Gain 26:Strange Days
日が昇り、人々も帰路へつく。レジスタンスも自分たちの仕事の成功を祝いながら各々の家へ戻っていった。
街外れの旅人用の宿屋に戻ると三人はベッドにうつ伏せに倒れた。
「疲れた~!」
ところで死んだミントンから出現した小さな光が、実は彼ら三人のあとをずっと追っていたのに気付いたであろうか、そうこれはあの予兆である。
その光が一瞬大きく光ったかと思うと、目の前には人の身長ほどの大きな姿見程度の光の窓のようなものが開いており、その先には女神がいた。
「うわっ、眩しくてびっくりしたぁ。」
「お久しぶりですねみなさん。」
「あ、あんたは!?たしか……。」
「最後にヴィが付く人よね。」
「EL VYじゃなかったっけ。」
「そんなインディー・ロックアーティストのコラボレーションみたいな名前ではありませんよ。私は女神オクタヴィ。息災で何よりです、ユメタロー、アヤカ、アツシ。」
「ツカサです。」
女神オクタヴィは満足そうに深く頷くと言葉を続けた。
「まさか絢爛卿ミントンを倒すとは思っておりませんでした。てっきり負けて死んでしまうものだと思って、新たな転生者を探しておりましたところです。」
「こいつ、なんか酷いこと言ってねえか?」
「私たちの実力をあんまり信用されていないみたいね。」
「僕たち色々冒険したんだよ、砂漠で古代の兵器に遭遇したりさ。」
「古代の兵器、ですか。なるほど。」
「お、何か知ってる感じか?」
「いえ、それはいずれ自分たちで知ることになるでしょう。」
「何か含んだわね~、伏線なの?」
「そういうメタ的な発言は控えて下さい。」
女神は迷惑そうにそう言うと咳払いをして、本題を話す。
「二人目の
「ちょっと待てよ!!」
ツカサは真剣な面持ちで叫ぶ。
誰もがその切羽詰まった声に緊張し、その顔を見る。
「報酬はCDプレイヤーにするって決めてたんだ。」
「あなたがちょっと待ちなさいよツカサ。」
「……力ではなくCDプレイヤーを望むと?」
「当たり前だ馬鹿野郎!」
「馬鹿野郎はお前だよツカサ~!
ちょっと女神さん、待ってて!今のなしだからね!」
女神は考え込むようにしながら答える。
「私は人間のその合理性を欠く情動について理解できない部分がある、それが私を人間らしくなくさせていることの一つだと自覚しております。ですから、あなた方が真に望むのであれば、能力よりもCDプレイヤーの方が重要だと私も納得しようと思います。」
「おい~!ちょっと待ちなさい!!」
「そうだ、俺達にはCDプレイヤーが必要なんだ!どうしても!
何故なら俺は、音楽を愛しているからっ!」
音楽を愛している。その言葉にひどく心打たれた女神は、まるで昔のことを回顧するように遠い目をして佇む。そして深く頷くのであった。
「そこまで……。では望み通り、あなた方にはCDプレイヤーを授けましょう。」
その瞬間、Amaz○nのダンボールが光の円から放り出される。
ツカサが中を開けると、果たしてそれはポータブルCDプレイヤーであった。
「ああ、ありがとう、ありがとう、女神さま……。」
「返品!返品よ!」
「ちょっとぉ、新たな能力はどうなるの~!?」
「おや、そろそろ、時間のようです。この世界との繋がりが再び途切れようとしています。三人とも、次も頑張るのですよ。どうかお元気で。」
オクタヴィがそう言うと、光の円はみるみる閉じてゆき、やがて消えてしまった。
「あ、ヘッドフォンねえじゃん!聴けねえ~!!
次回お願いするしかねえか……。」
「ねえツカサ殺さない?」
「いいわね、私もそれを考えていたところよ。」
* * *
翌日、ボコボコにされたツカサを伴い、レジスタンスの基地に赴く三人。
「あら、みなさんおはようござ……きゃあ、ツカサさんどうしたんですか!?
まさか昨日の闘いで負傷を?」
「まあそんなところよ。気にしないでいいわ。」
レジスタンスの秘密基地には昨日の今日で人があまりいなかった、何人かの人がせっせと片付けをしているくらいだ。その様子を見ているとエレーが言葉を挟んだ。
「レジスタンスは今後も魔族の残り火を処理するために活動を続けるつもりです。しかし今日は、みんなにはゆっくり休むよう言ったのですが、何人かはこうやってここに来てくれたんですよ。」
「エレ―ちゃんもここにいるじゃん。」
「はは、そうですね。まあ、私の本当の家は燃えてしまってもうないので、ここが私の家みたいなものですよ。」
「燃えたって、まさか、貴族だったのか?」
「ええ、私は元領主の娘です。両親は殺されてしまいましたが、私は命からがら逃げおおせて、レジスタンスを組織したんです。」
「そういうことだったのね……、ということはあのミントンがいた家はあなたの……。」
「そうです。でもミントンもろとも吹き飛んで、なんだかスッキリしました。」
そういうともともと困り顔の彼女は、嬉しいのか悲しいのかわからないような不思議な笑顔をした。
「……あんまり無理すんなよ。あんたは今日まで十分気張ったんだからさ。」
ツカサがそう言うと、エレーはその表情を崩すことなく涙を流した。
「ありがとうございます……、私は、やっと、やっと家族の仇が取れた……。」
そう言って彼女はさめざめ泣くのだった。
* * *
コーヒーを飲んで落ち着いた彼女を見て、
「次の
「いいえ、信じますよ。アヤカさんやユメタローさんの尋常ならざる強さや、みなさんの人々の心を惹き付け鼓舞する音楽を聴けば、それが真実であると誰もが思います。そうですか、みなさんには女神のご加護があるのですね。」
「それでね、次の目標を何処にするか迷っているのよ、何しろ私たちはこの世界に不案内なので、何処の街がどうなっているかとか、
「そうですね、このあたりは村や街も多いですが、
「森って、この前ベヘモトを捕まえたところだよね、あそこめちゃくちゃ広かったけど、その森を抜けるってそこそこ距離がありそうだね~。」
「あの遺跡の先はほとんど原生林と言っても差し支えないので、馬での移動は難しいでしょう。徒歩で数日かけて抜けることになると思います。」
「げえ、マジかよ。大変そうだなぁ。」
「湖のほとりでは村があります。そこで舟が借りられると思いますよ。森を抜けたらそこで休んでから湖を渡ると良いと思います。」
「詳しい情報ありがと~、なかなか大変そうだなぁ。
とりあえず色々準備してから出発しようかなぁ。」
「人のいない場所を何日も歩くのかよ~、めんどくせえ~。」
「移動に便利な能力を貰えればもっと楽だったかもしれないわね、ツカサ。」
「さあ~、頑張って向かおうぜ~!準備は怠るなよ、みんな!」
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