勇者と言う名のサラリーマン

@pipiminto

命をかけても固定給


俺はとある会社でサラリーマンをしている。

命をかけて。


仕事に命をかけて取り組むなんて素晴らしい?そういう意味じゃないんだ。そういう、比喩的な表現ではない。


俺は、一昔前で言うところの勇者だった。


勇者が仕事になるってなんかもう夢のない世界だなぁって絶望するけど。実際に勇者なんだからどうしようもない。


山に魔物を従えた盗賊が現れたと言えば聖剣を手に山を登り、国家が魔王に戦略されたらパーティーを組んで退治しに向かう。


ちょっと前までゲームの中での出来事だったものが現実になり、しかも主人公であるポジションに就職するなんて。誰が思うんだろう。


俺はこの会社には総務部を第一志望にしたはずなのに。会社の中で蜂やゴキブリと戦い各部署の雑用を押し付けられお茶を配って歩く。そんなモブキャラになりたかった。


勇者なんて花形にはなりたくなかった。だって俺は、あくまでただの人間なんだから。全然勇気を持った者じゃないから。


食堂の今日のランチプレートに盛られたカレー味のマカロニサラダをつつきながら俺はため息をついた。


食堂のオバチャンの創作意欲は買うけどあんまり美味しくない。昨日のカレー味の豆腐なんて嫌がらせの域だった。どうせなら素直にカレーライスを提供してくれないかな。



「小学校にティラノサウルスが紛れ込んだ!勇者!!!」


「それ狩人の仕事じゃねえの!?」


「あほ!六メートルを越えたら勇者の案件に決まってんだろ!」



仕事にいかなきゃ行けないとなるとカレー味のマカロニサラダが急に美味しく感じながら。仕方なく席を立った。じゃあな、マカロニサラダ。二度と会いませんように。



「で?何メートルよ?誰連れてけんの?」


「七メートルだから一人で行って。」


「ハイハイそうですか!逝って来ます!!!!」



情に熱い上司に送り出され。勇者のマント(炎に曝されても燃えないだけの優れもの)を羽織って聖剣と盾を手に…あれ?盾がない。



「盾は?」


「点検出してる。」


「予備は?」


「壊れた。」


「俺は?」


「…死ぬなよ。」


「………うん。」



2XXX年。日本の勇者のあり方について皆で異議を唱えませんか?

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