Gain 22:The Golden Communion
ミントンが振り上げた手を前方へ構えると黄金の剣や槍が一斉に襲いかかる。
ツカサはそそくさと拷問器具の影に隠れるが、ユメタローとアヤカは前へ踏み出す。
ユメタローの強力な魔力の壁は空間を捻じ曲げ、黄金の武器の攻撃の軌道をそらす。
アヤカは目にも留まらぬ剣技で襲い来る武器を弾く。
「ほほう!この物量の攻撃を前に退かず前に出るとは!やるではないか!
尋常ならざる魔力量と超人的な剣技、それが貴様らの特異性か!」
「剣技が得意?違うわ、これは単なる副次的なもの。
私の能力、それは……
アヤカは近くの処刑器具に手を伸ばし、それを軽々と手元に引き寄せると、瞬く間に加工し、一個の音声増幅器を作り上げた!
ユメタローは音声増幅器から伸びる純金のシールドを尻に挟み、魔力を送り込む!
ツカサはギターを音声増幅器に接続すると轟音のフィードバックノイズを放つ!
「行くぜえ!
フィードバックノイズが波のように会場を包み込むと、ツカサは伸びのある声でスキャットを行う。客席の人々や魔族たちは再び体をうねらせ、音に身を任せる。
「む、これは、強力な催眠効果を感じる。
僕ほどの魔力を持つものでも効果を発揮するというのか。」
ミントンはそう言いながら腰を前後にグラインドし、ノッている。
「しかし残念だがこの程度では僕の攻撃の精度は変わらない。」
黄金の武器による嵐のような攻撃を前に、ユメタローもアヤカも防御に徹する。
「く~、攻撃に転ずる隙がないよ~、なんとか一瞬でも相手の攻撃が止まったら良いんだけれど。」
「私はまだちょっと余裕があるから仕掛けてみるわ。」
そう言うとアヤカはトリッキーな動きで攻撃を避け、器用な剣捌きで敵の武器をミントンに跳ね返す。だが、それらの武器はミントンの目の前で停止してしまう。
しかしアヤカは相手の激しい攻撃の隙間を縫って素早く前進し、ミントンを射程に捉えた。彼女は剣を振りかぶり絢爛卿の首を狙う。
ミントンはそれに臆さず右足で地面を踏みつける。
それと同時に魔力の縄がアヤカを捉えて後方に引き戻す。
その刹那、ミントンの右足を中心に地面が黄金化し、恐ろしい量の槍が突き出る。
まるで槍の剣山である。
アヤカは危機一髪のところで後ろへ倒れ受け身を取った。
「あ、危ない~。僕の魔法の縄がなかったら今頃串刺しだったよ!」
「サンクス、ユメタロー!今のは確かにピンチだったわ。油断した!」
「おいおい、あいつ、強くね?」
「ンッン~。この程度か人間。それともオスタータグ卿を倒せたのはまぐれかな?」
ミントンは少し曲がったネクタイを整える。
ノンノットにして宝石のピンを差したおしゃれなネクタイだ。
彼はベストから懐中時計を出すと、それを確認した。
「おやおや、もう
お遊びの時間がなくなってしまった。
うん、そうだな。今回は引き分けにしてあげよう。命拾いしたね。」
懐中時計しまうとゆっくりと
「まあ、でも力のほどは判ったよ。これなら急ぐ必要はあるまい。
また近々命を頂きにあがろう。せいぜいそれまで人生を楽しみたまえ。」
「なんだとォ~、テメェ、俺達はまだやれっぞ!
ユメタローもアヤカも本気出してねえかんな!
おい!聞いてんのかよ、カッコつけ野郎!」
「ああ、そうそう、今日のキミたちの大道芸に免じて、その人間どもは預けてやろう。なかなか楽しい見世物だったからね、会場も大いに盛り上がったようだ。」
そう言うとミントンは葉巻を咥え、指から火を出して煙を深く吸った。
「だが次はない。
僕の見世物を邪魔したツケは今度たっぷりと払ってもらおうじゃないか。」
絢爛卿の鋭い睨みにツカサはビビって人々の後ろに隠れる。
ミントンは軽蔑したように鼻で笑うと黄金の光に包まれ消えていった。
「た、助かったのか?」
人々は警戒しながらも自分たちの命があることを確認し徐々に安堵のため息を漏らした。
「いや、俺たち負けてねえしッ……。負けてねえよなぁ?」
「まー、わりとヤバかったと思うけどね~。」
「あの黄金を操る能力、意外と厄介ね。
あの黄金自体もあいつの能力で強度が増していて、破壊することができないし。」
「手数の多さも威力も半端なかったもんね。
一撃でも食らったらきっと死んでたよ。」
「負けてねえしッ!!」
「わかったわかった。でも次回戦うときは対策しないとダメね。」
そんな問答をやっていると、捉えられていた人々のうちひとり、平民風の服装に金髪をワンレンボブにした困り顔の女性が前に出てきて彼らに話しかけた。
「あの、助けてくれてありがとうございました。私、エレーと申します。
ここを出たら少しお話に付き合って頂けないでしょうか。」
「お、もちろん良いぜ。ま、ここの観客が正気を取り戻す前に退散するか。」
こうして観客がスタンディングオベーションをしている間に、彼らは会場からそそくさとトンズラしたのであった。
* * *
「それで、話ってのは?」
「歩きながら話しましょう。」
そう言ってエレーは複雑な裏道を進んでいく。
「この街は数ヶ月前から絢爛卿ミントンの手に落ちて、今はやつが領主として統治しております。彼の政策は基本的に今までと変わりませんが、多くの貴族はその地位を剥奪されて、今残っている貴族は魔族に迎合した者たちだけとなっています。」
彼女は裏道から裏道へ、どんどん街の奥深くに進んでいく。
「絢爛卿の統治では暗黙のうちに人々は魔族に逆らえぬようになりました。
何をするにも魔族が優先され、人間は多くの場面で人権を失っています。」
「それはなんとなく街の雰囲気から察せられたわ。」
エレーは頷いて先を続ける。
「ミントンはある種の恐怖政治を行っております、それは先に見た拷問処刑です。
あれは彼に逆らったもの、なんとなく気に障るもの、何の理由もなしに捉えられたものが、一週間に一度あのような形で痛めつけられ、殺されてしまうのです。
人々は恐怖して、自分がそれに選ばれぬよう、俯いて過ごしています。」
「街の様子が全体的に暗かったのはそういうことだったんだね~。」
「力も強く、地位も高い彼らに、人々はなすすべもありません。
彼らがその場で死んでみせろと言ったら我々はそれを実行するか、拷問されて殺されるかの選択肢しかないのです。」
「無茶苦茶な話だな、ムカつくぜ……!」
エレーは地下道へ入り、更に複雑な道を進んでいくと、どん詰まりに堅牢な扉が現れる。それを三回、二回、四回とノックすると、覗き穴が開き、声が聞こえてくる。
「エゴを養え!」
するとエレーは答えを返す。
「ウォッカも少し。」
閂が外される音がして扉が重々しく開く。
エレーがその中に入っていくので、
中は非常に広く、テーブルの上には武器、地図などが散らかっている。
沢山の人々が忙しそうに右往左往しているが、エレーを見ると嬉しそうに挨拶をする。
「エレー!無事だったのか!」
「エレー!あんたなら帰ってくるって思ってたぜ!」
彼女はその一人ひとりに丁寧に挨拶を返し、部屋の一番奥のデスクに座る。
造りの良い椅子とデスクから、そこはある程度の権力を持つものの席であることが伺われる。アヤカが訝しげに尋ねる。
「ねえ、ここは一体何なの?それにあんたは一体何者なの?」
「ここはイゼベル解放軍、レジスタンスの秘密基地です。
そして私がそのリーダー、エレーと申します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます