Gain 29:You Think You Really Know Me
さて、遭難少年ノイバウテンと共に森を歩くこと二日、虫に食われ、寝づらい日々を送り、川で入浴しているアヤカの裸を三人で盗み見るなどしているうちに、彼らはすっかり仲良くなり、旅の道連れが増えりゃ楽しみも増えるもので、つらいなりに楽しい道行きを続けていたらついに村が見えてきた。
「うおー、やっと、やっと着いたぞ!もう二度と森なんて旅しねえ!」
「僕ももうこりごりだよ。乗り物って最高なんだな。」
「だらしないわね〜、でも川があったのは不幸中の幸いだったわ、あれ以上体を洗わずに旅をしたら、自分の臭いで気が狂ってたろうし。」
「毎日疲れたけど、僕は遭難したおかげでみなさんに会えたので、ちょっと良かったなって思ってました。」
「そういえば、ノイバウテンはこのあとどうするの?」
「僕は船に乗ってカレントの街に渡る予定です。」
「あら、それなら私たちと目的も同じだし、一緒に行く?旅は道連れって言うでしょう。」
「え、良いんですか!?」
「うん、もちろん良いわよ。」
「うわー、ありがとうございます!」
そう言うとノイバウテンは無邪気な笑顔を咲かせて、アヤカに抱きつく。その絶妙な背丈から、ちょうど顔の位置がおっぱいの位置になっており、ふかふかと顔を埋めるのだった。アヤカは微笑むと子供をあやすように彼の頭を撫でた。
だが、それを見て男連中はメンチを切っていた。ダウナーでクソ度胸で戦いも強いアヤカは、それに比して非常に可愛らしい容姿であるので、男連中としても結構花のある旅ができて嬉しいし、ラッキースケベなどもたまに発生し、ちんちんがイライラするなどして楽しい日々を送っているのだが、最近のノイバウテンの無邪気さを装ったセクハラに男二人は、醜い嫉妬と羨ましさではちきれそうになっていた。
「あのガキゃ、またアヤカのおっぱいに顔を埋めて、その敏感な頬で双丘の柔らかさを堪能してやがる!」
「ツカサ、あの子は危険だ。この調子だといつか何かしらの理由をつけてアヤカの乳首をチュパるかもしれない、そんなのは、僕は許せない!羨ましい!」
「わかるぜ、俺だって、アヤカのおっぱい触りてえよ!でもそれは大人としてできねえだろ!ある程度、こう、特別な関係にならねえとよ!」
ツカサは結構ピュアであった!
「よお、アヤカ、そのあのよ。」
「ん?どうしたの、ツカサ?」
「おっぱい触らせてくれねえ?」
しかし堪え性がないツカサは思わず自分の欲望をさらけ出し、直談判をした。
返答は肘であった。
顔面へ飛んできた肘に鼻の骨はひしゃげて折れ、鼻血がとめどなく流れる!
ムエタイが肘を使う理由、それは時に人を殺せるからだ!
「グボォアッ!冗談です!」
「あ、そ。冗談なら良かったわ。殺さずに済んだもの。」
「ツカサ、すごいね〜、エロに素直、猪突猛進。痺れちゃった。」
「あの、感心してないでよ、治癒魔法かけてくれね?失血死しちゃう。」
村は活気に溢れていた。この辺りの町々から湖を挟んだ向こう岸の街への流通はこのレヴィンサインズ村からが主流になっているためか、村といってもかなり栄えており、市場も人の行き来が多い。
また湖は巨大な上に荷物も多い為、定期船はコグ船のようなものが使われる。今日の定期便は終わっているようで、翌日の朝の便に乗ることが決まった。
「あー、今日はベッドで寝れるのか!最高〜!酒も飲もうぜ〜!」
「いいね〜、旅の疲れを癒すぞ〜。」
そんなわけで夜は酒場で飲み食いした。
村の住民に森を抜けてきたことを言うと呆れた顔をされた。
「だってお前、馬車できたらイゼベルから二日くらいで着くぞ……。それをわざわざあの危険な森を通って四日とか五日とか、酔狂もここまで行くとあっぱれだ。」
「ぐぬぬ、エレーの野郎!適当な道教えやがって!普通に馬車で来れるルートがあったんじゃねえか!」
「はあ、まあ、そうよね。しっかり調べなかった私たちも悪いわ。」
と言う感じで自分たちが完全に無駄骨を折って移動してきたこともめでたく判明し、一行はそれを忘れるべく酒を煽るのであった。
「子供はお酒が飲めなくてつまらないでしょう。」
「いや、飲めますよ。ゴクリゴクリ。ほら。
でもあまり好きではないですね。美味しいとは思えない。
サングリアのような甘いやつは好きですけれど。」
「お、いい飲みっぷりじゃねえかノイバウテン!じゃあサングリア頼もうぜ!
