Gain 32:Zones of Influence

 ノイバウテンの情報提供により、この辺りを統べている七樹魔聲卿ヴォイス・オブ・ザ・セブン・ウッズの一柱、名前は不明だが、そいつが遺跡の一つに拠点を持っているということがわかった。


「よっしゃさっそく行こうぜ!」


「さっそく行こうぜじゃあないわよ、相手は七樹魔聲卿ヴォイス・オブ・ザ・セブン・ウッズよ、ミントンやオスタータグも一筋縄ではいかないような強力な敵だったじゃない。」


「大丈夫っしょ。そいつらより俺たちのほうが強えし。」


「こいつがリーダーで本当に大丈夫なのか心配になるわね。」


「まあ僕も体力回復して魔力充実しているし、スグに向かうでも全然いいけどね。」


「相手の特性を知るとか、対策とかしなくていいわけ?」


「ケツにギターぶっ刺せば死ぬっしょ。」


 そんなひどく雑な作戦を立てて一同はさっそく遺跡に向かうのだった。馬で林道を抜けていき、途中男三人で立ちションをしたりなどして、何ごともなく進んでいく。うららかなお昼時、ツカサはあくびをひとつした。


「驚くほど魔物に襲われないわね。」


「おかしいですね、七樹魔聲卿ヴォイス・オブ・ザ・セブン・ウッズがいる地域の魔物は凶暴で人を食い散らかしていると聞きます。このあたりも危険で多くの人や兵が殺されていると街では専らの話です。」


「僕もそう聞いたからちょっとおかしいよね。それに森で襲ってきたやつの話からするとむしろ僕たちのことをかなり積極的に狙っている様子だった。」


「あいつら、間違いなくビビってるね。」


「ツカサ、あんた脳みそ軽すぎでしょ。」


 そうこうしているうちに遺跡が見えてくる。

何の遺跡かは判然としないが、街の古い建物と同様に石を積んだ特殊な建築様式で造られている。エントランスと思われる回廊を抜けて進んで行くとずいぶんとひらけた部屋へと出た。


「おやぁ、わしが会いにゆく前にそちらから出向いてくれるとはのう。」


 その声の主、部屋の奥、玉座に座る老人の姿をした魔族が頬杖をついている。

ただそこにいて飄々とした態度を取っているのも関わらず、常人であれば一歩でも踏み出せば一瞬で殺されてしまうという気合が空間に漲っている。

間違いがない、七樹魔聲卿ヴォイス・オブ・ザ・セブン・ウッズである。


「どうせわしが殺すのだから余計な犠牲を出しとうなくて、魔物たちにおぬしらへの襲撃をせぬよう言うておいたが、こうも簡単にここまで来るとは、よっぽど自信があるのか阿呆なのか。まあ、両方かの。ミントンとオスタータグを倒したことでおぬしらも酔っぱろうておるのじゃろ。」


「ハッハッハッハッ、さっさと終わらせてもらうぜ!行くぜぇ!

俺たちのライヴを聴いて、踊って死ね!」


 ツカサがギターを構え、叫びだす。

それに合わせてアヤカとユメタローも各々楽器を取り出し演奏を始める。


「こりゃあ、なるほど、危険な能力じゃ。じゃが……。」


 次の瞬間、演奏はピタリと止む。

いや、毒人参ヘムロックは演奏を止めたわけではない。

今もなおアツい演奏を繰り広げている。

しかし、音は聴こえない、ツカサの叫びも消え、完全な無音である。


「音というのはのう、振動なんじゃ。

わしはちょいとばかし振動には詳しくてのう。」


 老人の姿をした魔物はまっすぐに毒人参ヘムロックへ視線を向ける。


「おぬしらの音は全てかき消させてもろうた。」


「!?」


 ツカサが何かを言ったがその言葉は虚空に消え、アヤカとユメタローがツカサに何を叫んだが誰の耳にも届くことはなかった。

マズい。相性が悪すぎる。

誰もがそれを背中に走る悪寒で感じた。

半分パニックになったツカサの手を取りアヤカは逃走の構えを見せた。

その瞬間。

ツカサは激しい衝撃を頭部に感じて耳、鼻、口、目から血を吹き出し、仰向けに倒れそうになった。アヤカは急いでそれを支えたが、ツカサの体は痙攣しており尋常の様子ではない。


