Gain 31:No No Boy
「うおお、すげえ街だな!同じ水辺の街だったアラン・ラムに比べると随分プリミティブだが、そこがいい!」
「建物がみんな低いのがなんだか良いわね、空が広く感じるわ。」
その話を聞いていた船乗りが言う。
「この街は昔の寺院の遺跡を中心に発展した街でな、その寺院よりも高い建物を建てちゃいけないってルールなのさ。だから建物が全体的に低い。高くても2階建てなんだ。」
「へえ~、建築法があるんだね。そっか~、その寺院も見てみたいな。」
街は長い歴史を持っているのが古い建物も多く混じっているけれど、レンガ造りの建物はがっしりとしていた。歩きやすく均してはあるものの、あまり舗装されていない地面は砂埃を立てている。街路樹が並び立ち、街中は植物が豊富に生えている。
「そう言えばノイバウテンがこの街に来た目的ってなんだ?親に会うとかか?」
「ううん、僕には親はいませんから、単純に世界中を旅しているだけです、仕事をするにも僕みたいな子供を雇ってくれるような方は滅多にいないけれど、乞食をするには少しはお金を貰えるんですよ。僕は魔法がちょっとだけ使えますから。見世物程度に」
そう言ってノイバウテンは光る玉を出現させて、それを左右に動かしたり、頭の上で円を描いて回したりした。
「ま、これくらいしかできないんで実用性はないんですけどね。」
「魔法ってのはこの世界でも珍しいのか?」
「この世界ではって……、変な聞き方をするんですね。そうですね、基本的に生まれながらの才能がないとダメです。魔法が使えない人は使うための器官がそもそも存在しないと言われています。なので、魔法を使える人間は重宝されて、ちょっとだけ普通の人間よりも優位な立場の人が多いです。」
「魔族も魔法が使えるわね。」
「そうですね、魔族と人間は似ていて、基本的な部分は同じで、魔力をより多く持つ種族と言った感じです。」
宿屋は長く大きくて、中庭には大きな池があり、蓮の花のようなものが咲いていた。四人は少し広めの部屋に通される。楽器を部屋の隅に置いて、水差しから少したらいに水を注いで、手や顔を洗った。たった少しの時間だけで、砂埃が顔面に付着していたとみえて、水はすぐに茶色くなってしまった。それを窓から庭に捨てて、人心地ついた。
「ちょっとわたし大浴場に行ってくるわ。」
「そっか、俺はちょっと寝るわ。」
「僕も疲れちゃったからそうする~。」
「え、そうなんですか?じゃあ僕は街の様子を見てきます。」
「気を付けて行くのよ。じゃあ私も行ってくるわね。」
「ほいほ~い。」
そう言って二人は部屋から出て行く。ユメタローとツカサはベッドでゴロリと横になると、互いに目を合わせる。
そう、疲れたなぞ嘘である。この宿の作りは先程ロビーの地図を見て把握していた。女性用大浴場は中庭に隣接している。そしてその壁は、少し高い木の板によって仕切られているだけである。
「アヤカが風呂なら俺たちも行くべきところがある。そうだろ?ユメタロー!」
ユメタローがニヤリと笑う。
「ああ、そうだとも!」
二人は勇んで中庭へと向かうのであった。
* * *
「ただいま~。ってツカサさんとユメタローさん、血まみれじゃないですか!大丈夫ですか!?まさか魔物に襲われたとか?」
「ええ、そうよ、だから気にしなくていいわ。」
「う、うう……、魔物よりも、恐ろしい……。」
「うっさいわね、ちんこぶった斬られなかっただけマシと思いなさい。」
ユメタローの方は完全に気を失っているようで、微動だにしない。
「あの、ユメタローさん、動かないですが死んでないですよね?」
「まあ大丈夫でしょ。さ、気にしてないで寝るわよ、昨日の今日の船旅で、森を抜けたときの疲れが取れたわけでもないし、体力を回復させなきゃ。」
「は、はい……。」
* * *
翌朝、食堂で四人揃って食事をしていると、ノイバウテンが口を開いた。
「お兄さんたちさ、本当にあの大道芸人なんですよね?」
「ん?なんだやぶからぼうに。」
「
「ああ、そうだ。ヘッドフォンのためにな。」
「あんたね、マジでヘッドフォン頼むつもりなの?」
「僕は魔族に両親を殺されているんです。だから、お兄さんたちが本当にその大道芸人なら、お願いを聞いて欲しいんです。
「……両親の仇ってわけ?」
「ガキ連れて魔族退治とか危なくて連れて行けねえよ。」
「自分の身は自分で守るようにします。だから、もし
「へー、なんで知ってるの?」
「それは昨日街で聞いたから。」
「それなら僕らはキミを連れて行かないように自分で情報収集することもできるね~。」
そう言われてノイバウテンは悔しそうにユメタローを睨む。しかしユメタローは意に介さず、朝からTボーンステーキにかぶりついている。
「何故ついてくることにこだわるの?街で討伐の報告を待つのではダメなの?」
「止めを刺したい。」
「え?」
「僕の母親を、父親を殺した魔族、そのボスだ。僕は心の底から憎んでいます。だから、僕の手でその生命を奪いたい。」
子供とは思えないような強い意志を湛えたその目付きにツカサは少し身震いを覚えた。どれほどの深い憎しみをその身に隠しているのだろうか。ノイバウテンは吹雪の中の鋼鉄のように冷たく重苦しい雰囲気を放つ。
「ノイバウテンくん……。」
「正直さ~、僕はツカサとアヤカ以外の人はね、誰が何人死んだって良いんだ、な~んにも気にならない。そういう人間だからね~、僕は。」
ユメタローはワインを飲んで口元をナプキンで拭く。
「でもさ、ツカサやアヤカは優しんだよ、そう、例えば子供が命を狙われたら、もしかしたら身を挺して守るかも知れない。特に僕らはこの世界に来て力を手に入れて調子に乗ってるからね~。それで油断して死んじゃったりもするかも知れない。」
ユメタローはあくまで笑顔を崩さずに鋭い目付きをしているノイバウテンに言う。
「そうなったら僕はきっとキミを殺すよ、ノイバウテンくん。」
「ゆ、ユメタロー!なんてこと言うのよ!」
「逆に言うと、ツカサやアヤカが彼を護らず自分の命を優先してくれると約束してくれるなら、連れて行ってもいいと思ってるよ。」
「僕は自分の身は自分で守ります。」
「い、いや、ダメだろやっぱり子供を連れてくとかできねえ。」
「今朝、実は僕も早起きして街で情報収集をしてたけど、
「え、でもノイバウテンくんは……。」
ノイバウテンは居心地が悪そうに額に冷や汗をかいている。
「彼は、嘘をついてるよ、理由はわからないけどね。でも確かなことは一つ。彼の情報がないと僕らは
「……嘘を付いたのは謝ります。その理由は言えません。でも、
「教えてもらおうよ、
選択の余地はないとツカサもアヤカもわかっている。
「僕は両親が死んだ時にたまたま命があっただけ、拾った命です、だからそれが消えたって構わない。だから、話を聞いてください。」
アヤカとツカサはお互いに目を合わせて諦めたように答えた。
「わかったわ。教えて、
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