おねーさーん、このガキにサングリア一杯〜!」
「はあ、もう、頂きますけど。ツカサさん飲みすぎないでくださいよ。」
「だぁ〜いじょうぶだって。俺、お酒すぐ抜けるし。」
アヤカは肴をつまみながら何やら木を削っている。
「あれ、それって森で手に入れた木材〜?」
「うん、なんかいい感じだったからこれで楽器を作っておこうかと思って。
ウッドベースやアコギ、欲しかったのよね。」
能力『
職人も惚れ惚れするような手さばきである。
「そういえば、オスタータグを相手にしていた時より楽器も減っちゃってたし、確かに補充は良いかもね。僕もそろそろ良いスネアが欲しいな〜。」
「ああ、じゃあ次の街で使えそうな素材を探して作ってみましょうか。」
「やった〜!」
* * *
某所、美しい装飾の施された円卓が一つ、その後ろには神々しい王座がある。
そこに座るものは何者か。繊細な意匠を凝らした神秘的な仮面をかぶる長い白髪。
細かな金細工が施されたローブを纏う者。
「魔王さま。
「ああ、好きに始めるが良い。」
すると円卓のそれぞれの座に黒い影が四つ現れる。
それらは魔王に恭しく頭を下げると、席に着いて行く。
「きゃはは、半神卿は今日も参加していないのねぇ。」
「やつは気まぐれじゃからな、なんぞ遊んでおるのじゃろうて。」
「まったく、不真面目にもほどがありますね。」
「ガッハハ、まあ良いじゃねえかわっちらだけで始めようじゃあねえか。」
彼らこそ
魔王軍の幹部にして各地に散らばり、それぞれの地域を支配し、その威光を知らしめている魔族の中の魔族である。
「
「飛竜卿に続き絢爛卿までもが下されるとはのう。」
「彼らは決して我々の中で劣っていたわけではありません、その心の高貴なるも含めて、魔族の指導者として恥じぬ者たちでした。」
「うんむ、それだけに彼らの死は堪えるな。わっちらの大切な仲間だった。」
面々は神妙な面持ちをし、それらを倒した者への静かな怒りを身に湛えている。
「うんむ、やはり許すことはできねえ。奴らは確実に屠らねばならねえぞ。」
「我々が一丸となれば容易いことですが、それぞれの土地から出るわけにはいきません。と、なるとやはり奴らが現れた地域を担当する者がこれに当たるほかありません。」
「きゃはは、なら実力を示さなきゃあね。なんでもあいつらは恐ろしい身体能力と、無尽蔵の魔力、そして不可思議な音の力で以って彼らを倒したらしいわよぉ〜。」
「魔力と身体能力に関しては、それだけならワシらが負けることなどありゃせんとは思うが、この音の力と言うのが気になるのぉ。魔物も人も狂気に溺れ、力を解放し殺し合い、はたまた行動力を阻害され、実力を発揮できぬようになるとか。」
「んん?音か。じゃあもしかしてあんさんの敵じゃあねえんじゃないのか?」
「キッチッチッチ、なんじゃ、わかっておるじゃあないか。なあに安心せい。飛竜卿と絢爛卿の仇、わしが取ってやろうじゃないか。」
広場の怪しく揺らめくと、四人の影はいつの間にやら消えてしまった。魔王は物言わず、宝石を削って作られた美しいゴブレットでただ酒を飲んでいた。
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