諦観している感じの、とにかく淡々として思考回路も実に論理整然としていて、十五歳なのに精神的にはそこらの大人以上に大人びています。

 だからこその危ういアンバランスさと、成長への期待度が、周りの大人がつい助けたくなってしまう理由かなと思いました。


 先輩さんの存在に、本当に救われました。

 淡々主人公をいい意味で振り回しつつ、決して深入りせず正しい距離感を保ってくれる、サバサバした明るい性格。

 彼女がいなかったら、もしかしてだいぶ暗い話になっていたかもしれません。

 「思念士」の試験の結果を知って、一緒においおい泣いてしまうやさしさに、いつも見守ってくれて本当にありがとうと、思わず私も一緒に泣けました。

 あと下宿舎の女主人さんですね。本当にお母さんみたいで。

 二人が初対面で一気に仲良くなってしまうのも、さもありなんという感じです。



 この小説の特筆すべき特徴として、大瞑堂と二つの塔以外の固有名詞や細かい描写が、ほぼ出て来ません。人物名、地名、食材、そのほか全部。徹頭徹尾。

 名前を出さない描写あっさりタイプの物語は、短編や掌編ではたまに見かけるし、私も狙って書いたりしますが、長編でここまで徹底している作品も珍しいです。


 メリットとしては、読者が自由に想像できる点、そして主人公に感情移入しやすい点。

 デメリットとしては、「描写不足」と評価されがちな点でしょうか。(そこが魅力であり、作者さんも狙って書いているであろうと予測します)


 例えば「衛士さん」は、胸に記章のある服を着た、背が高くて髪の短い若い男性。「女主人」はとても気さくな恰幅の良い中年の女性。

 以上。

 登場人物ほぼ全員そんな感じ。先輩さんに至っては女性とだけ。髪や目の色の説明もない。主人公の外見の描写もないです。

 唯一の例外は「少女」が白い慎ましい服を来て、金色の瞳をしているということでしょうか。色がついているのはこの少女だけです。

 そう、色の描写もほぼないので、物語全体がモノクロームに包まれている印象があります。

 描写がないからこそ、人々の生活――それぞれの立場や性格の違いがあって、服を着たり物を食べたり、悩んだり怒ったり悲しんだり、そして喜んだりしている――それらがまるで文章のはざまから浮かび上がるように、色やにおいも含めて、どこまでも想像できるのです。



 もし、この小説が商業作品化されたら、きっと街や登場人物に固有の名前と詳しい描写や色がついて、一人一人が個性を持つキャラクターとして独立していくのでしょう。

 私の希望としては、主人公の名前だけは、気づけば最後まで出てこない小説のままであってほしいなと、思っています。

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