「みなさん!僕から離れないでください!!」


 ノイバウテンが後ろから飛び出し素早く詠唱を行い光の玉を放つと、それが彼と毒人参ヘムロックの四人を包み込む。そして不思議な魔法陣が周囲に現れ、彼らの体がまるでグリッチノイズのように歪む。


「む、転送魔法か?」


 瞬きののち、気付くと一行はカレントの街の入り口に放り出された。


「痛て……、ここは?」


「これは!?この移動は、あなたがやったの?」


「はい、僕の切り札です。しかし今はそんなことよりツカサさんを!」


「そ、そうだった、回復魔法をかけるよ!」


* * *


「ちっくしょう!あのクソジジイ、一体何をしやがったんだ!」


 ユメタローの回復魔法を受けてから数時間後、意識を取り戻したツカサが、為す術もなくやられた悔しさに耐えきれず叫ぶ。


「何をされたかはわからないけれど、どうやら頭部にダメージを負ったようね。脳へのダメージもあったようだから、あとちょっと回復が遅かったら障害が残っていたかもしれないわ。」


「げえ、マジかよ、洒落にならねえ!」


「脳がダメになってもツカサの場合何も変わらなそうだけどね~。」


「聞き捨てならねえ!」


「まあまあ、とりあえずこのまま戦いを挑むのは分が悪いわ。まず私たちの演奏が無効化される、そして離れた位置のものに攻撃を加えることができる。それだけでもヤバいのに、それもやつの能力の一旦に過ぎないとしたら、何の対策もなく戦えるような相手ではないわ。」


 まさか自分たちがここまで手も足も出ないとは考えていなかったようで、三人は黙り込んでしまう。あの脳天気なツカサですら軽口を叩けないようであった。そこに口を開いたのはノイバウテンだった。


「みなさんの音楽、というやつは道具や声で音を出して大道芸をするものだというのはわかったのですが、それが封じられたということは、やつの能力が音かそれに準ずるものであるからではないでしょうか。」


「ガキのくせに難しいことを言うんじゃねえ!」


「あの感じだと、音か、振動を操る能力かもしれないわね。」


「ええ、僕らの天敵じゃないか!ツカサの能力は完全無効ってことだよね。」


「え、俺の能力が効かないのか!?」


「音が鳴らせないんじゃあね。私とユメタローは戦えるけれど、それでもツカサの能力強化がないとなると、何処まで通用するかわからないわね。」


「加えてあの遠距離攻撃だよ。ツカサが受けた攻撃は恐らく、強い振動を頭部に直接送られて、短時間でしこたまシェイクさせられた、って感じなんだと思う。」


「なんなんだ、難しい話は判らねえぞ!」


「何も難しい話はしていないわよ!とにかく、防ぐ方法を見つけないと全員振動で脳が破壊されて殺されるってことよ!」


「なんだそれ怖え!あいつ倒すの諦めて他のやつ倒しに行こうぜ……。」


「めちゃくちゃ情けないわね!でも対策が練れない限り、その作戦でいくのもアリかもしれないわね。悔しいけれど。」


「待って下さい。ツカサさんの能力が通じれば倒せるかもしれないんですよね?だったら方法があるかも。」


「それだけじゃないよ、結局相手の攻撃を防ぐ方法がないのも問題だと思うな~。」


「避けられねえかなぁ。」


「あの能力がどういう作用をしているのかわかれば防げるかもね。」


「ノイバウテン、どうなの?」


「すみません、攻撃を防ぐ方法はわかりませんが、ツカサさんの声をあの中で響かせることはできるかもしれないんです。」


「なに!それはいったいどんな方法だ!?」


「拡声器です。それもただの拡声器ではありません、邪竜の骨で作った拡声器、それは音を大きくするだけでなく、深層心理まで響くと言われています。その邪竜が悪ければ悪いほど、その効果は増すと伝えられているのです。」


「邪竜の……骨!」

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