壱章 其の肆 空の吸血鬼

「────槍?」


このあかと黒で出来た物体に、

僕は疑問系になってしまった。


「槍だな」


「これが、見せたかった物?」


「まぁ、そうだね。君みたいな奴は、

こういう封印されてる風な物好きだろ?」


確かに否定しない。

否定しないが、


「これ、お前が用意した?」

 

「何で?」


「だって、こんな形状の槍。本物っぽく

ない、というか神社より教会とかの方が

似合わねぇか?なんか場違い感が

あるっつーか....」


特段槍の形状に詳しいわけではないが、

それでも、風貌は海外っぽい。

いや、というよりもコスプレ館とかに

置いてそうなグッズの方が適している。

僕の感性には古めかしい神社に

中々似合わない造形だと思うのだ。

それは目測2メートル程で、末端から

先端近くまで、2匹の黒龍が交互に絡み

まるで螺旋階段のような捻れている。

先端はそこから二手に別れ、それぞれが

もりのように棘がついていた。


「大丈夫大丈夫。君を騙す為に

わざわざこんな物を用意する程僕も

暇じゃないから」


言って、東雲は紙で出来た囲いの中に

片足を突っ込み、あか黒い槍を持ち上げる。


「おおっと、重いな結構。樹くん、ほら

証拠代わりと言ったら何だけど、刃先の

部分を触ってご覧」


言われた通り緋黒く輝く刃先を、

指でなぞるように触れてみる。ゆっくりと。

本物だった時のための保険として。

結果から言うと、その保険は無意味だった。

それは贋作という意味ではなく。

本物。限りなく恐ろしく本物であった。

切れたのだ。僕の指の表皮が。


「っ...!?うっ、そ?マジでガチじゃんコレ」


「マジでガチって、重複してるよ。ともあれ

分かったろう?本物さ。それも斬れ味抜群のね。凄くない?」


確かに凄いと納得してしまう。

武器なんて映画や漫画ぐらいでしか

見た事なかったのに、本物の槍が近所に

ある。それも錆びずに斬れ味を落す事なく

現存してるなんて、


「あ、そうそう。斬れ味良すぎて

傷口治るの遅いと思うから、血ごと舐めな。

回復早いから」


「え?なんか、それ大丈夫?怖くない?」


「大丈夫だって、ほら動物なんかが傷口に

舐めて治療しているだろう?唾液内には

細胞間を繋ぎ合わせて傷口を治すタンパク質

があるからある意味天然の薬ってわけさ」


「そ、そうか」


博識だな、と思いつつ僕は言われたとおりに

傷口を血ごと舐めとる。ゴクリと飲んだが、

口の中に鉄の嫌な味が広がっていく。


「うげぇ、不味いなぁ」


東雲は黙って僕の姿を見ていて、

ニヤリと笑った。


「汚いねぇ、樹くん」


「はへ?」


予想外の言葉に馬鹿みたいな返事を

してしまった。


「別に唾液が傷口に当たれば良いんだから、

舐めとらずに、垂らせば飲まなくていいのに」


「いや、えええ!お前が舐めろ言うたやん!」


弐.


そこは、狭間。

ただ真っ白で何処までも続く空間。

そんな空間に在し、座位ざいしていた存在。

黒い羽織りの真ん中に十字を

刻んだ花柄和服姿の男がただ1人。足を組んで

薄ら笑いを浮かべて呟いた。


「これは珍しいっすね」


参.


