Gain 27:In the Forests, the Animals Are Moving
という事で
森は抜けるのに数日かかるというので、レジスタンスのみんなに必要なものを見繕ってもらい、荷物も増えたが、これで準備は万端だろう。
「街の外の風景も落ち着いて見ると異国情緒溢れてて、けっこういいわよね。」
「いや、俺体力ないからもう風景とか見てないわ……。」
「ツカサはあんだけライブで暴れられるのに、なんでそんなに体力ないの~?」
「いや~、多分ライブんときはアドレナリンがドバーっとでていて、限界を超えてても気づいてないだけだと思う……。」
「完全にバカだけれど、ツカサらしいわね~。さて、遺跡に着いたわ。」
遺跡の先には鬱蒼とした森が広がっている。
「こっからが大変そうだね~。」
「よし、行ってみるか!」
こうして
* * *
気付けば歩き通して、三人はいつの間にか会話もなくなっていた。
最初のうちは原生林らしいダイナミックな風景に感動していたのだが、いつまでも続く木々、歩きづらい足場、剣で払わないと進めないような道なき道。
疲れて飽きて、森らしさのあらゆる物が煩わしくなってしまったのであった。
「つ、疲れた。つーか足痛え。」
「魔物が出てないだけマシって感じだけれど、普段慣れない筋肉を使うのか腰とかも疲れてるわね、今日はちょっと早めに休みましょうか。」
「さんせーい!僕もさすがに疲れたよ。」
ということで、まだ日が傾いて間もない時間帯、三人は火が焚けそうなスペースを見つけて腰を落ち着けた。
それぞれ薪を集めて戻ってくると、ユメタローが嬉しそうにキノコを抱えている。
「食べれそうなの色々見繕ってきたよ~。」
「って、お前、この世界のキノコの知識あんのか?」
「元の世界ではキノコ拾って食べるくらいには詳しいからね、僕。」
「へえ知らなかったわ。でも私はいらないから。今日は携帯食だけで済ますわ。」
「俺もいいかな~、キノコって臭くて苦手なんだよな。」
三人は干し肉やクネッケ風のもの食べて、またそれらを出汁にしたスープなどを飲んだ。ユメタローはそこに拾ったキノコを入れてよく茹でて食べている。それがいかにもうまそうで、アヤカやツカサもちょっとうらやましく思ったが、その日はそのまま眠ってしまった。
翌日、再び移動を開始する面々。
「一応毛布的なものに包まって寝たのに背中クソ痛えし、なんか地面の湿気でメチャ寒いし全然体力回復した気がしねえわ……。」
「確かに十全な休息を得たとは言い難いわね。はやく村に着かないかしら。」
「ねえ、僕思ったんだけどさ~、なんでここ原生林なわけ?この先に村があるのに?」
確かにそのとおりである。考えられる可能性は二つ。
「村そのものが他文化から断絶した奇妙な村である可能性。もしくは、これは考えたくないことだけれど、普通に他の街と交流があって、その経路はこの森を避けているだけで、実は安全で楽なルートがあるということね……。」
「は?え?後者だった場合、俺らってもしかしてマイナーで危険な道を選んでいるってことか?」
「それだけだったら良いけれど、この森をわざわざ避けるってことは、この森自体があまり近寄りたくない理由があるってことだよね~。」
三人は沈黙してしまった。
何しろこの過酷な状況、ルートを変えるだけで簡単に行ける道のりがあったとしたら、今のこの苦労はいったい何なのか。
ちょっと不安になってきて三人は黙ってしまったのである。
「いや、でもさ、エレーが言ってたんだし、この道が正解だろ?」
認知的不協和!
人は矛盾する二つの認知を同時に感じると、その不協和を正そうとする心の働きがあるのだ!この場合、険しい道を選んでしまったことと、引き返すには深入りしてしまった自分の現状の矛盾から脱するため、心的ストレスの少ない理解の仕方を選んだのである!
「そうだね!エレーが間違うはずないよ!この道が最善なんだ!うんうん、そりゃそうだよね、エレーはレジスタンスのリーダー、もと領主の娘でこのあたりの地理には詳しいはずだもん!」
「そうだわ!エレーは賢そうな子だったし、意味もなくこんな森を勧めないわよね~!」
* * *
一方その頃エレーはレジスタンスの仲間に
「え、何か変なこと教えましたっけ……。」
「だって、エレーさん。レヴィンサインズ村ってイゼベルの隣町を経由して行くルートが普通じゃないですか。それなら商隊も出てるし、馬車屋のルートにもなってるのに。」
「え!そうなんですか!?地図上で見て直線距離で一番近いので森のルートを伝えてしまいました……。」
「ええ!?そ、それはちょっと。あの森は恐ろしい魔物もいるという噂ですし……。」
「で、でも、彼らなら強いから大丈夫ですよ!うん!修行にもなるはずです!」
こちらも認知的不協和が起きていた!
* * *
さて、そんなわけで意味もなく険しい道を進む
ここまでの道のりは歩きづらかったが敵が現れるわけでもなく、わりと安全な道行きだった。しかるに今はどうにも何者かに見られている、いや、狙われているような気配がする。
「やはり、何かいる気がするわ。」
「え、勘違いじゃね?鹿とかでしょ。アヤカ、ビビりすぎだぜ。」
「うーんでもアヤカが言うなら警戒したほうが良いかもね。」
その時、確かに背の高い木の上を移動する物音が聞こえた。
「う、うお!?猿か!?ま、魔物じゃあねえよな!?」
「ツカサだってビビってるじゃーん。でもここまでこんな音を聞いてないわけだから、それが魔物である可能性は捨てきれないよね。」
何者かが移動する音が聞こえる。しかしその姿は見えない。
「チッ、なんか嫌な感じだぜ、気配だけあって姿が見えないってのはかなりストレスを感じるもんだな。」
ツカサがそう言った瞬間、キラリと光るものが飛んできた。
アヤカは素早く剣を抜くとそれを弾く。
地面に落ちたそれを見ると、まるでクナイのような武器である。
「あ、あぶねえ~、こんなん刺さったら死んじまうよ!」
「やはりこの気配は敵ね。しかも武器を使う相手。」
三人に緊張が走る。みな身構えると、周囲を注意深く見回す。
すると何処からともなく声が聞こえてきた。
「ケッケッケ、お前たちだな、ミントンさまやオスタータグさまを倒したという人間どもは。今やお前たちは我々から命を狙われる身だ。安全な旅などできないことを知れ!」
「くそ!やるしかねえ!ぶっ殺してやるぜ!アヤカとユメタローがな!」
「この木々や枝が伸び放題の環境では、上手く剣を振るえないわ。ユメタロー、範囲魔法で一気にふっ飛ばしちゃって!」
そう言って二人はユメタローの方へ向く。
しかし、ユメタローの様子がおかしい。
「う、がはっ!?こ、これは……。」
ガクリと膝を折ってしゃがんでしまうユメタロー。
「ま、まさかさっきの攻撃を食らったのか!?」
「いや、違う、違うんだ……、だけど、ま、まさかこれは……!?」
「くっ!この魔物め!一体何をしたの!」
「ケッケッケッ……。」
姿の見えない敵、そして未知の敵の能力。見通しの悪く、動きづらい空間という不利な状況での戦いが始まったのであった。
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