落花部族

斧間徒平

落花部族

 芽吹き、咲き、散り落ちるを花の一生とするならば、生まれ、はぐくみ、咲きほこるはその民の一生である。


 天も地もその果てを見せぬ、茫漠ぼうばくにして広大無辺の空間に、屹立きつりつする崖があった。

 神代かみよの昔から吹き続ける風は崖に穴を穿うがち、いつの日からか、その民は住みついた。


 民は必ずで生まれ、子をなして老いる。子はやがて孫をなす。孫はやがてひ孫をなすが、老いたつがいがその顔を見ることはない。穴は、それ以上の民を抱えきれぬ。

 故に、老いたつがいは、ひ孫のために穴より飛び降りて消える。


 消えたつがいは虚無の果ての地に叩きつけられ、鮮やかな赤い二輪の花を咲かす。民に永遠の花の意思はあれど、人に意思はない。


 ある日、忌み児が生まれた。つがいと男の三つ子であった。民の意思は男を咲かせることを望んだ。悲しみはなかった。男はただ粛々と老いずに咲いた。

 「もし」と、一言だけ残して。






 時は流れる。つがいは子をなして老い、咲く時となった。これからも永遠に繰り返され続ける開花の儀。


 だが、


「もし、ぬしらの子も三つ子を産んだら、また咲かせるのか」


 声の続きが聞こえた気がした。


 永遠は、その時を以てほころんだ。

 つがいは穴の奥へと向かい、一心不乱に穿ち始めた。

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落花部族 斧間徒平 @onoma_tohei

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