僕達は取り敢えず、歌舞伎山神社を

後にして、帰った。正直もうちょい

見たかった気もするが、


「もうそろ帰ろう。流石に神社の所有物を

これ以上好き勝手にするとバチがあたり

そうだからね」


「勝手に槍を持ったお前が言うか?」


「あははー、そりゃそうだ」


というような会話を交わして、

帰る事を決意したわけだが、僕はバチ

というより当然だけれど、神社の人に

見つかったら怒られそうという気持ちで

早々に山を下って家に帰ってきたのだ。


「ただいまー」


おかえりーと、リビングの方から

返ってくる。靴を脱ぎ捨て廊下を歩きながら

制服を脱いでいく。いつものルーティーン。

リビングに着くと、それはまたいつも通りに

妹がスマホの画面を弄りながら、ソファで

寝転がっていた。


「あれ?そういえば親父は?」


「うーん?父さん今日からイギリスに

旅行だってさ」


「は?」


「いやだから旅行だって」


「旅行?.....ていうか、

そんな事言ってたっけ?」


「いや私もさっき連絡きたから、

知っただけ」


まぁ、なんとも自由人である。

毎度の事だけれども。

我が父、間藤要まとうかなめ

自分の事を世界一の自由人と称しており、

過去には急に『アメリカ行くぞ!』と言って

学校を休んで本当に一緒にアメリカに行ったり、『今日は山だな』とか突然言って本当に

行ったりと、称するに値する自由人であった。

正直本当の所なんの仕事をしているかも

分からないし、突然いなくなっても、

実際不思議ではない。


「いつものか」


「うん。いつものだね」


そうこの程度でそれほど動じる家族では

ないのだ。僕はそのまま脱いだ制服を

洗濯物の中に入れて、自分の部屋に向かい

閉じこもる。


肆.


あれからルーティーンに等しい、

飯食う→風呂→勉強の一連の作業を

終えて、あとは寝るだけになったので、

その間特にする事もないし、椅子に座って

スマホを弄っていた。そんな時間。

とある金髪から通知がきた。


「ん?東雲からか」


タップして東雲とのトーク画面に移る。


『よー!樹くん😎調子はどうだい?🤔

どうせ明日暇だろ?ゴールデンウィークだし僕は暇だから明日どこか遊びに行こう🎅』


暇と決めつけるなよ。暇だけども.....

にしても最後のサンタはどういう意味だよ。


『ああ、良いけど何すんの?』


そう打つと

すぐに既読がついて返された。


『カラオケ🎤ゲテモノ料理巡り🔪道場破り🥋この三選から選びたまえ^_^』


『後半二個を選択すると?というか道場破りってどういうことだよ!』


『じゃあカラオケ決定ね。それじゃ明日

要和駅前11時でよろしく』


さらっと道場破りには触れられなかった...。


トーク画面を閉じて、ベットにスマホを

投げた後に自分もベットに飛び込んだ。

そこら辺の記憶で今日を終える事になる。


........。


・・・・・・。


・ ・ ・ ・ ・ ・。


夢を見た。起きた時には

それが具体的に何を見たのか

忘れていたんだけども、何故だか血の匂いと

あの槍が脳裏に離れなくて


伍.


要和ようわ駅前広場──。


要和町。特段田舎とまでもいかないが、

都会とまでも言えない。中途半端な街の名を冠している駅だけれども、当然のように

要和駅自体簡素な建築物で利用者も

少ない駅だった。そんな駅前広場

木が数本にベンチがあるぐらい。

これだけ聞くと基本的にはなんの魅力も

ないと言われるかもしれないが、

逆に人が少ないお陰で地元民の殆どは

『要和駅で待っている』と言われれば細かい場所を言われなくても一目で分かってしまうという利点もあった。


そんな場所でとある金髪の有る男は

背中を白い四角柱に預けて、

周りをキョロキョロと見渡していた。

東雲花蓮──アロハ長袖ver.

つまり僕なんだけれど。


「あれぇ、おかしいな。あの時間厳守男が

待ち合わせ時間を10分も過ぎるなんて」


周りを見てみるが、居る者と言えば

腰が曲がったおばあちゃんに、なんか痴話喧嘩しているカップル。『誰よこの女』という

なかなか昼ドラ的な台詞が出てきて多少

興味深いが、触れないが吉だろう。


後は通行人がチラホラ。

だけ.....いや、対面の柱にもう1人居るのを

忘れていた。白い髪をオールバック状に

かきあげている男。俯いているので顔は

よく見えないが、全体的に華奢な体躯だけれど、なかなか目立っていた。ダボダボの服に

金色のアクセサリーが数個首から

吊るしていて、ポケットに手を

突っ込んでいる。


(アルビノかな?あれは。いや、にしては

肌を見せすぎてるか)


樹君を待ちながらそんな事を考えていると

対面に在する男が、背にしていた柱から

離れて東雲の方向に向かってきた。


実際僕の背後方向には改札口があったし、

こちら側に歩いてくる理由はあるわけで、

気に止めなかった。そいつが眼前に

止まる前までは。


・・・・・。


「.....何か用ですか?」


「用だッて?そりゃあ決まッてるじゃあ

ねェか......」


「僕にはなんの用事か分からないの

だけれど」


数瞬間を開けた後、俯かせた顔を

上げて白髪は言い放った。


「待・ち・あ・わ・せ」


──────え?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空の吸血鬼 @Kara3313

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