031〜035

031「花の贄」/ふづき詩織さん ※本文引用あり※個人的意見あり※長文※追記あり※

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890681300


 世界が創られ、壊され、救われず、救われてゆくさまを、私は目撃しました。

 

 読了後に理解したタイトルの意味に、改めて衝撃を受けるのです。ここまでもが伏線だったのかと。



 巻き込まれ型「普通の」主人公エルバの住んでいた世界は、文化、文明的に現代の我々の世界に近いようです。


 エルバが白い夢から覚めると、見知らぬ荒野が広がっています。いきなりの野宿。装備は白い剣だけ。そして容赦なく戦闘です。タッタッタ、と淡々と迫ってくる大量の大型イヌ怖い。

 ヒトハミ、つまり「人み」、なるほど、単なる「魔物」ではないのです。


 第2話で訪れるゴートとの偶然の出会いと、期待を裏切らない裏切り。出ました、伏線の塊パート1‼(彼については後述します)



 絶望の淵に舞い降りた正義の天使、フューレンプレア。

 この物語は、彼女の成長物語でもあります。


【以下本文引用(第3話より)】


「もう安心です。イワグイムシとニクショクバエの幼虫とサンショウイモリを乾燥させて擦すり潰し、スナカマキリの内臓とオオバリサソリの毒を混ぜ合わせたものを聖水で薄めた霊薬です。あなたの体を蝕んでいたものは、きっと追い出されたことでしょう。」


【本文引用終わり】


 この、いきなりのとんでもない異文化の突き付けがたまりません。

 得体の知れない内臓とか毒などの原材料で、え、つまり死ぬの? と不安が膨れ上がるくらいには回復させてくれるので、実はものすごく効く薬ですけどね。

 ここの描かれ方が、すごく好きです。



 第5話で描写される聖教会の、権力者のみなさんの複雑かつ利己的な事情が、実にめんどくさくてリアルです。敵を外に作って危機感と結束力を高め、民衆の心を掴む。どの時代の権力者も同じですね。


 部屋の様子で自分の状況(歓迎か監禁か)を冷静に判断するエルバは、頭の回転が速いということがよくわかります。

 食事は異文化らしさが如実に出る部分です。イチゴ的な形の明らかに美味しそうな描写からの、実は生きているアリという落差に、こっちも「ひいっ」となる。

 けど、フューレンプレアがいかにもスイーツを食べる女子で、かわいい。

 でもそれ、アリだけど⁉ という、このギャップ。

 トドメの山盛り虫料理に、私も死にました。食虫文化は絶対無理‼

 第6話で登場のマイ(つまり米?)があって本当によかった……生き延びた……。


【以下本文引用(第6話より)】


「我々が君と言う奇跡を受け入れるには、物語が必要だ。神に選ばれた者が数々の試練を経て世界を救うというストーリーが。君にそれをつむいで来て欲しいのだ。」


【本文引用終わり】


 やらしいよねー、この法王の言い方! この曲者感‼



 死は物語ではない。美しくもない。醜く、生々しい現実です。

 今のエルバは常に、死と隣り合わせなのです。


【以下本文引用(第8話より)】


 半ば失われた己の命を惜しんで他人を犠牲にし、臓物を撒き散らしながら逃げ惑う生々しい生命に直面して、エルバは戦慄せんりつした。夢のように思っていたこの世界の景色が突然現実感を持って押し寄せてきた。


 自分はフューレンプレアのような聖人ではない。自分も彼らのように醜悪に死ぬのだ。不意に襲ってきたその自覚が、エルバをぬいめて離さない。


【本文引用終わり】


 この描写は胃が震えました。



 なんと言ってもキーパーソンのティエラです。出ました、伏線の塊パート2‼ 姐さんカッコイイ! ついて行きます‼(でも守ってね!)

 第12話から第14話にかけて、全部が彼女の伏線です。

 同時に明かされる、思わぬ場所で再会したゴートの意外な過去。これもまた、伏線になっているのです。


 仕掛けられた伏線は、まるで蜘蛛の巣のように、一本が縦にも横にも伸びて繋がっていきます。



 物語は第15話から大きく動き始めます。


【以下意見(※作者様、申し訳ありません、読み飛ばしてください。ご指摘くだされば削除します※)】


 ひとつだけ、気になった点を申し上げます。

 球状遺構の中で登場する「モニター」「コントロールルーム」のくだり。世界構造の説明に必要な道具なのはわかりますが、突然の“現代感”にちょっと違和感があって、個人的に受け入れるまで時間がかかりました。

 モニターがあるならカメラもあるはずなので、ティエラの「誰かいる」という結論の前に、エルバがカメラっぽい何かしらの違和感に気づくような伏線があると、流れ的に自然かなと思いました。(……と、ここまで書いて思いましたが、もしかして白灯がそれだった?)


 マッドパピーのいる部屋に入っ(てゴートが殴っ)た後、例えばエルバに、もっと驚いて欲しかったです。「どうしてこんな(文明的な)ものが(文明レベルの低い世界の)ここに」、とか。

 また、ティエラにも「まだこんなに機能していたのか」等、呆れ半分感嘆半分でつぶやくなりのリアクションがあってもよかったかなと。


 申し訳ありません。ここだけ、どうしても気になった部分でした。


【個人的意見終わり】


 マッドパピーは、名前も出てない存在チラ見せの時から、一際異彩を放っていましたね。まさにエキセントリック。

 天才故に、役に立ったり、役に立たなかったり、役に立たなかったりする。実に、名は体を表すキャラです。



 ここまでで、物語の半分。


 ここまでの全部が、伏線。


 ここまでで、エルバが奥の手を使い切ってしまう展開に、胸が熱く苦しくなります。


 後半、凄まじい伏線回収の嵐です。

 重厚で繊細で綿密に練り上げられた世界を、どうぞ一緒に目撃してください。



 第29話でエルバがついにアレを! あああっ!

 あの瞬間に、エルバのこれからの人生と覚悟が決まったのでしょう。



 私はゴートが好きです。理由は以前にさんざん語っていますので省略。

 ほらね? エルバ、フューレンプレア、ティエラに続く、主要キャラの四番目でしょう?


【以下本文引用(第16話より)】


 ゴートはニヤリと笑ってずしりと重い剣を受け取ると、ティエラの後ろに陣取った。


「背中は任せな!」


「嫌だよ。」


【本文引用終わり】


 この短いやり取りの中に見える、二人の関係性が大好きです。

 ティエラ姐さん、いかなるときもばっさり容赦なくて超カッコイイです。説得力皆無のか弱いアピールがかわいい。

 そして飄々とめげないゴートが、個人的に大変にツボです。

 最後の戦いの後、柄になく必死になっちゃうところと、「軽いぜ。」の一言の重み!

 ラストにおける、彼の行方の噂がまた切ないです。報われないかもしれないけど超がんばれ……!

 ゴートに幸あれと、切に願います。



 そう、つまりこの物語は、ジ〇リでアニメ映画化されたらいいんです。

 そうしましょう! ぜひ!



【2023年8月追記】


https://kakuyomu.jp/users/SentenceMakerNK/news/16817330657905389576


 作者様、他作品ですが他社コンテストで受賞されて、2023年6月に書籍が発売されております。

 才能ある人が努力し続けるってつまり最強×最強みたいな状態なので、コンテスト受賞も、そりゃ当然そうだろうなとしか言いようがありません。

 大変遅くなりましたが改めまして、この度はおめでとうございました!

 さらなるご活躍を応援しております。

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