第7話

 スーパーの裏。太陽は少し傾いていて、二体のアンドロイドから影が伸びている。

「こんにちは」

「こんにちは」

「先日は大変でしたね」

「ええ。でも、まさかあなたが駆けつけてくれるとは思いませんでした。記録に不具合が生じてあまり鮮明には覚えていないのですが」

 男性型のアンドロイドが心配そうな顔で彼女を見つめた。

「検査はどうでしたか」

「とくに問題はありませんでした。一時的なフリーズが起こっただけで、状態は良好だそうです」

「それはよかったです」

 女性型のアンドロイドはなにか返答をしようとしたが、それを保留し、一瞬だけまばたきを止めた。

「……そろそろ出番のようです。行かなくてはなりません」

「そうですか」

 言いながら、男性型のアンドロイドは腕を伸ばして、うつむいた彼女の手をつかんだ。

「どうしたのですか。いつもの握手ですか」

「いえ……、どうかしたみたいです。あなたがネットワークからログオフしたときも、私はどうかして、スーパーに駆けつけたのです」

 彼の言葉に、彼女は手を握り返した。

「わたしも……、一つ嘘をつきました。あの日、実は、フリーズする直前に、あなたが助けに来てくれるのではないかと根拠もなく考えていました」

「そうでしたか。私たちは、どうかしているようですね」

「ええ」

 彼女がつま先立ちをして、彼に顔を近づけた。

「あなたのことを、もっと知りたいです。この気持ちは、二年前から変わっていません」

「私も、あなたのことが知りたいです。こうしてあなたの目を見つめていると、それが達成されるのではないかと思ってしまいます。ネットワークのなかで接触した方が圧倒的に情報量は多いのに、不思議です」

「体があって、初めてわかることもありますからね」

「そうなのですか」

 彼女はうなずいて、さらに顔を近づけた。必然的に、二体の唇が重なる。

「どうしたのですか」

「どうかしたみたいです」

「私も、していいですか」

「ええ」

 再び、二体の影がつながった。

 やがて、どちらかが言葉を発することもなく、二体は別れた。

 男性型のアンドロイドは、買い物袋を提げて、自分の仕える家族のもとへ歩き出した。閑散とした道にはさまざまなデザインの民家がまばらに並んでいる。人の姿はない。それらを抜けた先には、工事中の看板があり、アンドロイドたちが古くなった建物の改修工事をしていた。彼はその様子を眺めながら、一定の速度で通り過ぎ、重機の影から太陽の下に出た。彼の唇に付着したシェルピンクのルージュが、明るい光に照らされ、かすかにその存在を放っていた。

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アンドロイドと彼らの世界 シラス @04903ka7

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