NEVE ~22番目の女の子~
@smile_cheese
NEVE ~22番目の女の子~
出席番号22番。
丹生明里。
クラスメイトから『にぶちゃん』と呼ばれている少女は今日も太陽のように明るく笑っている。
その曇りない笑顔はクラス中を明るく照らす。
誰も彼女が涙を流しているところを見たことがないらしい。
合唱コンクールで惜しくも優勝を逃し、クラスメイトが泣き崩れてしまったときも、彼女は笑顔でそのクラスメイトを励まし続けていた。
彼女が泣かない理由を僕は知っている。
丹生明里は特に仲の良い友達が二人いた。
クラスメイトの金村美玖と渡邉美穂だ。
三人は朝から放課後までほとんどの時間を一緒に過ごしている。
この三人が集まるとクラスはさらに賑やかで明るくなる。
金村「昨日のテストどうだった?」
渡邉「聞かないで…」
丹生「そんなこと言って、美穂はいつも良い点取ってるじゃん」
渡邉「良い点じゃだめなの!満点じゃないと」
丹生「美穂は自分に厳しいもんね」
合唱コンクールで泣き崩れていたのも渡邉だった。
金村「まあまあ。とにかくテストは終わったんだし、部活終わったらカラオケにでも行ってパーっと騒ごうよ」
渡邉「いいねー!にぶちゃんは?」
丹生「わたしは…」
彼女は突然真顔になると一点を見つめて無言になった。
金村「にぶちゃん?」
ハッとした表情で我に返ると、彼女は再びいつもどおりの笑顔に戻った。
丹生「ごめん、今日は予定が入ってるからダメなんだ」
渡邉「そっかー。じゃあ、カラオケは別の日にして私たちはどっかカフェにでも行く?」
丹生「ごめんねー」
美玖「いいの、いいの」
彼女は時々、さっきのように真顔になり、一点を見つめる癖がある。
誰もその理由を知らないが、僕は知っている。
彼女はダンス部に所属している。
今日も授業が終わると、体育館の壇上で笑顔でダンスの練習をしていた。
僕はそんな彼女を遠目から見ている。
すると、後輩の女の子が彼女に勢いよくぶつかってしまった。
後輩の女の子は慌てた様子で必死に謝っていた。
いつもの彼女であれば笑顔で対応していただろうが、この時は様子が違っていた。
彼女は真顔になると一点を見つめていた。
教室で見たときと同じだ。
丹生「ううん、全然大丈夫。それより明里は違うことで頭がいっぱい…」
後輩の女の子は彼女の変わりように戸惑った様子だった。
まずいな。これはまずい。
僕は彼女の元に駆け寄ると、強引に彼女の手を引っ張りながら体育館から連れ出した。
そして、誰もいない空き教室に二人きりで隠れた。
息を整えた僕は彼女の顔をじっと見つめた。
丹生明里は一粒の涙を流していた。
少し、昔話をしよう。
アダムとイブはこの地球上の最初の人類と言われている。
彼らは掟を破り、知恵の樹の『禁断の果実』を食べてしまったことで善悪の知識を得てしまう。
神は彼らが生命の樹の果実まで食べてしまわぬよう、彼らをエデンの園から永久に追放したのだ。
そして、時は流れ20XX年。
何度となく転生を繰り返してきたアダムは、ついに生命の樹に匹敵する実験に手を出した。
アンドロイドの創造である。
容姿は人間そのものだが、永遠に生き続けることができる存在。
アダムは限りなく成功に近い22番目のアンドロイドに名前を付けた。
転生に失敗して二度と会うことが出来なくなった彼女の名前を借り、新しいという意味を持つ『NEW』と『EVE』を組み合わせ『NEVE』と。
『NEVE』=『丹生』
『丹生明里』は僕が創ったアンドロイドだ。
実験の際、怒りと悲しみの感情を取っ払った。
だから、彼女は涙を流さない。
さっき流れたのは後輩の女の子とぶつかったときに出来た傷からオイルが漏れただけ。
怒りや悲しみは争いの原因になるから不要だ。
しかし、そのせいか時々バグが発生する。
それがあの真顔になる瞬間。
喜びの感情が強すぎたり、感情を制御しきれなくなると思考が一時的に停止する。
まだまだ改良の余地がありそうだ。
もう一つの『禁断の果実』を食べてしまった僕に後戻りは許されない。
さあ、家に帰ろう、明里。
彼女は太陽のように明るい笑顔でうなずいた。
完。
NEVE ~22番目の女の子~ @smile_cheese
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます