Gain 25:Total Shit!
夜のイゼベル、それはいつも静かで、平民街の一部の人々が日々の心ばかりの慰めに酒を舐めて、管を巻いている声が漏れ聞こえるだけだ。
貴族街などは森閑とした静寂に包まれており、人通りもない。
魔族たちは酒と快楽の優雅な夜を過ごし、また彼らに迎合した人間もただ眠りがあるだけだった。
「ははは、人間どもの蜂起など結局起こらないではないか。
どうせネズミのようなレジスタンスが十数人ほどのこのこと現れるだけであろう。
取るに足らない、全員バラバラにして金の拷問具に変えてやろう。」
「ミントンさま、さすがですわ。
あなたさまの慧眼と恐るべき力の前では人間などが何をしようと些末なこと。
この街、この地域は長きに渡って絢爛卿の天下となりましょう。」
「ふふふ、判っているではないか。
何だったら欠けた飛竜卿の地も僕が統治してやってもいいぞ。」
貴族街の静かな夜。
欲望と快楽が渦巻く闇の中、いつもは聞こえないなにかの音が聞こえる。
「……せ、……ろ、……せ。」
「ん?何やら外から聞こえてくるな、何だ?」
絢爛卿はベッドから立ち上がると二階の窓から外を見る。
そこには信じられない光景が広がっていた。
静かな夜のはずだった。
燃え上がる家々、逃げ惑う魔族たち。
それを殺す人々の影。
槍の先には魔族の生首や手足が刺さり、炎の逆光を受けて揺れている。
その人影は貴族街の端から端まで届きそうな人数が集まっている!
「こ、これは、これはどうしたことだというのだ!?
何故魔族たる者たちが猿どもに追い立てられ殺されているのだ!?」
人々は火と武器を持って領主の館を囲んでいる。
そして、油を館の周りに撒くと、火を放った。
「……せ、…‥こ…‥せ、ころせ!ころせ!ころせ!」
狂気すら感じる民衆の掛け声が聞こえてくる!
そしてそれを支えるように、重いリフレイン演奏!
エレーは人々を纏めるために声をあげている。
「火を放ち、魔族を追い立てるのです!
ただご自分は怪我のないように!無理をしてはなりません!
魔族は皆殺しにしてください!根絶やしにするのです!!
殺せェエエエエッ!」
「うおー!俺たちの街を返せぇええっ!」
「今なら魔族だろうがなんだろうがぶっ殺せる気がするわ~!」
「血を、血を見せろォ~!!」
人々は渦を巻き、音楽により狂乱している。
巨大なモッシュが起こり、若者たちはダイブする!
「み、ミントンさま!火が!火が!!」
「このクソッタレのゴミ虫どもがぁあッ!!」
ミントンは血管が切れそうなほどの憤怒の表情を浮かべると、魔族の女たちの胸や、頬などを触って歩き、その全員を黄金の像に変えてしまった。
「ひとり残らずバラバラのグチャグチャの肉塊にしてくれるッ!!!」
黄金の像たちは武器に変形し、館の二階部分を吹き飛ばした。
ミントンが黄金の武器に囲まれて現れる。
絢爛卿は金の円盤に乗り、空中に浮きながら彼らを見下している。
「貴様らかァ?このゴミクズを集めてきたチンカス野郎はッ!?」
「おいおい、言葉遣いが汚えんじゃねえのか?ミントンさんよォ~。
テメエのナヨっちい首を、貰いに来たぜ!」
ツカサが挑発するように両手を広げる。
ミントンが右手を前に掲げると黄金の武器は一列に整列する。
「貴様らは必ず殺す!!
だが先ずはこのこ汚い猿どもの数を減らすとしよう!」
その言葉が終わるよりも早く、黄金の武器が雨のように民衆に降り注ぐ。
「残念!
ユメタローの超巨大な魔法の防壁がまるで屋根のように民衆を守る。
黄金の武器はベクトルを操作されて空中に投げ出される。
何度その壁を越えようとしても無駄である、金の剣や槍は民衆には届かない。
「先ずは僕たちを倒さないと指一本触れさせないからね~。」
「この裸猿めが、小癪なァッ!」
ツカサはとことん調子に乗っているので中指などを立ててみる。
「俺たちと踊ってくれよな、ミントン卿。」
「クソカスが!そんなに死に急ぎたいならば望み通りにしてやる!」
炎に包まれる貴族街、家も魔族もみんな焼けていく。
人々はミントンと
炎が民衆の踊りとモッシュ、そしてダイブの揺れる影を浮き上がらせる。
赤と黒のイゼベルの夜、ノイズの轟音が鳴り響く。
黄金が三人へ襲いかかる、それをアヤカが弾く。
絢爛卿は前に出るアヤカへと攻撃を集中させる。
彼女は腰を低く落とし、正確に黄金の武器を破壊する。
飛来する槍を斬り裂き、剣を真っ二つに折る。
「バカな!?僕の黄金を、破壊できるだと!?いったいどういうことだ!?」
「さあね、私も驚きだわ、古代の不思議材質のおかげね。」
「ヴェバアアッ!!!ボボボボボッ!ウペァッ!」
ツカサもテンションが上がってきているようである。
「おいおい、僕を忘れてるんじゃないだろうね~、
魔力の塊が黄金の円盤の下部に集まり、恐ろしい核熱の爆発を発生させる。
円盤は粉々に吹き飛び、ミントンを炎の渦に巻き込んだ。
「あああ、ムカつきが止まらん!お前らの頭をカチ割って中にクソを詰めてやる!」
あれほどの炎を喰らいつつもミントンは無傷のようだ。
やはり
「やはりこのままだと決定打に欠けるようね。」
「となるとやっぱりアレか。」
しかし相談をしている間に絢爛卿は一気に間合いを詰めてきていた。
「娘ェッ!黄金の武器が効かぬなら、貴様自身を黄金にしてしまえば良いのだ!」
ミントンの左手がアヤカに触れようとしたその瞬間!
アヤカは恐ろしく勢いのよいゲロを吐いて、ミントンの顔面にひっかけた!
「ぐわああ!目ェ!!目がァ!!」
「出た!アヤカの十八番!
「ライブで素早く観客に撒けるように練習したわ。」
「こんな、クソ、汚らしいものをよくも僕に……!」
ミントンは顔に付いたゲロを一生懸命に拭おうとしている。
「今です!みなさん!アレを投げるのです!」
「「うおおおおっ!!!」」
その掛け声とともに降り注ぐは大量の糞団子!
それが雨あられとなって絢爛卿ミントンを襲う!
「な、何のつもりだ人間!?糞を、投げてくるだとォッ!?
頭がおかしいのか!?く、臭えッ!!
服に、髪に付く!やめろ!何をしているッ!
それに何の意味があるのだ!?
ウオオオオッ!?」
「効いてるわ!その調子です!」
やがて大量の糞を投げつけられたミントンはその中に埋まってしまった!
実にひどい光景である!
街は燃え、人々は踊り、糞を山盛りに投げつける。正気の沙汰でない!
ミントンはなんとか糞の山から這い出してきたが、非常に具合が悪そうだ。
「ぐ、ゔぉえ……。なんの……つもりだ……?
何故糞を投げるんだ……?」
「今だ!喰らえ!
魔力の巨大な奔流が渦となり、超強力な光線となって放たれる!
「ぐわあああああああッ!!!こんなバカな!!!
僕が、僕がクソ投げ猿どもにやられると言うのか!?!?
そんな、そんなぁあああああッ!!!」
光線の威力は凄まじく、ミントンを、糞の山を、館を、そしてその先の家々を、そしてその向こうの山をも粉微塵に吹き飛ばした。
辺りは灰燼、なにものの欠片も残さず、ただ破壊の痕跡だけが残った。
ミントンは消え失せた。
動く魔族たちもひとりも残っていない。
「やった、やったのか!?」
「あのミントンを倒したのか!?」
「私たち……自由なの?」
人々は歓声をあげ、抱き合う。
笑顔に泣き顔、今まで虐げられた心が解放されたように歓喜の渦に包まれる。
そして吹き飛んで欠けた山肌から朝日が登る。
ツカサはその光景を見て鼻の下を擦る。
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