謎2 更新する日付にこだわっちゃう!



「またアナタですか?カクヨム警部?」

「ええ。そうなんですよ。挫刹一さん」


ニコニコと笑いながら、カクヨム警部がいつもの縁側に座った。


「今回はどうしたんですか?」

「いや、そろそろ〆切りに追われてやしないかと思いましてね?」

「ドキッ」


ドテッ腹に喰らった。けっこう重い一撃を。


「ははぁ、やっぱり追われてたんですな?

ダメですぞぉ?挫刹一さん。

油断しているとすぐに締め切りが来ますからなぁ?

ついこの前も同じことを言われておりませんでしたか?」

「こ、この前……?」


……まさか、この警部、

挫刹が隠して持っている能力の一つ「精神とオナラの部屋」の存在を知っているのかッ!?


「いま、そこで何を考えてるのか、

一介の保安官には分かりませんが、ここでは否定しておきましょうか。

いいですか?

挫刹一先生?

確かに作品を更新する事は大変な事です。それでついでにPVまで稼ごうなんてまさに神技だ。

あなたはその神技を探求しておるのですから。

何を隠そう、私もそんなあなたの姿勢に尊敬を抱いているからこそ、

こうして毎日顔を見せに来ておるのです!

それをもう少し挫刹一さんには気付いて欲しいものですな?」

「本当はただの興味本位なんじゃないんですか?」

「かっはっ、これは痛い所を突いてきますなっ?

実はあなたがよくする、フケやシラミを飛ばしながらボサボサな髪を掻き毟って悩んでいる苦悶の表情が超オモシロいから見に来ておるのですよッ!

いやぁ、実に痛快だッ!」


がっはっはっと人の気持ちも知らずに豪快に笑う。


「……冷やかしなら帰ってください」


「ああ、そんなご無体なッ!

今日もそんな挫刹一さんの為に、ある事件のお話を持ってきたというのに」

「また今度はどんな事件なんですか?」

「PVが欲しいくせにエピソードを更新する日付に拘って、全然人のいない時間帯に予約更新して自爆した人間の話です」

「……今回もまた相当にヒドイ事件のようですね」


挫刹一の顔を背けた表情に、カクヨム警部はニンマリと嗤う。


「ええ。

今回の事件もまったくそうです。

犠牲者は男!今回は、被害者も加害者も特に出ませんでした。

自爆ですから。

はた迷惑な話です。

自分から勝手に初めて、勝手に騒ぎ出して、勝手に片をつけていく……。

男はよく大ボラを吹く人間でした。

人気者になるぞ!金を稼ぐぞ!と大層な事を言っておいて、軽い気持ちで自分の考えた面白そうな展開の物語を書いて、いい気になっておったのです。

ところが期待していたほど人気が出ない。

男は恥をかきました。

当然でしょうなぁ。

ただ単に自分だけの知識を面白味もなく羅列していただけだったのですから。

それで人気がなくなっていくと、他のランキングに上がっていた人気作に嫉妬するようになるのです。男は憎悪に狂いました。

やれ相互だ。やれ複アカだ。

男はそんな疑心暗鬼に憑りつかれていったのですよ。

自分の作品に人気が出ないのは、自分の書き方が悪いからだとは露とも思わずにねッ?

にも関わらず、男には拘りがあった!

男は自分の作品の続きを出すタイミングに拘っていたのですよッ!

人気が出ない作品をッ!

さらに人がいそうにない時期や時間帯に投稿するッ!

コイツはバカなんじゃないのかッ?と。


男が強くこの時刻に投稿したいと考えていた時間帯は深夜でした。

なんか数字に拘っておったらしいのですよ?

更新したエピソードの日付に拘っていたッ!

これは始末に負えないッ。


おまえ、そんなことする前にとっとと人のたくさんいそうな時間帯に出せよ!と。

誰かが、そう言ってあげるべきだったんでしょうな。


しかし、

そんな事を言ってくれる周囲の人間にも恵まれず、男は自壊していきました。

再起不能です。

直ぐに現実で感情を爆発させて自爆して、人から奇人変人と見られるようになった。

幸い爆発したのは感情だけだったから、まだよかった。


男は二度と作品の書けない廃人にはなりましたが。

普通の生活を送るのには、何も支障がありません。

そりゃ、書いてたワケのわからない作品を破っただけですからな?

自業自得というモノです。

ただちょっと、ささやかな夢が一つ減っただけのこと……」


「でもその失くなった夢が、一番重要だった。という事もあるんじゃないのですか?」

「おや?挫刹一さんは、その男の肩を持つんですか?」

「……自分の作品からこだわりを捨てたら……それは作品じゃありません」

「では、もう少し自分で考えないといけませんなぁ。

例えば……?

更新したい日付が来てから「慌てて書き始める」……なんてことは絶対に避けるべきだとは思いますが、いかがでしょうか?」


カクヨム警部が覗くように挫刹一の動かしていたペン先を見る。


「……どうやら、あなたは知りすぎたようです……。カクヨム警部……」

「おっと、これは怖い恐い。

それではここら辺でお暇、致しましょう

また何か事件のお話でも仕入れて来たらお伺いしますよ。

挫刹一さんッ?」


被っていた白い中折れ帽子で別れの挨拶をして、カクヨム警部はそそくさと去っていった。



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挫刹の書斎 挫刹 @wie

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