異世界転生ものの枠組みを巧妙に利用し、ノイズをはじめとした前衛音楽を魔物と戦い民衆を統べる手段として大々的に取り扱う、という野心に満ちた本作。
「前衛音楽」という言葉にピンと来ない人もなんら問題なし!振り切ったケレン味が炸裂するドライブ感とキレのある笑いに満ちており、ノリは極めてライトと言えよう。そんな中でも引き出しの広さを否応なしに感じさせる言葉選びが、既存のライトノベルとは一線を画す読み味を演出している。阿呆だけど憎めない音楽馬鹿の主人公たち、ノイズバンド「毒人参(ヘムロック)」連中の愛嬌にはいつしか笑いを超えた癒しすら覚えるようになるはずだ。
そして「前衛音楽」という言葉にピンと来た同好の諸君は、著者の音楽~アートに対する造詣が存分に発揮された膨大なパロディに舌を巻き痺れるだろう。なんせノイズのみならず、パスコアールも、足立智美も、Pierre Bastienのメカニウムも、あれもこれも出てくる前衛音楽博覧会たる様相なのだから。
そして両者とも、定期的に挟まる閑話にて解き明かされる元ネタの音楽を狂ったように漁り、未知なる音楽の沼へと溺れゆくハメになることだろう(希望)。
実際に前衛音楽家だという稀有なあなたや、自分の音楽が世界一なハズなのに認められない苦悩を抱えるあなた、いや音楽だけでない全ての創作者、あなたにも強く推薦します。ゲインをあげろ、ノイズで踊れ!