019「花と頭蓋」/夏野けいさん ※本文引用ネタバレあり※

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891335251


 ラストの二行に、すべてを持っていかれました。


 わかっていた。止められず、止める手段もなく、ただ寄り添うしかなくて、終始切なくてやりきれない。わかっていたんです。


【以下本文引用】


(前略)


「ここに爆弾が埋まっているんだ。爆弾は花のかたちをしている。今はまだ蕾でね、開くとき私は死ぬ。枝は脳の隅々まで張り巡らされ、外科的に除去するすべがない。ねぇ君、花は何によって開くと思う?」


(後略)


【本文引用終わり】


 ものすごいセリフです。頭を殴られたかのようなインパクトでした。

 先輩の口から淡々と語られる、爆弾と、花のかたちの、壮絶な対比。咲かない花はない、しかしそれは、死ぬことを意味している。


 先輩が咲かせるであろうその花は、どれほど美しいのでしょうか。

 と、一瞬でも想像してはいけない。それは禁忌です。


 どんなに不毛でも、美しい花を咲かせないための努力をせざるを得ない、束田くんのやりきれなさを想像すると、胸が張り裂けそうです。たとえ家族だって、あの状況を支えるのは絶対辛い。



【以下本文引用】


(中略)


「束田くん、私の命を背負ったらいけない。約束して。忘れる必要はないけど、覚えてくれていたらうれしいけど、私の死後は君の余生であったらいけない。君の命が真に始まるのはこれからだから」


(後略)


【本文引用終わり】


 自分の死を見据えている先輩のセリフが、いちいち胸に刺さる。

 残される側にとっては、一番聞きたくない言葉です。


 エピソードタイトル「花は桜、」の読点の余韻も、物語の儚さがいっそう引き立っていると思います。

 桜が散り始めている中、頭蓋の中に咲いた色のない桜、そしてラストの二行。

 描写の美しさと切なさに、心臓を掴まれてしまいました。



 本当に美しい純文学的な小説を読んで、感想を書くときって、もっのすごーく緊張します。

 私なんぞの文章力でこの物語の魅力は伝えられない、語彙力が低くて言いたいように言えない。変に気負って何か書くと、逆に物語の魅力を削いでしまう気がする。

 考えて書いた結果、無駄にポエムっぽくなってしまって、そうとしか書けない自分を猛省するんですがこれ以上書けない。泣きそう。完全に力不足です。無念。


 好きです。それだけは確かに記します。

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