034「魔王の棲家~天才魔術師と老いた英雄達の物語~」/飛鳥 休暇さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888663292


 一気読みできる小説に出会えると、興奮します。


 冒険しないバトルファンタジーでありながら介護小説、で、きっちりおもしろいってどういうこと? どういうこと?? この展開めっちゃ熱いんだけど‼ と思っているうちに読了してしまいました。

 文章力の高い小説は、長さを感じさせない。あっという間でした。

 あと、このお手本のような、完璧なあらすじ!

 あらすじが上手い小説に外れナシ。間違いないです。(好みかどうかは別の話)


 電撃大賞三次落ちとのこと。すっごくおもしろいんですが、恐らくテーマが渋すぎたのでは……? と、ちょっぴり予想します。

 ある意味、大人向けだと思います。精神年齢的に。



 自己評価のくっそ高い自尊心の塊、いかすかねえ天才魔術師セイルくん。かなりいい性格をしてますが、かつての最強の英雄たちの前ではまだまだひよっこ。

 ライカさんにも「新入り!」と名前すら呼ばれない扱いに、さぞプライドがずたずたになったことでしょう。

 セイルくんが「魔王の棲家」に配属された経緯も、【トライアド】の上の人たちのいやらしさがよーくよーく顕れていて、なんとまあ世知辛い。

 でも現代社会においてもよく聞く話なんだよなあと、セイルくんにも組織にもなんだか同情できる部分があって、異世界ファンタジーなのに妙に現実的です。


 それにしてもセイルくん、さすが天才です。厄介な入居者の起こす事件も見事に解決。どこにいても優秀さを発揮する。根性もあるし適応能力もある。前任者と違い、やはり適任だったのかもしれません。(前任者の存在もまたエグいエピソードで伏線回収、本当に感心しました)

 セイルくんのような尖った若造をひよっこ扱いできるおじいちゃんおばあちゃんたちの懐の深さ、人生経験の豊富さは、年の功と言いましょうか。さすがとしか言えません。



 各キャラ、みんな抱えている問題を解決するし、ラストへ向けての活躍の場が、見せ場が熱い‼

 セーラさんのエピソードは本当に切なかった。これも伏線っていうニクさです。

 おじいちゃんズ、アレッシオさんの独白に胸が苦しいです。

 生きている限り、老いは避けられない現実です。過去の栄光は遠くなり、いつ自分に何があるかわからない不安を抱え、時が過ぎるのを待つ日々……。

 「魔王の棲家」の存在意義にも、ちょっと憤りすら感じました。

 と思いつつも、私はシラズさんが好きです。おちゃめで渋カッコイイ! あのバトルシーンは滾りましたし、“シラズ”の由来も超アツいです。



 ところでこの物語の主人公は、ライカ姐さんだと思うんです。姐さんカッコよすぎてめっちゃ男前。そして伏線の塊‼(キタコレ!)

 持っている武器が鞭ということは、つまり「猛獣使い」的な意味合いも含まれている⁉

 仕事の有能っぷりと、彼女の抱える来歴に、おじいちゃんおばあちゃんにも一目置かれてかわいがられている事実が、大変に愛おしいです。

 食事のマナーだけは、もうちょっと気をつけていただきたいところではありますけどね。



 人がいて、国があり、社会が成り立っているなら避けては通れない介護問題を、異世界ファンタジーで扱った小説が、かつてありましたでしょうか。

 世界の事情、敵の存在、魔術の仕組みの解説も、介護エピソードの合間に過不足なく読みやすく散りばめられています。

 一つのエピソードから芋蔓式に伏線回収へ繋がっていく。しかもそれは、プロローグから始まっている。

 七万文字強に詰め込まれた、幾重にも仕掛けられた構成に称賛を送りたい。


 大変おもしろかったです。

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